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「おい、いい加減にしろって何度言ったら分かるんだてめぇは!」
「何で冬刀なんかを庇うんだよ?! 薫樹っ!!」
「だから俺の名前を呼んでいいのは御主人様だけだって言ってるだろうが!」
「それも冬刀に言わされてるんだろ?! 俺がちゃんと救ってやるから安心しろよな!!」
安倍と話しているうちに標的を俺ではなくまた馬鹿に突っかかっていっている黒モジャは堂々巡りをしてんな~。
そこまでして俺を悪もんにして自分をよく見せたいんかね。
ま、見せたいんだろうけどな。
だけどあいつ、あんなに大声出して声が嗄れねぇのは羨ましいね。
それ以外はまったく羨ましくなんかないけど。
それにしてもあれ、突っかかってるって言うよりも擦り寄ってるって言ったほうが違和感ねえくらいベタベタ触ってるけど、奴は本気で自分の事ノンケだと思ってんのか?
確実に計算でやってんだろ。
腕に手掛けて体を触れ合わせて近づけるって、女が男と近づきたいときにやるといいっていうテクニックじゃなかったか?
キャバクラ嬢か何かがよく使うテクニックだってテレビかなんかで聞いた気がすんだが。
……うえ。
それ計算でやってなくてても計算でも気持ちわり。
つか、俺の名前知って固まってた親衛隊もまた黒モジャの行動に眦を吊り上げてるし。
どいつもこいつも馬鹿ばっかだな。
……俺もう本気で帰っていいよな?
もうやることもねえし、ここにいたって時間の無駄だし。
よし、帰って昼寝でもすっか。
寮でもいいし天気がいいなら中庭や屋上でもいいな。
「あれ? 冬ちゃんもう帰るの? 凄い中途半端に騒がしいのは放置?」
何か後ろで安倍が言ってるが無私だ無視。
これ以上ここにいた所で疲れるだけだし俺は眠いんだ。
この騒ぎだって元を辿れば勝手に勘違いして俺を巻き込んだ馬鹿が悪ぃんだしな。
ふわぁ……眠ぃ。
「あ!! おい冬刀!! 都合が悪くなったからって逃げるなんて卑怯だぞ?!」
………………ッチ。
何で気づくんだこの黒マリモ。
ついでに俺が逃げるってどんな思考したらそんな結論に辿りつくんだっつの。
「今なら許してやるからちゃんと謝ってもう悪いことしないって誓えよ!!」
「「「……ぁ」」」
めんどくさいから無視してそのまま扉に向かおうとしたら、右手首を後ろから掴み取られた感触がした。
手を取られたとかそんな優しい表現では言い表せないくらい、力の限り握り締めてきやがったその手を、こっちも力の限り振りほどくと同時に掴んできた奴を見ることなく裏拳をお見舞いしてやる。
そん時周りが息を呑む音が聞こえたが気にしてられるか。
今度の休みは久しぶりに実家に帰ってこいって命令されてんのに手首に青痣出来たらどうしてくれんだっつの。
手首を掴まれた時力任せに後ろに引っ張られた肩を慣らすためグルグルと回す。
さて、と。
馬鹿には言ってもわかんねえみてえだし、これ以上突っかかってこねえようにめんどくさいが体に教えるか。




