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110/116

110 右大臣拝賀

 大蔵御所から鶴岡八幡宮までの五町(550㍍)の短い距離に千人を越える、武将、宮人の隊列が進むのであるから、先頭の当たりの実朝将軍の牛車が宮に辿り着いてなお、後尾はまだ御所を出たばかりという様子であった。

 実朝の牛車の前を、大刀を掲げて歩む義時は、刀をとなりの御家人に託すと、三十人ほど先の源仲章みなもとのなかあきらに近寄ると、小さな声でこう言った。「どうも、身体が不具合でございます。申し訳ありませぬが、お剣持ちを変わって頂きたい」「おお、それは大儀な事でございますな。それではお代わりいたしましょう」

 義時は、その場所から離れていった。仲章は、将軍の牛車の前の、お剣持ちの位置に行き、お剣を預かった。牛車の中の実朝は、義時が場を離れ、仲章が変わる、その光景を御簾みすごしに、いぶかしげに見ていた。義時が、かがり火の間の暗闇に姿を消す後ろ姿も見えた。

 夕暮時からフワフワと降りはじめた雪はやがて細かい、視界を妨げるような雪に変わった。

あまりの雪に、式は中止かと思われる頃、二尺も積もって雪がやんだ。雑役たちが参道や石段の雪かきを行った後、実朝は石段下で牛車から降り立った。かがり火に照らされた雪は美しく輝き、宮人、御家人達の華麗な装束とあわせて荘厳な雰囲気を盛り上げた。殿上人九人と、お剣持ちの源仲章と将軍実朝が銀杏の大木が横に立つ石段をしずしずと登って行く。石段を登り切って、宮の僧の案内で本殿の席に座った時、事もあろうに、筆頭の公曉と手下の僧が白刃を手にして、実朝達を囲んだ。実朝は驚いた。公曉が目の前に立つと、「父の仇討ちでございます」と強い一言を放つと、実朝の心臓を一突きにした。実朝は一瞬、この世に悔いはないと思った。痛みも感じないうちに、実朝の視界は暗転した。源仲章と殿上人達は恐れ、おののき隅によけていたが、源仲章が引きずり出されて、やはり胸を一突きにされてたちまち息絶えた。


 本殿から逃げ出した殿上人が、石段の上で、大声を上げた、「右大臣殿が殺害され申した!」石段下で待機していた御家人が騒然となった。石段を駆け上がり、本殿にはいってみると、実朝の首なしの遺体がだれもいない本殿に横たわっていた。

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