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オカルティック・アンダーワールド  作者: アキラカ
一家眷属父子譚【短編】

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第3話 親子


 (ふひと)寿々(すず)が帰った後も2時間程修正調整を進め、何とか形になったと思うとようやく仕事を終えPCの電源を切った。

 編集部ではまだ丸も吉原も篠田も後藤も作業を続けている。


 史は明日も学校があるので帰宅するためにダウンジャケットを羽織りバックパックを背負った。


「・・お先に失礼します」


 そう言うと丸は目は合わせずに

「お疲れ~」

 と手だけ振って返してくれた。







 史は自宅マンションへ戻ると玄関を開けた途端に気が緩んだのか欠伸が出て急に眠くなってきた。

 そしてリビングの扉を開けいつも通りに自室へと向かおうとしたところ、目の前のダイニングチェアに珍しく父の総司(そうじ)が座っているのを見て驚いた。


「!?・・・・・・」


 史はその異様な雰囲気をすぐに察したが、やはり総司と会話をするのを躊躇い見なかった事にしてそのまま自室へと足を進めようとしたのだが。


「・・・史」


 総司に話しかけられ仕方なく父親の方へと視線を戻す。


「・・・・・何ですか」


 史の総司への言葉はとても冷たい。

 まるで寿々と会う前の史に戻ったように史は冷静に、そして心底嫌そうに返した。


「・・・今日。最上さんと話をしたよ」

「・・・・・」


 そう聞いて史は総司が何を言いたいのかすぐに理解した。


「史・・・。何で去年の付きまといの事件で三枝君が怪我をした事を黙っていたんだ?」


 史は確かにその話を総司にいつまでも出来ずにいた事をマズい事だとは認識していた。

 しかし心の中で寿々の事を話すことによって、総司が自分の()()として寿々に接する事も、また総司と寿々の、しいては秦家と寿々の距離が近づく事を本能的に拒んでいた。


「・・・・・・」


 史は返答が出来ず押し黙る。


「最上さんにはちゃんと自分で話すって言ったんだろう?ならばちゃんと話てくれないと僕だって三枝君にお詫びもできないじゃないか」


「そんなの・・・・しなくてもいいじゃないですか」


 史は視線を逸らしたままバックパックのショルダ―を握る手に力が籠った。



「そういうわけにはいかないだろう?三枝君は僕の編集担当でもあったんだぞ?自分の息子の事件に巻き込まれて彼が怪我を負ったのを親の僕が黙っているなんてありえないだろう?」


 総司も思わず声を大きくして抗議した。



「・・・寿々さんが貴方の編集担当だったのと、今俺の教育担当である事を一緒にしないでください。それに俺は貴方の事を親だと思っていませんし、これからもそう思う事はないです。だから体裁だけの父親面で俺に説教するのはやめて下さい。・・・確かに編集長に約束した手前報告を怠った事は認めます。・・でも貴方がそれを諫める権利はありません」


 史は最後の方は相当怒っているのかどんどんと目の色が変わり恐ろしい目つきで総司を睨んだ。



 総司はその目をよく知っていた。

 その目こそ(はだ)家の目だ。

 自分の母親、祖父、そして姉。皆一様に誰かを何かを恨む時には獣の様に釣り上がりその目で人と自分に呪いをかける。

 勿論こんな不甲斐ない自分にさえその感情とその目が存在しているのだ。



 総司はそれを理解してもなお史だけはそうならないで欲しいと願い、この18年間必死でやってきたつもりだった。

 しかし何をしても人一倍不器用で自信のない自分がどうあがていても本当の意味で父親になどなれるわけもなく、結果的に息子の心を傷つけるだけで何もいい方向に進む事はなかった。



「・・・すまない。確かにそうだね。でも三枝君には僕も直接お詫びをさせてもらわないとだから・・・一応その事だけは報告しておくよ・・・」


 総司がそう言うと、史はそのまま目を合わせず自室へと入っていってしまった。





 史は部屋の扉を閉めるとムカついて持っていたバックパックを思わずベッドの上に投げつけた。



『・・・せっかく今日は仕事もそこそこ上手くいって、寿々さんにもめちゃくちゃ褒められて気分良く帰ってこれたっていうのに・・・何なんだアレ!?あり得なさすぎる!!』


 史はイライラが収まらず机の上を叩くように手をついた。



『確かに普通の親になら当然報告しなくてはならないのだろう・・・。でもうちは違う!・・・なのに今更父親みたいな事をしようとするなんて許せない・・・。しかも寿々さんの事に関してだけ何で急にお詫びだなんて言い出すんだ?一体あの人のどこにそんな常識があったって言うんだよ・・・・!!4年前今井先輩に切りつけられた時ですら相手の家に抗議するでもなく、ただおどおどとしていただけだというのに・・・!!』


 史は怒りから思わず涙が机の上に零れ落ちた。

 そして自分が父親の事でこんなにも感情を乱されている事にまた怒りその場にうずくまった。


 そのまま机を背にもたれるようにして膝を抱え、暫くして袖で涙を拭くと大きく息を吐きスマホの画面をつけた。


 時刻はもうすぐ午後11時。

 チャットアプリを開き寿々のアカウントを見つめ、思わず何かくだらない事でも送ろうかと思ったが、こんなぐちゃぐちゃの感情のまま何を送っても自分が惨めなだけだと思い、そのまま画面が暗くなるまでボンヤリとスマホをただ見つめた。








 翌週


 いつになくアガルタ編集部一同は一丸となって校了を目指し、いつもなら深夜0時ギリギリまでかかる中その日は珍しく夜の9時には全て終わり、その後の印刷所からの連絡もスムーズにいき3月号校了となった。


「印刷所から連絡来ました!すべて問題なしだそうです」

 編集アシスタントの菊池が取り次ぎ、その合図と共に皆一気に安堵したのだった。



「はぁ・・・良かった。今月もこれで一安心ですね!」

 篠田が大きなため息とともに天井を眺め背中を大きく伸ばした。


「本当ですね~。とりあえず少しは安心して眠れそうです」

 と寿々も固まった体をほぐすように腰を捻り、まだ本調子ではない左肩を摩った。



 寿々はその安堵感を共有しようと右隣りの史へと顔を向ける。

 すると史は回りの話しを聞いていないようで、まだモニターを眺めながらただひたすらぼうっとしていた。



「史?・・・どうした?もしかしてまだ原稿で気になる部分とかあったか?」

 と寿々が聞くとようやくハッとしたようで

「え?・・いえ」

 と歯切れの悪い返事に、思わず寿々も心配になり。



「・・・・何かまた悩み事でもあるのか?」

 と少しだけ距離を縮め小声で話しかけた。

「・・・え?」

 史はその寿々の言葉に驚き、寿々の目を見つめてしまった。


 今まで機嫌が悪い事や勝手に拗ねていた事だって何度もあったが、そんな風にダイレクトに心配された事がなかったので、急にそんな優しく聞かれどうしていいのかわからず思わず泣いてしまいそうになった。

 寿々もそれに気づき、


「!ちょっと待て・・」

 と史を止めた。


「わかった・・・。その話ちゃんと聞くからちょっとだけ待てよ?」


 そう言われ史も気持ちを落ち着かせ平静さを取り戻す。


「はい・・大丈夫です」


 寿々は編集部の皆がいる中でまさか史を泣かせるわけにもいかず、危ない危ないと冷や冷やしてしまった。


「・・・実はさ、俺も史に話があるんだよ。きっと喜ぶと思って校了まで黙っていた事が」


 と寿々に言われ史は今度は急に緊張感に襲われた。


「・・・なんですか。気になるじゃないですか・・」

 そう控えめに言ったが、その何十倍も胸が高鳴っていた。


「実は・・・」


 と寿々が話し始めようとした時、寿々のスマホが鳴りその言葉を遮る。


「・・・誰か・・ら・・!」

 と寿々は着信を見ると驚き一瞬史を見ると顔色を変え、すぐに立ち上がると電話にでながら急いで廊下へ行ってしまった。

「・・・・何だ?」

 史も今の表情がとても気になり不安になった。




 廊下に出た寿々はその着信に出ると。


「・・・どうも・・・。いえいえそんな事はありませんよ・・・え?これからですか??ちょっと・・・・どうかなぁ・・・・はい・・・はい・・」


 その横を浅野と高橋、それから吉原が挨拶をしながら帰宅する為にエレベーターに向かって通り抜けていった。


「あ~・・・でも今日は校了で今ようやく終わったばかりで・・・いえそれはまだですが・・・」


 寿々は電話の相手との押し問答で困り果てている様子だ。



 ようやく電話を切って編集部へと戻ると寿々はすっかり疲れ果てた表情をしていた。


「三枝~!じゃあうちらも帰るから!」

 入口ですれ違いながらそう言って丸と篠田と菊池が並んで編集部を後にして行った。

「あ、お疲れ様でした・・・」



 その間ずっと不審な顔つきで待っていた史は寿々が戻ると心配して、


「どうしたんですか?・・電話の相手って誰だったんです?」

 と聞くものだから寿々も心底困り果て

「・・・・・うん・・・。まあいいや。ちょっと一緒にロビーまで行こうか・・・」

 とげんなりしたまま史にも支度をするように促した。




 二人がエレベーターで1階に上がると、そこにはなんと史の父秦総司が寿々を待っていた。


 それを見た史はみるみるうちに毛が逆立ち怖い顔に変貌していった。

「・・・・なんで貴方がここにいるんですか・・・」


 史は先ほどまでの寿々との時間を父親にぶち壊され、しかもいいとよは自分のテリトリーだと思っているのにそこに入って来ている事に不快感を露わにし全身で威嚇した。


「史!ちょっと落ち着け・・・・ここでそんなに怒るんじゃない」

 寿々はあからさまな敵意剥きだしの史を一生懸命なだめる。


 一方目の前の総司はいつもの如くおずおずとした態度で寿々に話しかける。

「三枝君。急に来てしまって本当にごめんよ。でも僕も今日くらいしか時間が空けられなくて。どうしても君にお詫びがしたくて無理矢理来てしまったんだよ」


 と寿々に対して申し訳なさそうに、でも不器用というか空気が読めない人の特性なのか、アポイントもなく来られた事に寿々は正直困り果てていた。

 しかしその態度を出し過ぎれば今度は隣の史がただでは済まなそうな雰囲気だ。

 寿々はこの疲れた精神の中でどれだけこの親子の手綱を引けるか・・・正直言って自信はなかった。


「それでちゃんとリサーチもせずお詫びなんて本当に申し訳ないのだけれど。とりあえず近場の中華料理の店を予約しているから。さぁ、タクシーも待たせてあるし行こうか三枝君」


 その言葉を聞いて流石に史がブチ切れて。


「あんた本当に空気読めない人だな!何勝手に会社に押し掛けて勝手に好きかもわからない店予約して連れ出そうとしてるんだ??真面目に引くんだけど!」


 といつも以上に大きな声で総司に向けて叫ぶものだからエントランスにいた社員全員がこの親子をジロジロと見ながらそして避けながら通り抜けてゆく。


「史いいから!声でかいし、とにかく会社から出よう!」

 と寿々も慌てて史を抑えつけるが。


「・・・史。悪いけれど今日は三枝君に会いにきたんだ。だから史が何と言おうと僕は三枝君へお詫びするまでは一歩も引く気はないよ。そんなに怒るなら一人で家に帰りなさい」


 といつになく強気な総司の発言に正に一触即発な展開になってしまい、寿々はもはやどうにでもなれとやけくそになり、


「じゃあ!とりえず皆で行きましょう!!さ、タクシーも待ってますし!急いで!!」


 と二人の腕を無理矢理掴むとそのまま会社の外に連れ出した。




 タクシーの中も二人に挟まれ地獄だったが、店に着いてからも寿々は地獄を味わっていた。


 それなりに高そうな中華料理店では円卓の個室を予約をされ、総司はほぼ対面になるように腰を掛けたが、何故か史は寿々の真横に座りずっと総司を睨みつけている。


「さ、三枝君。好きなものを頼んでいいからね」

 と総司は笑顔でメニューを渡してくれたものの、正直寿々は極度の偏食家なので一体何が食べられるのかメニューを見ても正直よく分からなかった。

「はは・・・ありがとうございます・・・」


 そう言いながらなるべく手をつけられそうなメニューがないか迷っていると、


「大体なんで中華料理なんだ・・・あの人中華料理なんて食べてるの見た事もないのに・・」

 と隣で史も愚痴愚痴と不満を漏らす。というか不満しか言わない。


 総司は総司で好きなメニューを数点頼んで店員にメニューを先に返却させた。


「うぅ・・・・ん。まいったな。どれもこれも食えそうなものがない・・・」

 と呟くと、隣の史が

「寿々さん野菜なら食べられるんですよね?なら適当にこの辺とかこの辺の頼んでおけばいいですよ」といくつかを指差したものの。

「・・俺辛いものも脂っこいものも苦手なんだなんだよなぁ・・・」

 とまるで小学生のような事を言い出すものだから流石に史も

「・・じゃあもういっそう杏仁豆腐でも頼みます?」

 と打つ手なしと言わんばかりに言い放った。


 仕方なく寿々は史が選んだメニューをとりあえず頼み店員にメニューを返す。

 それだけなのに寿々はこの数十分でまたどっと疲れが出てきてしまった。



「三枝君。本当にこの度は史の事で君に怪我を負わせてしまって申し訳なかった・・・。」

 そう言って総司は寿々に頭を下げた。


「先生。もう怪我はほぼ治ってますので本当に気にしないでください・・」


 正直言ってこの展開2度目だったが、編集部で土下座された事など話そうものなら恐らく史は酷く怒ってもうこの親子関係が破綻してしまいそうなので、寿々も上手い事そのニュアンスを出さないよう十分に配慮する必要があった。



「僕から特に史の事で話す事はないのだけれど。最上さんからは三枝君が来てから史がとても楽しそうに仕事をしているって事は聞いているよ。だから本当に何の因果かはわからないけれど。三枝君はもう本当僕ら家族にとってはただの編集者という枠を超え特別な存在なのかもしれないね」


 総司は紹興酒を注ぎながらそんな事をいうものだから、史は再びキっと睨み、


「何言ってんだあんた?」

 と反射的に酷い口調で煽り返した。

「いいから・・もうぉ」

 寿々もいちいち史をなだめるのもしんどくなってきた。


 しかし一方の総司は何故かずっとニコニコとしているではないか。

 寿々の知っている秦総司と言えばいつもおどおどとし、決断力に欠け、自信もなく声を掛けて励まさないと仕事を進めるのもままならない、そういう人物だ。

 だがどうも今日の総司はいつもより余裕があるように見える。

 もしかしたらだけど、この人仕事さえしてなければ本当に普通のイケメン中年なのではないだろうか?

 寿々はふとそんな事を考えていた。


 料理が運ばれて来てからも総司は寿々にあれやこれやと話しかけ。それでも空気の読めない発言をする度に史がキレて突っ込みを入れるの繰り返しが続き、寿々は結局ほとんど料理が喉を通らず時間だけが過ぎて行った。


「いやぁ、それにしても三枝君とこうやって数年ぶりにゆっくりと話が出来て本当に良かったよ・・」


 総司は史の感情と反比例するようにとても上機嫌な様子だ。


 それでも寿々はなんだかんだでどれだけ親子関係がギスギスしていようとも、父親という存在がまだこの世にいて不器用なりも子供の事を想っていてくれているという事を素直に羨ましくも感じていた。


 寿々は4歳の時に父親を亡くしている。

 母親からは仕事中の事故死と聞かされているが、正直今となってはそれも真実なのか疑問に感じ始めていた。

 寿々はふと夢に出てきたイタコの祖母を思い出し。


『もし本当にお祖母さんが自分のせいで命を落としていたとしたら・・・もしかしたら父親も自分のせいで・・・・・』



「三枝君??」

「寿々さん?」


 総司と史はぼうっとする寿々を心配し同時に声を掛けた。


「ああ、すみません。ちょっとふと自分の父親の事を思い出してしまいまして・・・」


「三枝君のお父さんは・・?」

 と総司が聞くと


「俺が4歳の時に事故で亡くなりました。正直言ってほとんど父親の記憶はありませんし、数枚の写真でしかその存在を知る事は出来ません」


「・・・・・・」

 史は前にも寿々の父親の事は少しだけ聞いていた事があったが、急に寿々がその話を持ち出して何も言えなくなってしまった。


「俺は父親と喧嘩は勿論、憎む事も頼る事も出来ずに生きてきたので正直どんな事があっても父親が存在しているって事がただただ羨ましいです。本当に現実を知らない無い物ねだりですけど・・・」


 そう言ってから隣の史を見て、


「史がどういう境遇で苦しんできたのか・・・それを想えば本来ならこういう発言も軽率に言うべきではないのかもしません。・・・でもきっと父親がいない俺なんかより何倍も辛い事があったはずです。この世にいない事よりいる事の方が辛いなんてとても俺には耐えられそうにありません」


 そしてもう一度総司に向き直り、


「でも俺は先生が不器用でもずっと努力を諦めない人だという事もよく知っています。まぁ・・・方向性見誤って勝手に落ち込んでいるのだけは正直もう少し減らして頂きたいですけど」

 と苦笑いをする。


「先生。だから史との関係をこれからも絶対に諦めないでください。史がどんなに先生を憎んだとしても嫌ったとしても絶対に・・・」


 史は下を向き思わず涙を落としそうになったのだが・・・


「さえぐさぐぅん!!君はなんてできた人なんだ・・・!!」

 と何故か史より先に総司が号泣しているではないか。


 その姿に寿々は勿論、史は完全にドン引きしている。

「えええ・・先生??」

「うわ・・・まじキモ・・・」


「三枝君!!君は僕たちにとって本当に特別な存在なんだと、僕は確信したよ!!もう今すぐにでもうちの家族になってもらいたいくらいだ!!!」

 と分けの分からない事を言う総司に、


「絶対にお断りします。これ以上先生と史に挟まれて苦労したくありません」

 と真顔できっぱりと断りを入れた。


「・・三枝君は、そういう最後にちょっとキツイ事をサラッと言うところが妻のハンナとそっくりだよ・・・」

 総司も真顔で返した。




 会食は思ってた以上に最悪ではあったがとりあえず総司だけは満足したようで、その後店で総司と別れると寿々は駅に向かう為、史は自転車を取りにいいとよに戻る為に二人は夜道を歩き出した。



「・・・寿々さん。なんかもう・・本当にすみませんでした・・」


 歩きながら史はもう恥ずかしいを通り越して情けなくて仕方がなかった。


「別に史が謝る事じゃないだろ?」


「・・・はぁ・・もう」

 史は先程から何回ため息をついただろうか。


「史、もしかしてここずっと落ち込んでたのって先生との事だったのか?」

 寿々にそう聞かれて史はすぐには何も言えなかった。


「・・・・・・・まぁ」


「そっか。俺はてっきり原稿の出来について悩んでいるのかと思っていたけれど。なんか今日のお前見てていつも以上に気が立ってたから。なるほどなって思ってしまったよ」


 史はその言葉に本当寿々には敵わないな・・と。そう感じた。



「でも、俺さっきあんな言い方したけどさ。実際先生が俺の親だったら今の史程じゃなくてもやっぱり同じ反応しただろうな~、はは」


 寿々の言葉は史にとって何の慰めにもならなかったが、それでも少しだけ冷静にはなれた。




「・・・ところで、寿々さんさっき編集部で俺が喜ぶ話があるって言ってましたけど、何だったんですか?」


 と、史はずっと聞きたかったとばかりに質問をする。



「そうそうその話!実はな、この前編集長と話して。俺どうにかまた史が取材に同行出来ないか粘って頼んでみたんだよ。そしてたら危険な事がなければ基本は俺に委ねるって、許可をもらったんだ!だからさ、また一緒に外に取材に行けるぞ!」


 寿々は心から嬉しそうに笑顔で一人はしゃいで史に答えた。



「・・・・・・・」


 史はその言葉に足を止めた。



 寿々はそのまま少し前を歩き続け、


「でもまぁちゃんと編集長に事前の許可は必要だし、それに俺まだ心霊スポットとかは抵抗あるからなぁ・・・。まずはインタビューとか来月の現代妖怪の取材とかくらいになると思うけど・・・」



 と寿々は隣に史がいない事に気づき後ろを振り返った瞬間。


 急に史に抱えられるように抱きしめられた。



「・・・???」



 寿々はあまりに突然の事に頭の中が真っ白になったが、史は寿々の足が浮くほど力強く抱きしめると、



「寿々さん・・・どうしよう。凄く好きです・・・」



 と耳元で囁いた。







『・・・・・・・どうしようは、俺の方だよ・・・』

 と寿々はそのまま抵抗も瞬きもする事なく、目の前に広がる1月の夜空をただ呆然と見つめた。








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