1・な〇うのランキングと同じ方法
今日の夜19時20分に完結します。三話で終わりなので、軽く付き合ってください。な〇うのランキングを見て「これをネタにするか」と思って書きました。
「……はい、というわけで。二年二組の出し物は『折り紙展』に決まりました。一人一作品は絶対提出するように。以上」
担任のやる気のない声が響き、学級会が終わった。放課後の教室には、祭りの前の高揚感など微塵もない。むしろ、厄介な宿題を押し付けられた後のような、どんよりとした沈黙が支配していた。
私、市井成は、窓際の一番後ろという、いわゆる物語の主人公の特等席で、天を仰いだ。
「折り紙展……」
その言葉を口にするだけで、口の中にカサカサとした乾燥した味が広がる。
高校二年生。人生で一度きりの、青春のピーク。他クラスは、血の滲むような会議を経て『廃病院風のお化け屋敷』だの『メイド服を着た男たちの本格純喫茶』だの、キラキラと輝く計画を打ち立てている。
対して我が二年二組は、どうだ。
準備時間、最短。予算、ほぼゼロ。やる気、ゼロ。下手すればマイナス。
「適当に折って並べときゃいいだろ」という怠惰の結晶。それが『折り紙展』。
「……死ぬ。私の青春が、折りたたまれて死ぬ」
このままでは、私の高校二年生の文化祭の思い出は「折り紙で鶴を折ったこと」になってしまう。そんなのは御免だ。絶対に嫌だ。
だが、このクラスメイトたちを見てほしい。スマホを弄る者、早々に鞄を掴んで部活へ向かう者。彼らに今さら「劇をやろう!」みたいな熱い提案をしたところで、返ってくるのは冷ややかな視線だけだろう。
素材は最悪。マンパワーも期待できない。
あるのは、四角い色紙と、私の意地だけだ。
「……いいわよ。やってやろうじゃない」
私は机を叩いて立ち上がった。誰も見ていない。寂しいものだが、好都合だ。
私は筆箱から赤ペンを取り出し、ノートの真っさらなページに大書した。
『二年二組・文化祭出し物第一位奪取計画』
普通に戦っても勝てない。クオリティで勝負するなんて愚の骨頂だ。
ならば、どうするか。
答えは簡単だ。この「文化祭」という名のプラットフォームの仕様をハックすればいい。
「な〇うのランキングと同じよ……!!」
私はボソリと呟いた。
面白い小説が必ずしも上位に来るわけではない。読者のニーズを読み、タイトルで釣り、適切な導線を引き、システム上の評価ポイントを最大化させた者が勝つ。この文化祭の投票システムだって、同じ穴のムジナのはずだ。
まずは、【タイトル・ハック】だ。
パンフレットを配られた時、生徒が最初に見るのは文字だ。「折り紙展」なんて、文字通り一秒で視界から消える。
私は職員室へ走り、文化祭委員が使うパソコンの前に陣取った。
「あ、市井さん? 二組のタイトル、もう『折り紙作品展』で登録しちゃったよ?」
「修正をお願いします。今の時代にタイトルで中身を説明しないのは機会損失でしかないので。 という事で、これで登録します」
私は委員の困惑を無視して、キーボードを叩いた。
『【満足度SSS】折り紙を子供の遊びと見下す愚かなあなたへ。私が鶴になって美しく羽ばたく姿を、行列の隙間から指をくわえて見ていなさい【文化祭が終わってから後悔してももう遅い】』
「……市井さん、これ、長すぎない? あと、なんか、ちょっとキモいよ?」
「いいの。これで『二年二組が気になる』というフラグを全校生徒の脳内に立てるのが目的だから」
次に着手したのは、【ネットワーク構築】だ。
私は全クラスの代表者を訪ね歩いた。一見、協力的な交流に見えるが、その実は「寄生」である。
「三組さん、お化け屋敷やるんだってね。絶対行列できるよね? 良かったら、待ち時間にうちのチラシ配ってくれない? お礼に、うちの教室に一組の宣伝ポスター貼っておくから」
「五組さんの喫茶店、装飾足りる?良かったら、うちから幾つか折り鶴とかを分けよっか?ついでにそっちの宣伝もするよ」
「いいやつだな、市井」と感謝されたが、私の心は氷のように冷たい。
これで、校内の主要な「待ち列」という名の滞留ポイントに、私の息のかかった広告が設置された。他クラスが汗水垂らして客を集めれば集めるほど、その余り滓が我が二組へと流れてくる仕組みだ。
そして二週間前から、私は【情報工作】を開始した。
お昼の放送室。放送部の友人に席を借りて、マイクを握る。
「……えー、二年二組からのお知らせです。現在、展示用の折り紙において『赤色』が『青色』を抜き、シェア一位となりました。非常に白熱した展開です。……あ、今、手裏剣を作る勇者が現れたとの情報が入りました! 歴史が動いています。以上、現場から市井がお伝えしました」
「なんだよそれ」「どうでもよすぎるだろ」
食堂から漏れ聞こえる生徒たちの失笑。それでいい。
「どうでもいい」とツッコミを入れた時点で、彼らの思考のリソースは既に二組に割かれているのだ。
これを、毎日行う。継続は力なり。ウェブ小説の毎日更新が読者の生活習慣に食い込むように、 全校生徒の脳に二組を強制サブスクライブさせる。やらない理由はなかった。
さらに私は、放課後の誰もいない廊下を走り回った。
持っているのは、七種類のデザイン違いのチラシ。
「……よし、ここね」
階段の裏、男子トイレの入り口、自動販売機の横。
とあるチラシには『二組の折り紙の鶴、足の数は全部で何個?』という、無益なクイズを書いた。他も似た様な感じだ。
そして、その下には特大の赤文字で。
『正解は当日、二年二組で答え合わせ!』
答えなんてどうでもいい。というかちょっと考えれば折り紙の鶴の足の数はゼロだと分かる。ただ、一瞬でも誰かにモヤモヤしてもらって、その一部に教室の敷居を跨がせれば、私の勝ちだ。
一旦入室してしまえば、人は「折角だし見て行くか」となる。まずはとにかく人を入れる事が大事だ。
「ふふ……ふふふ……」
暗い廊下で、私は一人で笑った。ここまで来ると、ある意味では折り紙展は正解だったかもしれない。客の回転率がお化け屋敷や喫茶店よりも遥かに良いのだ。ヒット率は低いだろうが、数でカバーできる。
クラスメイトたちは相変わらず、適当に折った「頭の潰れた鶴」や「歪んだ手裏剣」を段ボールに放り込んでいる。
「市井、お前最近なんか必死だな」
「まあ、せいぜい頑張れよ」
そんな声が聞こえるが、私は気にしない。
彼らが折っているのは、ただの紙切れだ。
だが、私が作っているのは、全校生徒を意のままに動かす「心理的迷路」なのだ。
「お化け屋敷よりずっと退屈な、ただの紙屑の展示品。それで、最高に馬鹿げた勝利を掴んでやるわ」
文化祭前夜。
誰もいない教室に、色とりどりの、しかし不格好な折り紙たちが並ぶ。
私は最後に、入り口のドアに一枚の紙を貼った。
『ようこそ、今年度の出し物優勝候補へ。』
当然、私を含めて、そんな馬鹿な考えをしている者は誰もいない。だが、こういうのは貼ったもの勝ちだ。そして、貼ってしまえば「優勝候補なのか」と思ってもらえて、勝手に価値が上がる。
私の高校二年生、文化祭。
クラスメイトとの思い出なんてなくていい。ただ、この文化祭を完璧に支配したという冷徹な事実だけが、私の思い出になればいい。
明日、祭りが始まる。
百枚以上のチラシと、数千回の刷り込み。
そして、史上最も「中身のない」一位へのカウントダウンが始まった。




