109 義時の策略
義時邸は雪で白くなっている。雪は静かに降り続けている。夕刻、義時は一人居室に居て、思索に入っている。ー 右大臣就任の晴れ舞台、鶴岡八幡宮で行われる式典はまたとない仇討ちにふさわしい場所だ。この仇討ちの裏に俺がいることを誰に覚られてもならない。仇討ちの目標が実朝だけとは不自然だ、当然この俺も目標だろう。公曉の徒党に密かに加わらせておいた、義村の息子からの話しでは、公曉は俺をも暗殺しようと思っているようだ。それは当然の事だ。俺はどうやって、仇討ちから逃れるか・・・。俺は実朝将軍の後ろを、お刀を持って歩む、そうである限りでは、俺も公曉達の法師によって殺されるだろう。お剣を、俺が持たないわけにはいかない。持たなければ犯人は俺だと解ってしまう。・・・そうだ、お剣持ちを、体調が悪いなどと言って、途中で変わってしまおう。うまいことに、公曉は俺の顔をあまり良く知らない。拝賀が行われる時は夜だ。夜の闇の中、かがり火の光だけではお剣を持っているのは俺か他の者かわかるまい ー
一月二十七日 晴のち、たそがれ時より雪 積雪二尺(60㌢) 実朝将軍は右大臣就任拝賀(右大臣就任お礼の参宮)の為、鶴岡八幡宮に行く。酉の刻(午後六時を中とした午後五時より午後七時)御所より出立する。次は参賀の行列。
二列の牛馬の雑人(厩舎の者)計四人。薄紅色の狩衣。袖すぼみ縫い。
雑事に関わる舎人(下級官人)二列計四人。柳の様、細筋模様のかみしも。漆塗り烏帽子。
安達景盛他二人
殿上人(朝廷御所に入ることができる高位宮人)二列計十人。(文章博士源仲章を含む)
前駆の笠持ち一人(雨の為の菅笠)
前駆の御家人二列二十人・最後尾、お剣持ち・北条義時
宮人二人 以上二十二人は全て 白地の狩衣・弓を持ち弓筒を右腰につけている。
実朝将軍の乗る牛車に、供の者四人。童姿の牛使いが一人。
随兵 二列十人 それぞれ甲冑持ち・弓矢持ち各一人、路傍を先に行く
雑色(雑役、使い走りの侍)二十人。平服。
検非違使(朝廷令外の官、鎌倉幕府成立前は警察官と裁判官を兼ねる強権を行使した)とその郎党。(舎人。郎党四人。調度係の小舎人・童各一人。看督長(検非違使属官、牢獄管理、犯人逮捕などにあたった)二人。火長(下級職員)二人。雑色六人。放免(最下級の手下。刑期を終えた囚人や許された者が犯罪人の捜査、護送などに当たった)五人。
次に調度係 佐々木義清と随臣六人
次にお車の公卿 各一台五人(実朝室の兄、坊門忠信を含む)それぞれ随臣五人ほど付く。
次に御家人二列三十人
その後に郎党が数多く千人ほども連なる。