13話 人が動物になった村
フィートはポツリと呟いた。
「……間違いない、中身は人間だよ」
「!」
衝撃が走る。
フィートは目を閉じ、意識を集中させている。
周りはその緊張感に固唾を飲んだ。
そして――
「名前はダイラ……年齢は36歳――この犬は野犬だと言っている」
「!」
「数日前、突然貴族風の身なりを整えた男が村に現れて、
広場に村人を集めた――その後、気が付けばこの地獄が始まっていた」
フィートのその話にクライナーが質問をする。
「ダイラが言ってることなのか?」
「そうです……
フィート先輩は心で会話をされています」
質問にはミラが答えた。
「念話?」
「人だとわかったので会話ができると判断したのです。
ですから読心術から念話術に切り替えたんです」
「すげぇ……」
フィートは黙ったまま立ち上がった。
険しい表情をしている。
「彼だけの話ではとても理解できない。
もう少し、他の動物とも話をしてみます……」
その時、クライナーが慌てて口を挟んだ。
「なら……! 見てほしい家があるんだが……いいかな?」
一行はクライナーに連れられて、ある家へと足を踏み入れた。
――――――
この村は20人ほどの小さな村。
そんな村で起こった怪異。
踏み入れた家には、床に身体を丸めて眠る老婆と、
そのそばに座る子犬の姿が見られた。
「これは……?」
「この婆さんと犬を見てやってくれ」
「?」
「俺の元冒険者としての勘だけどよ。入れ替わってる気がするんだ……」
「入れ替わり?」
「長年冒険者やってりゃ不思議な現象いっぱい見るだろ?
だから、そんな気がするんだよ」
クライナーの顔には不安と確信が混じっているように見えた。
自分の言っていることは、極めておかしなこと――
まともな思考の持ち主なら、言うはずのないこと――
クライナーは、自分の言っていることがおかしいと分かっていた。
それでも依頼書にあの文面を書き、最初にダイラを見せた。
彼は最初から、入れ替わりを疑っていたのだ。
「ミラ」
「はい!」
「念話術得意だろ? その子犬見てもらえる?
僕はお婆さんを読心術で見るからさ」
「了解です!」
2人は手分けして、老婆と子犬と会話を持った。
そして……
「クライナーさんのおっしゃる通りでした……」
「!」
「信じられないかもしれませんが、入れ替わっています」
一同が声を出せないまま驚いた。
そしてミラが続ける。
「このワンちゃんが、飼い主のテラスさん。
床で寝ているテラスさんがベンくんです」
「やっぱり……そうだったか」
クライナーは少し安堵した表情を見せたが、
嬉しそうではなかった。
自分の勘が合っていたということは、同時に恐怖すべき案件だからだ。
「先ほどのダイラさんと一緒です。
身なりを整えた男が村に現れた日、広場に全員を集めたあと、
気が付けばテラスさんとベンくんの身体が入れ替わっていたようです……」
「この村で何が起こってんだ?」
クライナーの呟きに答えられる者がいなかった。
ただ――。
「クライナーさんの勘は正しかった……
もし、ただの野犬や野生動物だと判断して猟をしていれば――
全てが闇に葬られていました」
「……偶然だよ」
「でもあなたは依頼書を本部に送り、聖職者を希望された。
下手に剣士系がくれば駆除で終わることを危惧されていたのでしょう……」
「へへっ……そこは長年の勘ってやつよ」
「あなたは僕たちの出方を見ていた。
万が一のとき、みんなの命を守ることを考えていたのでしょう……」
フィートはクライナーに身体を向け、手を胸に当てながら頭を下げた。
「あなたに敬意を」
「!」
「第一発見者があなたでなければ、この村の全員が狩られていたかもしれない。
それに、この事件が誰にも知られないまま終わっていたかもしれない」
「……」
「身なりを整えた男……
その者がこの事件に大きく関わっていることでしょう。
人里離れた場所だということもあり、問題があっても情報発信ができない。
それを狙っていたとしたら――」
ミラも続く。
「もしかしたら、初めての事件じゃないのかも?」
「そこだよ……
普通の猟師や冒険者なら駆除して終わりだった案件だ。
同じようなことが今まで普通に繰り返されていた恐れもある」
「身なりを整えた男……その人を探さないと、ですね」
「……見覚えのある男だった」
「?」
フィートは読心術により、
子犬の思念から映像として身なりを整えた男を確認していた。
そして、眉をひそめながら呟く。
「……思い出せないんだ」
考え込むフィートにベルゼが野次る。
「しっかり思い出せって! 1番大事なとこじゃねーか!」
「脳筋は黙ってな。
ってフィートは思ってるよ」
ベルゼとサラの2回戦がひっそりと始まった。
「ミラ、伝書鳩の用意をしてもらえるかい」
「?」
「ロッキくんに手伝ってもらいたい」
「ロッキくんですか?」
「うん……彼なら、何かしら手を持っている気がするんだ」
「わたしも彼向きの案件だなって思っていたんですよ!」
村とその周辺の山を入念に調べた後、
一行は一度シーアへ戻ることにした。
そして一行はシーアで――
ロッキたちと久しぶりの再会を果たすことになる。




