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限界社畜、異世界で【コンビニ】を開店する〜女神に貰ったスキルで辺境村を救ったら、ワケありヒロインたちに囲われてます〜  作者: 月神世一


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EP 5

掛け軸の真実と、詐欺師に捧げる黙祷

 ポポロ村のメインストリートの突き当たりに位置する、村長宅(5LDKの一軒家)。

 臓器摘出の恐怖から命からがら逃げ延びたシェアハウスの面々が、ようやく息をついてリビングでくつろいでいた頃。村の散策から帰還した天災エルフ・ルナが、上機嫌な足取りでリビングの扉を開けた。

「皆様、見てくださいな! 私、村の広場でとっても素晴らしいお買い物をいたしましたの!」

 ルナはニコニコと満面の笑みを浮かべながら、小脇に抱えていた筒状の物体をテーブルの上に広げた。

 それは、一本の『掛け軸』だった。

 しかし、どう贔屓目に見ても、それが『素晴らしい代物』には見えなかった。生地は薄汚れ、端は擦り切れ、おまけに裏側には村のホームセンター『タローマン』の処分品コーナーで使われている【見切り品・銅貨3枚】という値札シールの剥がし跡までうっすらと残っている。

「……ルナ。なんだい、この汚いボロ布は」

 ちょうど異世界コンビニでのシフトを終え、差し入れの『ポポロ・コーヒー』と廃棄のスイーツを持って村長宅を訪れていた丸川光雄は、訝しげに眉をひそめた。

「ボロ布だなんて失礼ですわ、親切な殿方! これは由緒正しき『神話級アーティファクト:始祖精霊の掛け軸』ですのよ! ほら、鑑定の魔力で見れば、ちゃんとそう表示されるでしょう?」

 ルナが胸を張って掛け軸を指差す。

 確かに、魔力を持つ者がその掛け軸を注視すると、空中に【神話級アーティファクト:始祖精霊の掛け軸 / 持ち主のカリスマを+10000する】という、仰々しいステータスの文字列がホログラムのように浮かび上がった。

「す、すごいですわ! カリスマがプラス一万!? これがあれば、私のライブ配信の同接も一万倍になって、スパチャの雨が降ること間違いなしですの!」

 エンジ色の芋ジャージを着た極貧地下アイドルのリーザが、目を「¥」の形にして掛け軸にすがりつこうとする。

 だが、ミツオは冷徹な商社マンの瞳でその文字列と、掛け軸の『実体』を交互にねめつけ、深く、深くため息を吐いた。

「リーザ、離れろ。そいつはただの産業廃棄物(ゴミ)だ」

「えっ?」

「ステータスの文字表記だけを書き換える、ハッタリ専用のユニークスキルだな。前世のIT業界で言うところの『データの改ざん(フェイク・メタデータ)』だ。銀行口座の預金残高の表示画面を、ブラウザのソースコードを弄って『百億円』に書き換えたところで、実際に現金が引き出せるわけじゃないだろう? それと全く同じ理屈だ」

 ミツオはコンビニのレジ袋からウェットティッシュを取り出すと、掛け軸の表面をキュッキュッと強めに擦った。

 ウェットティッシュは真っ黒に汚れ、掛け軸の『神話級のオーラ』とやらが、単なる長年のホコリと手垢の蓄積であることが物理的に証明された。

「引張強度も、魔力伝導率も、ただの綿布だ。カリスマが上がるどころか、こんなカビ臭いもんを部屋に飾ったらハウスダストアレルギーでくしゃみが止まらなくなるぞ。……ルナ、お前これをいくらで買った」

「ええと、とってもお買い得でしたのよ! 本当は金貨1,000枚のところを、特別に金貨100枚(約100万円)におまけしていただきましたわ!」

「金貨100枚ぇぇっ!?」

 リーザとキャルルが同時にすっとんきょうな悲鳴を上げた。

 銅貨3枚(約300円)の価値すらないゴミに、100万円。完璧なまでの情報商材詐欺、あるいは霊感商法である。

「アホかお前は! ステータスの文字情報(メタデータ)だけ見て、商品の実体価値(ファンダメンタルズ)を見極めないからこういう不良債権を掴まされるんだ! どこの馬の骨とも知らん詐欺師に、現金を払っちまったのか!?」

 ミツオが頭を抱えて声を荒らげると、ルナはキョトンと小首を傾げた。

「現金(金貨)は持っていなかったので、物々交換をしていただきましたの」

「物々交換……? エルフの秘宝でも渡したのか?」

「いいえ。先ほど、殿方に受け取りをご辞退された『純金のインゴット』を、そのままお渡しいたしましたわ♡」

 ――ピタッ。

 リビングの時間が、完全に停止した。

 キャルル、リーザ、キュララの三人が、信じられないものを見るような目でルナを見つめ、やがて全員の視線がゆっくりとミツオの方へと集まった。

「……………………は?」

 ミツオの口から、間抜けな声が漏れた。

 ルナが渡したという、数十キロの純金のインゴット。

 それは、ルナが村にやってきた直後に、その辺の道端に落ちていた『石ころ』を、世界樹の自然魔法で強制的に黄金へと変成させたものだ。

 そしてその魔法の効力は、ルナ自身が「インフレを起こすとおじ様たちが怒るので」と言っていた通り、三日(72時間)経過すると、ただの石ころに戻ってしまうという、究極の時限式フェイクゴールドである。

「あ、あの……ルナ。その純金って……」

「ええ。あと三日もすれば魔法が解けて、元の石ころに戻ってしまいますわね。でも、あの殿方は『お釣りは結構』と仰って、とっても嬉しそうに純金を抱えて走っていかれましたのよ? きっと、石ころ集めが趣味の変わった方だったのですね♡」

 ニコニコと、一切の悪意なく微笑むルナ。

 ミツオは天を仰いだ。

(……詐欺師が、情弱を騙してゴミを金貨100枚で売りつけたつもりが……逆に天然のサイコパスから、三日後に石ころになる『数億円分の偽金』を掴まされたってことか)

 悪党が、善意のバケモノに無自覚に食い殺された瞬間だった。

 純金(と思い込んでいる偽金)を手にした詐欺師は、間違いなく今頃、どこかの歓楽街で豪遊しているはずだ。高級ホテルに泊まり、高い酒を頼み、女をはべらせ、その支払いの段になって――差し出した純金が、ただの『道端の石ころ』に変わる。

 無銭飲食。詐欺。そして反社勢力からの激烈な取り立て。

 その光景を脳内でシミュレーションしたミツオの背筋に、ゾクリと冷たい汗が流れた。

「……ルナ。お前、その掛け軸を捨てずに、しばらく村長宅で飾っておけ」

「あら、よろしいのですか? 殿方はゴミだと仰っていましたけれど」

「実用性はないが、ある種の『魔除け』にはなる。……それに、あの詐欺師に渡したのが偽金なら、連中の組織(反社)の資金源になる心配もない。ある意味、見事な不良債権の処理だった」

 ミツオが呆れ半分、感心半分でそう結論づけた、その時だった。

「ちょっと待ってくださいませぇぇっ!!」

 床に突っ伏していたリーザが、バンッ!と床を叩いて立ち上がった。

 彼女はエンジ色の芋ジャージの袖をまくり上げ、涙目でミツオに食ってかかった。

「えこひいきですの! 納得いきませんわ! 前に私が火原とかいう詐欺師から『大宇宙浄化・開運万象壺』を買わされた時は、ミツオ様、硬く丸めたスポーツ新聞で私の頭をポカポカ叩いてお説教しましたわよね!? なのに、どうしてルナ様がゴミを買わされた時は『魔除けになる』なんて優しくフォローするんですの!? 私も新聞紙で叩かれたくなかったですわぁっ!」

 極貧地下アイドルの、あまりにも不毛な嫉妬と抗議。

 確かに、トイチの借金を背負ってパチモンの壺を買ったリーザの時と、今回のルナのケースは、『詐欺師にゴミを掴まされた』という導入部分だけ見れば全く同じ構図である。

 だが、ミツオは持参したスポーツ新聞を丸めることもなく、静かに、そしてどこか哀れみを含んだ瞳でリーザを見下ろした。

「リーザ。お前があの時抱え込んだのは、複利で雪だるま式に膨れ上がる『本物の負債(借金)』だ。放置すればマグローザ漁船行きだったから、俺が物理的・経済的に介入して助けてやったんだぞ」

「むぐっ……そ、それはそうですけれど……」

「だが、今回のルナのケースは違う。ルナは一切の負債を抱えていないどころか……詐欺師の野郎に、核弾頭レベルの『時限爆弾』を笑顔で手渡したんだ」

 ミツオは窓の外――遠く離れたムーンキャピタルの方角へと視線を向け、深く息を吐いた。

「あの詐欺師が、今頃どんなドヤ顔で偽金を抱えて豪遊しているか。そして三日後、それが石ころに変わった瞬間、どんな絶望の表情を浮かべて裏社会の連中に沈められるか……。その『犯人の数日後の末路』をロジカルに想像するとな」

 ミツオは胸の前でそっと手を合わせ、目を閉じた。

「……あまりにも哀れすぎて、新聞紙で叩いてツッコミを入れる気にもなれん。今はただ、あのアホな詐欺師の魂の平穏を祈って、黙祷を捧げたい気分だよ」

「も、黙祷……」

 ミツオのあまりにも冷酷で、かつ慈悲深い(?)言葉に、リーザもキャルルもキュララも、ゴクリと生唾を飲み込んだ。

 天然の善意が引き起こす、悪意を凌駕する絶対的な理不尽。

 天災エルフ・ルナが持ち込んだボロ布の掛け軸は、かくしてポポロ・コーポのリビングの壁に『詐欺師の墓標』として飾られることとなった。

 一方その頃。

 ポポロ村から遠く離れた女性向けテンプレ強制空間・ムーンキャピタルの高級キャバクラでは。

 情報商材詐欺師の鮫島剛が、数十キロの純金をテーブルにドンッと置き、「今日は俺の奢りだ! シャンパンタワー持ってこい!」と、人生最高の絶頂(フラグ)を謳歌している真っ最中であった。

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