表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/116

103 渡宋船の進水

 台の上に立った和卿は大きな声で話し始める。

「皆さんのお力を頂き、渡宋船ができあがりました。今日は、皆さんと協力して、船を海に浮かべます。大変重い物です。大太鼓をたたいた時に力を入れて引いてください。」

 和卿の弟子の造船頭がゆっくり太鼓をドーンとたたくと、御家人、船大工、郎党が顔を真っ赤にして綱を引いた。大船はなかなか動こうとしなかったが、やがてみしみしという音とともにゆるりゆるりと身動きし始めた。ドンという音とともにギシリギシリと前進する。敷き詰められた丸太の上をそりのように船台が滑って行くのだ。

 やがて船は海に入り始めた、実朝、室、義時、広元が、目を見開いて、御車の御簾の影からそれを見ている。その時「ズン」という鈍い音がして船が止まってしまった。より多くの人々が船を押すが、あたかもくっつけてしまったように微動だにしない。海の方から船で引っ張る、牛を連れてきて人とともに押してみる、何をしても無駄であった。日頃、浜で見物していた漁師が言うには「あの、遠浅の浜で大船を造って海に浮かぶはずがなかんべ。あの和卿という男は船の事をしらねえんじゃねえか?」と言うことだった。和卿は東大寺建立に当たり建材を横領し宋に帰国する船を造ろうとして、後鳥羽院から出入り禁止を言い渡された男だという風評もあったのである。今日それが具体的現れてしまったのかもしれない。

 義時が去り、御家人と郎党が去り、実朝と室と広元と少数の御家人と陳和卿が浜に取り残された。まるで言葉がない。和卿の目から涙が溢れている。浜におりた実朝の前で土下座すると、無言で去って行った。実朝は近侍を残して、室と広元を帰らせた。

 夕暮れて行く浜で、実朝はいつまでも酒を飲んでいたが、船に合掌すると「帰るぞ」とポツリと言った。

 由比ヶ浜に誰もいなくなった。海にのめり込んだ姿の大船が、折からの満月に照らされているのみである。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ