第2話 ◯△▢
寿々は自宅に戻りドアを閉めると玄関先で崩れ落ちた。
「・・・一体俺は何を見てしまったんだ・・・・」
帰宅してからもいまだに先ほどの光景が目に焼き付いて離れなかった。
渋谷の路地裏にあるホテルに女の子と腕を組んで入っていく史の姿・・・・。
「いやいや。冷静に考えればそんなの特に珍しい光景でもないはずだ。史だって普通の男だろうし極めて自然な事だ・・・・。もしかしてアレか?俺が恋愛対象は女だって言ったからすんなり諦めて気持ちを切り替えた・・・そうか。それならば納得・・・。いやそもそも俺の事好きだって言ってたのもそういう意味じゃなかったのかもしれない。精神的には好きだけど肉体的には別・・・・・」
寿々はそこまで言っておきながら頭を抱えた。
「何肉体的とか言ってんだ?キモすぎるだろ俺ぇえええ・・・・」
『もはや何もわからん!!俺に好きとか言って抱きしめておきながら、すぐに女の子とホテル行く事も。たとえそれが反動であったとしても・・・全然理解が出来ない!!!そして何よりも自分で偉そうにあんな事言っておきながら、史のそういう事で頭がおかしくなりそうになっている俺が心底気持ち悪すぎて死にそう・・・・!!!!』
翌日
出勤してからもずっと寿々の様子はおかしかった。
仕事に集中できておらず、ライターやデザイナーとの打ち合わせ中もぼんやりとしたまま。
目の前の席の丸と篠田と菊池は、流石にその寿々の様子を見て顔を見合わせた。
「今日の三枝、いつも以上にやばくない??」
と丸が篠田にヒソヒソと話す。
「確かに前に彼女に振られた時以上にヤバい顔してますね・・・」
と篠田も丸へ返した。
「昨日何かあったんでしょうか?」
と菊池も話に参加する。
「昨日?確か昨日帰る時に同期と飲み会だって言ってましたけどねぇ」
篠田は昨日寿々が帰宅する時に話した会話を思い出して答えた。
「ええ?同期との飲みであんな顔になるかぁ??」
と丸が突っ込みをいれると、三人は再び寿々へと視線を移す。
こんなに目の前で寿々の話しをしているのに、気づくどころか完全に魂が抜けきっている様子だ。
するとそこへ史がやってきた。
「お疲れ様です」
いつもと変わらない挨拶で入ってくると、丸と篠田と菊池が史の方を一斉に向くので何事かと言った顔で眺めながら史は寿々の横を通り自分の席へと向かう。
「寿々さんお疲れ様です」
と史が声をかけると寿々はビクっと体を震わせ青ざめた顔のまま無言で史を横目で見た。
「・・・・・・・・・・」
「・・・え?どうしたんですか?」
史も理解不能とばかりに寿々に質問をする。
すると寿々は史の目を見ず表情を一切変えないままゆっくりと席を立ちあがると、
「・・・ちょっと外いってくる・・・」
と言い、1月だと言うのにコートも持たずにそのまま編集部を出て行ってしまった。
史は流石に心配になり、
「え?何があったんですか?」
と目の前の三人に質問するが。
「何があったのか史が知らないなら、アタシ達がわかるわけないでしょ??アンタ昨日何かやらかした??」
と丸に言われ。
「昨日??」
史も正直やらかしてないとは言えなかったが、昨日は何も身に覚えがなかったので、
「昨日は特に何もしてないですねぇ・・・」
と素直に答えた。
上着も着ずに外に出てきた寿々は、呆然としながらそのまま会社のすぐ横のコンビニに入った。
『いやいやいや。本当マジ今日駄目だわ。あいつとまともに話し出来る気がしない・・。マジで怖すぎる。何考えてるのか分からなさすぎる』
寿々は特に何を買うでもなく陳列された雑誌棚をぼーっと見ていると、
「あれ三枝さん?買い物ですか?」
と呼ばれてそちらを向くと編集アシスタントの浅野が立っていた。
「浅野さん・・・」
死んだような顔をした寿々を見て驚いた浅野は、
「⁈どうしたんですか??酷い顔してますよ??」
とドン引きしている。
「いやぁ・・・何でしょうねぇ。なんか急に色んな事が良く分からなくなって・・」
と正気を失った寿々を見て、
「三枝さんマジでオーラやばいです・・・。いつもは七色に光ってるのに今はドス黒くなってますよ?」
とオーラが視える浅野は、今の寿々のメンタルをそのまま表現してくれた。
そして、
「そうそうオーラと言えば!今ここにくる間に史君見たんですけど!」
と浅野が言うものだから寿々は史の名前を聞いただけで反射的にビクっとしてしまった。
「え・・・どうしました?」
「いや、別に・・」
とごまかすと、浅野は話しを続け、
「会社の前まで女の子と密着しながら一緒に笑いながら歩いていたんですよ??」
「・・・・・・・・」
寿々はいよいよ意味が分からず硬直した。
「でも私が史君!って声掛けても全く反応なくて。その女の子と仲良く手を振って別れると、そのまま会社に入っていったんですよねぇ・・・」
浅野は不思議そうに話した。
「でもなーんかいつもの史君ぽくないって言うか。史君っていつもはオーラ全く見えないんですけど、今日見た史君は白いオーラが漂っていてまるで別人のようでした」
浅野がオーラの話しを力説しているというのに、寿々の耳には全く届いていないようでそのままフラフラとコンビニを出て行ってしまった。
「え?三枝さん??」
寿々は再び編集部に戻ると一瞬入り口で止まった。
「寿々さん、そろそろ企画の打ち合わせしませんか?」と史が席から声をかけるも、寿々は嫌そうにチラッと史を見るとすぐに反対側にある編集長最上の席の方に進み、少しだけ話をすると自分の席へと戻ってきた。
「寿々さん。今日どうしたんですか?様子がおかしいですよ?」
史は心配そうに問いかける。
しかし寿々は史の言葉には一切返事をせず黙々と片付けをし始めた。
「・・・何してるんですか?打ち合わせは?」
「・・・・・・・・」
寿々があまりにも死んだ様な顔で無視するので流石にその動作を止めようと寿々の手を握った。
「寿々さん?」
「!!!・・・・・」
寿々は思わず史の手を払いのけ、そして、
「・・お前、マジ怖いわ・・。俺今日もう帰るから・・・」
そう言って寿々はそのまま編集部を出て行ってしまった。
手を払われた史は寿々のその反応と言葉があまりにショックでその後暫く動けずにいると、丸が駆けつけ、寿々の席に座ると硬直した史の目の前で手を振ったり指鳴らしをして何とか正気を取り戻そうと手を尽くした。
「おーい史!!しっかりしろ!目を覚ませ!!」
するとそこへコンビニから戻ってきた浅野が史と丸の方へ寄ってきて、
「あれ??三枝さんどうしたんですか??今急いで外に出て行きましたけど。もしかして帰ったんですか??」
と話し、
そしてまだ正気を取り戻せない史に対して、
「史君も本当どうしたの?さっき上で何度も呼びかけたのにずっと女の子とニコニコと話していて無視するなんて酷くない?」
と言うものだから史もとんでもなく怖い顔をして、
「何の話しですか??それ・・・」
と浅野を半ば睨む様に返した。
「はぁ?ドッペルゲンガー??」
その後丸に給湯室に連れ込まれた史は、尋問のように質問攻めに合っていた。
「でも本当に史、会社に来る前までに女の子と一緒に歩いてたりしなかった??例えば道聞かれたとかナンパされたーとかもなく??」
と根掘り葉掘り聞かれる。
「・・・・あるわけないじゃないですか。俺ここまで自転車で来てるんですよ。もしそうだとしても少なくても自転車転がしてなかったらおかしいでしょ・・」
「なるほどね。確かにそう言えばそうか」
史は給湯室の床にしゃがみ込み膝と頭を抱えている。
「んで?もしかして三枝が今日おかしかったのって・・・」
「多分俺のドッペルゲンガーでも見たんじゃないですか??その浅野さんが言ってたとおりなら良く分からない女と歩いてるのを見たとか・・・」
と史がさらっとそんな事を言うものだがら、
「?いやいや。あんたら別に付き合ってるとかじゃないんだから、それで三枝があんな反応するのおかしくない??」
「付き合ってはいませんが・・・・俺。丸さんに言われた通り思わず言ってしまいました。つい一週間前に」
「はぁあ????」
流石の丸も史の高校生ムーブに
「はぁ。若いって怖いわ・・・」と呆れてしまった。
「それで?三枝はなんて?」
「全て丸さんが言った通りです。本当に嫌がられるわけでも傷つけられるわけでもなく見事に振られましたよ」
「まぁ三枝ならそうだろうね。まさか高校生にいいよーって言うわけねぇだろ」
「・・・・・・・」
それは本当にその通りなんだろうけれど。史は丸の言葉に傷ついた。
「んで?三枝はついこの前告ってきた男がたった1週間で女とイチャイチャしながら歩いているのを目撃して、今日のあの態度か。そりゃあ怖がって当然だろうね。振った立場だとしてもそれは流石に頭おかしくなるな。クソ真面目な三枝ならなおのことね」
史は丸のその言葉を聞いてすくっと立ち上がると、
「俺寿々さんとこ行って説明してきます」
と言って出ていこうとするのを丸は取り押さえた。
「待て待て!今行っても信用してもらえるかわからないでしょ??」
「じゃあ何ですか?俺は自分のドッペルゲンガーを捕まえて、俺じゃありませんよ!って一緒に写真でも撮って証拠を見せればいいんですか??それこそアホらしい・・・大体ドッペルゲンガーなんて自分で見ようとして見れるものじゃないのに」
そう言うと丸は腕を組み暫く考えたのち、
「よし。・・・じゃあ手分けして探してみるか・・・」
とやや楽しそうに口角を上げた。
その日の夜8時
アガルタ編集部面々。
吉原、中嶋、浅野、篠田、菊池、丸、そして史。
総勢7名で渋谷で史のドッペルゲンガー大捜索作戦を急遽執り行う事になった。
「・・・なんで副編までいるんですか?」
史は小声で丸に聞くと、
「めちゃくちゃ見てみたいんだって!多分この中で一番あんたのドッペルゲンガー見たいの副編だわ」
「ところで、まさか全員に寿々さんの事言ってたりしてないですよね??」
と史は丸を見下ろしながら疑いの目で見る。
「ばっか!流石にんな事言えるわけないでしょ??ただ浅野の証言を元にあんたのドッペルゲンガーがいるから探しにいこうぜ?って言ったら皆んな来ただけよ!」
『皆んなアホみたいにオカルト好きで本当に助かったな・・・・』
史は心の中で失礼ながらもアガルタの人達がいてくれて本当に良かったと感じた。
「んん゛っえー・・ではでは。これより史のドッペルゲンガー大捜索作戦を開始します!」
丸はいいとよを出てすぐの場所で高らかに宣言をした。
「ちなみに一番最初に史のドッペルゲンガーを目撃した人にはなんと!川口磐太郎先生のサイン入りTシャツを贈呈します!是非とも本気で頑張って下さい!」
と丸が言うと全員から「おお!」と拍手が上がった。
「ではルールを説明します。範囲は渋谷駅から半径2kmくらいまでを目安とし、路地裏までくまなく捜索して下さい。まあこの見た目なので顔さえ見ればまず間違いなく分かるかと思います。後ろ姿だけで判断しないようにして下さい。あとこれは皆さんご存知だと思いますが、ドッペルゲンガーは話しかけても返答しない場合が多いので、返答がなければ要注意して下さい。ちなみに他人のドッペルゲンガーを2回連続で見ると死ぬ可能性もありますので併せて気をつけて下さい!」
丸の説明と面々の異様さにいいとよから出てくる社員が何事かとジロジロと白い目で見て通ってゆく。
「最後に、もし遭遇した場合。本物の史かどうかを見極める方法を今から話します」
そう言うと丸は小さい身体で両手を大きく開き、円陣組むから来いとばかりに全員を引き寄せた。
そして全員に耳打ちする様に小声で説明すると、
「・・では捜索開始!!」
という合図とともに一斉に方々へと歩き始めたのだった。




