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幕間(追憶)

『ねぇ、なんで駄目なの? みんなはわたしの思うとおりにしていいって言ってるのに』


『そうなのかもしれない。でも、だからって人の人生を簡単に扱っちゃ駄目だ』


『なんで? 人だって同じことをしてるじゃない。それってつまり神の真似事だよね? 人はしていいのに、わたしは駄目なの?』


 何も言えなかった。いくら言い聞かせようとしても、この子には通じない。俺の言葉では、この子の心に届かない。


 ……これは夢だ。過去の、遥か昔の追憶。それを夢で見ている。だが、解せない。俺と幼子を見ることが出来る。第三者の視点であるかのような夢だ。


 そこは白い、どこまでも穢れの無い空間。幼子と俺が存在し、向き合っている。


 特徴的なのは幼子の容姿か。金糸のような髪。だが、瞬き一つすれば輝かんばかりの銀髪とも白髪とも言えるものに。もう一度瞬けばまた金糸のような髪に、と見える色彩が違う。


 次いで、その髪の下、顔立ちはさながら美しい人形のような造形。瞳の色もまた常に変化し、七色の色彩を見せている。これで表情が無ければ、本当に人形と見間違うかもしれない。


 そして、何よりも幼い。それこそ、人の年齢に例えれば七、八歳程度だろうか。少なくとも、二桁には届かない。


 こんな幼子が神。信じられないと思う反面、その存在に屈服してしまそうになる。いや、既に畏れを抱いてしまっている。夢でこれだ。その場に居た過去の俺はどんな思いだったのか。


 やはり畏れたのか、それとも平然と受け止められていたのか。その時、その時の悲しみ、怒りなどの感情は伝わってくる。だが、どうしてかこの幼子に関する直接的なそれだけは分からなかった。


『もういい。クロ、どっか行って。わたし疲れたから寝る』


 沈黙が続き、何も返答が無いと分かるや、彼女は俺を追い出した。文字通り、その空間から弾き出されてしまったのだ。


 たたらを踏み、何とか体勢を保ったものの俺は気落ちする。首裏に手を当て、少しの間動くこともなかった。


『また、あの方に何かしたようだね』


 だが、そこにとある人物から声を掛けられた。見れば、それは青年の姿をしたラファエロだった。


 俺はその問い掛けに答えることもなく、ラファエロの横を通り過ぎようとする。話すことはない。そう告げたつもりだった。


 だというのに、ラファエロは制止のためか肩を掴んでくる。振り払おうとすれば、ラファエロも力を強めてくるだけだ。仕方なしに一瞥して、離せと目で訴える。


『あの方は自由だ。何をしても許される存在だ。いや、そもそも許されるなんて言葉を使うのも烏滸がましい。あの方はあの方、全てがあの方の自由』


『ふざけるなっ。例え神だろうと、線引きは必要だ。手を出していい領域とそうじゃない領域がある。じゃないと、世界が崩壊するかもしれないんだぞ!?』


『それがいけないことかい? 言ったろう? あの方がそう望むのなら、そうするべきなんだ』


『……彼女が神だから、か?』


『その通り。それがあの方だ』


 駄目だ。ここの奴らは聞く耳など持たない。あの幼子が望めば、その全てを是と答える。否定も拒絶もない。まだ産まれて間もない神にただただ従うのみ。


 話にならない。苛立ちも怒りも、急速に冷めていく。直ぐにラファエロの手を振り払い、背を向ける。そのまま立ち去ろうとすれば、背後から声が掛かる。


『君には分からないだろう。中途半端な君には』


 その声色は憂いを帯びた、どこか悲しげなものだった。だが、俺は気にも止めずに立ち去っていってしまう。程なくして、姿は見えなくなった。


 俺の姿が、だ。これは明らかにおかしい。夢だとしても、これは記憶のはずだ。何故、俺が立ち去ったあとの光景が今なお映るのか。


 そして、何故ラファエロはこちらを見ているのか。夢の中であるはずだが、背筋に薄ら寒い嫌な感覚を覚える。ラファエロに視線を合わせたくない。だが、どうしてか外すことが出来ないでいる。


 ラファエロは何も言わない。ただ、見ているだけだ。


 次の瞬間、確かにラファエロは微笑んだ。そして、音のない言葉を言った。またね、と。


 それを理解するとともに、急激に上へと引っ張られる。何だ、と思う暇もない。下ではラファエロが見上げていたが、それもすぐに視界から切れる。


 意識は遠退き、次にそれが戻ったのは天井を視認した時だった。自分の部屋だ。珍しく、誰も侵入した痕跡の無い、普段通りの部屋だ。


 夢。あれは夢だった。だが、本当にそれだけだったのか。あのラファエロは記憶の中に混じった想像だったのか。分からない。分からないが、それだけではなかったように思う。


 額に手を当てれば、汗が張り付く。喉は乾き強張る。呼吸は乱れ、心臓の鼓動は早い。


 それがまた何とも、夢でありながら現実味を持たせる。寝起きは最悪に近い。朝から嫌な気分だ。


 起き上がり、呼吸が整ってきてもその気分は変わらず、まったくもって調子が上がりそうにない。追憶だけならばここまでではなかったはずだ。ラファエロは居なくなっても俺を苛立たせる。


 今日はのんびりしよう。そろそろ彩り豊かな花々が咲いている頃合いだ。穴場も知っている。花見をするにはちょうどいいかもしれない。


 気を取り直して、花見の計画を立てる。思い付きだが、記憶のことで悩むよりは上等な過ごし方だろう。


 思い立ったら吉日。早速、この案を提示するため、俺はリビングへと向かうのだった。



 遅ればせながら、幕間(追憶)でした。これにて、本当に第一部は終了になります。次回からは第二部に移行していきますので、何卒よろしくお願いします。


 さて、第二部についてですが、このままこの小説にて連載していくことにしました。取り敢えずは第二部始まるまで、仮完結になりますが。


 また、連載再開の予定などについてですが、こちらは早くて三月中、遅ければ四月頭に変更します。時間が取れず、まだ書けそうにないというのが実情です。大変申し訳ありませんが、ご了承頂けますようお願いします。


 では、また第二部でお会いしましょう。


 三月七日付け。



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