7.【検証】推しは褒めると褒めただけ素敵になるのか【書籍発売記念】
本作の書籍版が2月2日発売に発売されました〜!
加筆と番外編追加、そしてTsubasa.v先生の美麗イラストによって何倍も進化しているので、ぜひ手に取って『推して』くださると嬉しいです!!
植物を育てるとき、褒め言葉をかけるとよく育ち、貶すと枯れやすくなるという話を聞いたことがないだろうか。
化学的な根拠はないのかもしれないが、私はわりと信じている。だってなんとなく分かるし。私は人間だけど、褒められた方が何かと頑張れるし。
そこで、私はここからある結論を導き出した。
「……リゼ、なにしてるの」
「なにって、今日も好きだなぁと思って」
花に褒め言葉をかけたらかけただけ綺麗に咲くみたいに、推しも褒めれば褒めた分だけ綺麗になっていくんじゃないか、と。
お互い課題がひと段落つき、リビングで紅茶を飲みながらくつろいでいたメアを、人差し指で作ったカメラの中に収める。
えっ、エモい……!
何のフィルターもかかってないはずなのに、存在がエモい。そこにいるだけで尊い。恋。
「あまりにカッコいい……」
「……ありがとう」
「私、メアの手も好き。しなやかで指が細くて綺麗で」
「急にどうしたの? また変なこと思いついた?」
うっ、鋭い。そうですよね、私の奇行に付き合って結構経ちますもんね……。自覚はあります。
私は一向に進化しない表情筋をぎこちなく動かして無理やり誤魔化した。
「どうしたもこうしたもないよ。全然ない。全くない。……あっ! あと、紅茶にお砂糖入れないところも好き。大人っぽくて」
「…………」
「私がこうやって見つめてたら、じわじわって顔赤くしながら黙っちゃうところもかわいい。世界1かわいい」
「……っ真顔で褒め続けられるの恥ずかしいからやめてくれない!?」
そんなことを言われても、尊みがすぎて真顔になってしまうのだから仕方がない。むしろ制御を外したらどんな顔になってしまうか分からない!!
「はぁ……好き」
「何!? 今日はどうしたの?」
「だからどうもしないってば。いつも好きとか尊いとかばっかり言ってるから、ちゃんと言葉にしようと思って」
私は推しを褒める語彙量が増えてハッピー、そしてメアが自分のカッコよさを自覚してもっと素敵になって一石二鳥。
それどころか、照れるメアの姿が見られて三鳥目も撃ち落とす勢いである。鳥ハンターリゼとは私のこと! ……あっ、やっぱダサいので鳥ハンターの座はいらないです。
「あとはね、ちょっと大きめの上着を着てるところはあざといし」
「…………」
「白シャツに緑のカフスもセンス良すぎるし。メアなんてファストファッションでも映えるはずなのに、質がいいもの着たら優勝に決まってる!!」
「……そう」
「あとはね、ボタンを一個外してるところとかもカッコよ……大人っぽ……好き!! でも家から一歩出たら上まで締めてください」
ダメだ、センシティブ以外になんて言語化したらいいのか分かんなくなっちゃった、オタクの語彙量は狭い。
それにしても私の婚約者、カッコよすぎるな!?
そう、魅力の再確認。メアと出会ってからずっと一緒にいたからついこのカッコよさに慣れてきちゃってたけど、改めて言葉にすることで尊さを再確認出来た。私の心臓が撃ち抜かれてもいないのにドキュドキュとうるさい。ついでに4鳥目もバキュンだ。
「あーあ。こんなこと言っても、結局いっつも余裕あるし。そんなところも好きなんだけど……」
ポロリと口から言葉が溢れる。言い出したら止まらない分、普段はあまり言わないようにしているから楽しくってたまらない。
私は何故か先程から返事のないメアの方を見っ…………!?
「あのさ、リゼの前だからに決まってるでしょ」
こっ、怖い! 魔王のオーラが出ている!!
え? 何? 私、何を間違えた??
「外でシャツのボタンなんて外すわけないに決まってるから。これはリゼの目がチラッて迷ったみたいに一瞬下を向くのが可愛いからやってるだけ」
「……確信犯!?」
「あと、カフスが緑なのはリゼの目に一番近い色を選んだらこれだっただけ」
そんなの紫の宝石が付いた指輪を欲しがった私とやってることが同じじゃないか!!
「っ私と同じことしないでください、メアさん。あなたは推される側の人間なんですよ!?」
「何言ってるの。僕、リゼの言葉で言うならリゼオタクなんだけど?」
メアは綺麗な顔にニッコリと笑顔を貼り付けて膝に乗せていた私の手を上から掴んだ。さっきまで向かい側に座っていたのに、いつ間に隣に来たのか。おそらくというか確実に、魅力の再確認に浸って意識が飛んでいたあの瞬間である。
「あの、メアさん。何か怒って、ます?」
「怒ってる。可愛すぎて怒りの方が勝ってきた。なんでそんな得意げな顔で僕の好きなところ褒め出すの?」
「え」
「そう。そっか。余裕ありそうに見えるんだ? …………あぁもう、なんで全部伝わらないかな」
「…………っ」
じんわり汗ばんだ手が、切ないと言いたげな目が。キュンとかどころじゃなくて、ギュン、みたいな。エモいなんかじゃなく、苦しいみたいな。
さっきの好きもちゃんとした質量があったのに、それすら軽いものにしてしまうような。
言葉にすることすらもどかしいと言いたげな。
このまま息が出来なくなりそうなほど、熱量を伝えてくる視線から逃げられない。
「ねぇ、今も余裕ありそうに見える?」
メアは、私の上から重ねた手をそのまま掴んで、胸元に押し当てた。突然のことに、カッと耳が、頬が、熱くなって。
「どくどく、してる」
メアの心臓の鼓動が。脈が。跳ね上がって。
手の先から激しい振動が伝わる。生きている。メアが、私でこんなに緊張している?
「……っあの」
何故か涙が込み上がってきて、ふとメアを見上げると、不意に唇を奪われた。そして、息が苦しくなった頃にようやく解放される。
「それ以上は言わせない。恥ずかしいから」
「……っズルい!」
「ズルいところも好きでしょ?」
なんでそんな余裕そうな顔で微笑むの、と。
いつもは悔しくて堪らないけど、今日は別の感情が勝って、大人しくこくりと頷いた。
「ん。クラクラする」
その瞬間、ドンっと、手の先から伝わる鼓動が跳ね上がる。
「よし、今度からメアが余裕すぎてムカついたら抱きつくフリして鼓動を確かめよう」
「っ〜〜それは反則じゃない!?」
「ふっふっふ。いつまでもやられっぱなしの私だと思わないことだね」
感情をそのまま、あまり顔に出さないメア。
表情こそ余裕そうなままだが、じわじわ顔は赤くなるし、体温はじわじわ上がっている。
人間なのだ、メアも。こんなこと言ったらおかしいけど。
つぅ、と。うるさい心臓をハートマークになぞって、顔を覗き込んだ。
「メアさぁ」
「……なに」
「私のこと好きすぎだね?」
余裕ぶってるメアの、必死なところが見てみたい。
ニヤリと笑ってみると、余裕そうな顔を崩して悔しそうな顔をしたメアがジトッとした目をして口を開いた。
「……煽ってる?」
「ん。すっごく」
だってさ、好きな人にオタクになるぐらい好き、なんて言われたら恥ずかしさとか全部消し飛んじゃう。
どうやら私は、人が自分よりも照れているところを見ていると落ち着いてくるタチだったらしい。
「じゃあ自業自得だね」
「…………え?」
ぐっと、私の手を握る力が強くなった。
「僕が隙を見せたらすぐ安心しちゃって。ふふ。……かーわいい」
あれ。おかしいな。さっきまでのポメラニアンみたいなメアはどこにいっちゃったの!? ここにいるの魔王というか覇王というか、え、どうした、おかしいな!?
前言撤回。たすけて! たすけてください!!
必死に逃げ出そうともがくも、メアの胸元にギュッと押し当てられた手のせいで逃げられず、逆に引き寄せられて私はメアの腕の中に飛び込んでしまった。
「今更逃さないよ? 今日は絶対リゼが悪いと思う。うん、僕は悪くない」
妖しく笑って、私の耳元に口付けたメア。
どうやら私の推しは、褒めた分だけ綺麗になるというより、褒めた分だけ危なくなる、のかもしれない。
アニメイト様、電子書籍を含む応援書店様でご購入いただくと特典SSがついてきます!
詳しくは活動報告を、もしくはアイリスNEO様のブログをチェック……!!