15話 見覚えのある男
村での調査も、暗礁に乗り上げていた。
これ以上は、時間を浪費するだけだと判断した。
フィートたちは村を後にした。
小角たちとは、何かわかれば文を出すと約束し、別れた。
その別れ際――
フィートとベルゼは、奇妙な石を後鬼から手渡された。
「これを……」
「?」
フィート、ベルゼ、フラン、ミラは、初めて見る石にわずかに戸惑う。
「これは……何?」
「勾玉です」
「勾玉?」
「魔除けです。肌身離さずお持ちください――」
勾玉は、呪いへの対抗アイテムの一つだ。
持っていれば、呪術を退ける効果を持つ。
ロッキとサラには渡されなかった――
理由は、すでに呪力耐性があるためだ。
帰りの馬車の中で、
フィートとベルゼは、サラからその効力を詳しく聞かされた。
呪いという術への抵抗アイテム――。
魂の入れ替えも、これがあれば防げる可能性が高いという。
なぜロッキの召喚獣がこんなものを――
誰もが疑問を抱いたが、
――ロッキのことだ。
考えるだけ無駄だと、全員が飲み込んだ。
――――――
村での件から、3日が経った。
事件の真相が見えないまま、
時間だけが過ぎていく。
読心術で見えた――
身なりを整えた男についても、
いまだに、何もわかっていない。
ロッキ、フラン、ミラの3人は、
昨日から任務でシーアに来ている。
そんな折、本部へクライナーから文が届いた。
その中身は――
生存していた動物たち。
全員、死亡――
という報告だった。
何もできなかった無念に、
フィートはその場に立ち尽くす。
その背に、小角が静かに声をかけた。
「おそらく……身体と魂の拒絶、だと思います」
「!?」
「降霊術など、魂に触れる術で最も難しい部分です。
生態系の異なる器が、魂を受け入れず反発したのでしょう――」
「……反発すれば?」
「……魂は消滅します。
それが、あの村で起こったのではないでしょうか……」
「……」
事件は最悪の形のまま進み、
翌日、さらに別の報告が入る――。
人里離れた村に、モンスターが出現。
そこまでは珍しくもない。
だが――
そのモンスターたちは、村を荒らさず、
ただ泣いていたという。
やがて、依頼を受けた冒険者パーティにより殲滅された。
もし――
それが魂を入れ替えられた人間だったとしたら。
あまりにも、救いがなさすぎる。
その想像に、フィートの心が軋む。
手詰まりの空気の中、
唯一の突破口は――
やはり、あの男。
身なりを整えた男。
フィートは必死に記憶を辿る。
だが――
思い出せないまま、時間だけが過ぎていった。
――――――
シーア魔法学校。
講義を終え、フィートは廊下を歩いていた。
これから昼休みだ。
魂の入れ替え事件――
重要証人である村人たちは、すでに全員死亡。
調査は完全に行き詰まり、
暗中模索の状態に陥っていた。
「……」
「!」
不意に、フィートの身体が硬直する。
横を、ひとりの男子生徒が通り過ぎた。
どこにでもある日常。
どこの学校にもある昼休みの光景。
――だが。
違和感があった。
すれ違った男子生徒の容姿――
それは、
先日の読心術で見た、
あの“貴族風の男”だった。
――見覚えがあるはずだ。
彼はこの学校の生徒だが、
フィートの講義を受けている者ではない。
女子生徒2人に軽く手を振り、合流する。
記憶の中の男とは、正反対の好青年――
フィートは、彼を調べることにした。
――――――
男の名はレガシィ、21歳。
ある貴族の子だ。
父は政治家であり、この魔法学校のスポンサーでもある。
14歳にして最年少の王族直轄騎士団長に昇進。
討伐軍を率い、最前線で指揮を執る中で大怪我を負った。
その勇猛さは多くの若者を魅了したが――
回復後、軍を離脱。
かねてより抱いていた魔法への探究心を優先し、
一から学ぶため、この学校へ入学した――
フィートは書類を見ながら、静かに読み上げる。
「……これを見て、君はどう思う?」
本部に来ていたロッキへ問う。
ロッキは書類に目を落とし、呟いた。
「……最前線で指揮を執り、大怪我を負い――
回復後に魔法を学ぶ……」
「少し……誰かと似ていないかい?」
「えぇ……そっくりですね。
僕たち――生まれ変わりの体験者と」
その場に、沈黙が落ちる。
「カルタもそうだった。
なら――彼が同じ術を使えても、おかしくはない」
フィートの言葉の後、アイナが口を開く。
「問題は、どう暴くかです。
相手は政治家の息子――ギルドとしては触れたくない相手です」
「でも、放ってはおけない」
「……えぇ。
国は動きません。私たちだけで動くしかないでしょう」
再び、沈黙。
その空気を破ったのは、ミラだった。
「あの……
わたし、明日その方に話しかけて、近づいてみましょうか?」
――事件解決のため。
ミラが、動き出す。
15話までお読みいただきありがとうございます。
本章、陰と陽編は24話で終了です。最後までお付き合いくださいませ。
分ける必要ないかもですが、次章もございます。
まだまだ続くので、もしお気に召しましたら、ブクマやコメントいただけると幸いです。
最後までよろしくお願いします。




