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111 承久の乱

 吾妻鏡には、この時のことは「石階之際に窺い来たり、つるぎを取りて丞相(大臣)を侵し奉る」とある。しかし、筆者は日頃、御家人がすぐ近くに待機する場所で実朝将軍が殺害されたことに疑問を持っていた。古くから代々木八幡宮で警護の役を務めてきた石井保治さんという方の家の口伝では実朝公は石階段の大銀杏の所で殺害されたのではなく、その上の宮に参拝したところを殺されたのだという。石井家の祖先の鶴岡八幡宮の警備であった人が、それを目撃したというのである。

 また、この時公曉を助け暗殺に加わった僧を調べてみると興味深いことが発見できる。「鶴岡八幡宮寺供僧次第(ぐそうしだい)」という記録には《僧、良祐りょうゆうは北条時政に推薦されて僧となった。顕信けんしん猷弁ゆうべん良弁りょうべんのうち二人は北条氏の推薦によって僧となったという記述がある。僧のほとんどが北条氏の子飼いであるのだ。しかもこの僧達は事件後、追放という軽い罪で処理されているのみなのである。つまり、この事件はすべて義時の手の内でおこったことなのである。公曉は、その日の内に義時、義村の兵によって予定通り誅殺されてしまった。


 一月二十八日 辰の刻(午前八時頃)実朝室は悲しみの中、出家した。戌の刻(午後八時頃)実朝の首が見つからないまま、勝長寿院の横に葬った。実朝が亡くなったことによって、百人を越える御家人が出家した。



 承久三年 五月十九日 実朝将軍暗殺から丸二年が経った。京都守護の伊賀光季いがみちすえ(姉妹が義時の妻)から去る十五日京都を発した飛脚が到着した。

 後鳥羽院が方々に声をかけ官軍が組織され始めているという。光季にも院からの強い要請があったが撥ね付けたと言う。広元の息子の親広は守護であるが院の要請に応じたという。光季は西園寺公経さいおんじきんつね(右近衛大将、西園寺家の始祖、頼朝の母の姉妹を妻とし、京における源氏の強力な支援者)と語らっていたので、身の危険を知りながら、この行動を取ったのだ。光季は十五日牛の刻(昼)に官軍によって討ち取られてしまった。京都守護は鎌倉幕府の朝廷に対する観察機関で、それ相応の武力を蓄えていたが、千を越すにわか官軍も勢いには勝てなかった。

 伊賀光季誅殺の後、後鳥羽院は北条義時追討の宣旨せんじを全国に下した。


 関東に当てた宣旨を持った使者も今日、各地に到着したという噂である。捜査したところ押松丸という京都から来た者が宣旨と添状を所持していた事が判明した。それを取り上げ尼御台所(政子)邸で政子と義時は緊張の面持ちでそれを開いて見て驚いた。

 三浦義村の弟、胤義から義村あてにも義時追討の薦めが来た。

「宣旨が届きました。『勅命に応じて義時を誅殺せよ、勲功の恩賞は欲しいだけ取らせる』との事です。今こそ兄上は立ち上がる時です」との内容である。

 義村は返書を持たさずに使者を追い返すと、その書状を持って義時の所に行った。そして言う。

「私は弟の反逆に同意せず、義時殿の味方として、他に並ぶ者がない忠誠を尽くします。」


 時房、泰時、広元、足利義氏あしかがよしうじ(母は時政の娘。濃い親族として、義時、泰時を良く補佐した。足利幕府を立てた足利尊氏の祖)以下が続々参集し始めた。


 天皇家と戦い、賊軍になると言うことに怖じ気づいた御家人を集めて、政子は一世一代の弁舌をふるった。

「みな、心を一にして承るべし。これ最期の言葉なり。故右大将、朝敵を征伐し、関東を草創してより官位といい、俸禄といい、その恩沢すでに山よりも高く榠勃ねいぼつ(海溝)よりも深し。報謝の志浅からんや。しかるに今m逆心のそしりにより、非義の綸旨りんしを下さる。名を惜しむの族、く秀康、胤義らを討ち取り、三代将軍の遺跡をまっとうすべし。ただし院に参らんとするものは、ただ今申しきるべし」



 



 

 

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