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「よくあるのは、外見に相手の好みを取り入れることよね」
「外見は文句無しにいいだろ」
「よく言われる」
「言われるのか」
外見だけなら誰より褒められている自覚がある。
「でもハイドラは外見で人は選ばないぞ」
「わかる」
「だから見た目はこれ以上に何かする必要はない」
「なるほど」
フラップの助言にレイスリーネは神妙に頷いた。
不本意ながら自分の外見は一級品だし、ハイドラは見た目で人を判断しないだろうとも確信が持てる。
妥当な結論だ。
「でも今さら中身は変えられない気がするんだけど。ほぼ全部知られてるし」
「だからアピールするのよ。こっちはあなたを気になってるって」
そんなわけで次の日からレイスリーネからハイドラへのアプローチは始まった。
レイスリーネ自身も以前何気なく読んだ小説を元に、自分なりに作戦を立てた。
よくあるのは廊下でぶつかってドキッとするやつだ。
レイスリーネはその通りにぶつかった。
勢いがよすぎて頭上から「ぐっ」とハイドラの呻き声が聞こえたことで作戦は失敗したことがわかった。
ちなみにフラップには「ダメージ与えてどうする」と呆れられた。
次の作戦はマリアンナの提案だった。
ハイドラと一緒にしたいことを提案し、甘えてみるという作戦だ。
それに対してレイスリーネは「一緒に串焼き食べない?」だった。
ご令嬢が提案するものではないし、そもそも学園に串焼きはない。
王都にもあるかレイスリーネにはわからない。
ハイドラが何か答える前にフラップに回収された。
「さっきの何だあれ。ただの食い意地張った女じゃねーか」
確かにその通りだ。
練習場でマリアンナも入れた三人で再び作戦会議を実行中である。
ちなみにハイドラはあれ以来、練習には来ていない。
レイスリーネは落ち込みっぱなしだ。
「やっぱりもう告白しようぜ」
「でも今告白して、上手くいくかしら」
嘆くフラップにマリアンナがずいと身を乗り出す。
案外近い距離に、仲がいいなと思っていると、二人ははたと目線をあわせるや否や顔を赤くして同時に体を遠ざけた。
なんだか忙しない動きをするなあとレイスリーネは呑気に思いながら、ハイドラとの上手くいかなさに「あーあ」とため息をつくしかない。
そんな日が何日か続き心が折れそうではあるけれど、自分でも考えて行動しなければと何度も決意してようやく勇気が固まった。
昼休み。
まだ席にいるハイドラに恐る恐る近づくと、わずかに不思議そうな顔をされた。
ここ数日ハイドラに対して奇行をおこす以外で近づいてないので、さもありなんだ。
「あの、食堂行かない?」
最近は無言で何となくタイミングを一緒にしているだけで、声をかけたりはしていなかった。
背中に変な汗が流れながら、忙しなく瞳を瞬かせる。
「ええ、ご一緒します」
ハイドラの返答に、レイスリーネはこっそりと小さく安堵の息を吐いた。
ほんの少しだけ声が以前のように柔らかい。
最近は完全に他人行儀だったから、嬉しくてレイスリーネはむずむずと口元を震わせた。
でもまだ笑みは薄く微笑む平坦なものだ。
もう一度、あのキラキラとしたお月様の瞳で優しく笑う顔を見るのだと、改めて決意をする。




