1話 御恩と奉公
僕は今ある記憶を、由良穂香に話した。
「・・って事は、私を誘拐した事も記憶にない訳ですね」
「・・・ですね」
「誘拐を実際に実行したのは、家臣くんで・・」
由良穂香は、そう言うと、僕の匂いを嗅いだ。
「この匂いで、間違いないです・・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・・ちょっともう嗅ぐの止めてもらえません?
なんか落ち着かないので・・・」
穂香は、チラっと僕の顔を伺った後、嗅ぐのを止めた。
彼女がその視線の奥で、
何を考えているのかは読み取れなかった。
「家臣くんが私を誘拐した証拠は、あちこちに残っていると思う。
それはあえて残させた・・・この誘拐が失敗した場合もしくは、
成功したとしても、家臣くんにすべての罪を擦り付ける為に」
「それ酷くないです?」
「ありがちな手法です。
私は目隠しされていて、他の犯人グループの顔は解らない。
ただ家臣くんが、お弁当を買いに行かされたり、
怒鳴られていたのは聞こえていた。
あの時、ちょい泣きの家臣くんは外に引きずられて行った・・・
そして、4、5時間後、家臣くんだけが戻ってきた。
この事から求められる結論は?」
と問われても僕には何も答えられるわけもなく。。。
由良穂香は、じっと僕の顔を見つめた。
美少女オーラを復活させた由良穂香に、
見つめられるのは、悪い気はしなかったが、
その鋭い視線は、居心地が良いとは言えなかった。
穂香は、何か一つの結論を見つけた表情の後、
瓶に入った軟質のミネラルウォーターを飲み干した。
軟質の水に流されるように、その鋭い視線は消えた。
「ところで家臣くんに挙げたいものがあるんです。」
穂香は、財布から1万円札を1枚僕に手渡した。
「なんです?」
「御恩」
「御恩と奉公の?」
「そう家臣くんの俸禄です。あるじとしての責務ですから」
1万円・・・日給1万円。
バイト代としては悪くないんじゃないですか♪
「その代わり、家臣くんは命がけで『いざ穂香!』ですよ」
いざ穂香・・・日給1万円で、命がけで『いざ穂香!』は、
少し安いような気もするが、相手は女子高生。
あまり吹っかけても・・・記憶もない事だし、妥当だろう。
「了解しました。その御恩お受けします。」
「良かった~」
穂香は本当に嬉しそうに微笑んだ。
この微笑みの為なら、日給1万円だって、十分な金額と言える。
「私にとって初めての家臣だから、奮発しちゃった。
私のバイト代5万で、その2割でしょう。」
「えっ?」
「ん?」
「もしかして、それって俸禄は月1万って事?」
「うん」
「月1万貰って、命がけで、いざ穂香ですか!?」
「えー私の収入の2割ですよ。私が100万石なら、20万石ですよ!
大名さん扱いですよ!」
あなたが100万石ならね。
「そのお顔、不満なんですか~
大名さん扱いなんて、
故郷のお母さん泣いて喜ぶ扱いですよ~」
故郷も何も、記憶すらありませんから、私。
「私なりに精一杯の誠意の御恩なのに・・・」
「・・・」
まあ、俸禄貰えるとは思ってなかったし、
うん、まあ~月1万で手を打とう。
「解りました。その御恩で良いです」
「ひゃは♪それじゃあ、ご褒美の頭なでなでしてください」
「家臣があるじの頭を、ご褒美のなでなでって、
どこの世界の主従関係ですか!」
「これは家臣くんの初めての『いざ穂香!』です。
さあ、いざ穂香♪」
家臣の僕は、あるじの頭をなでなでした。
由良穂香は、少しだけ照れていた。
つづく




