紫の少女
「ははーん、なるほどなるほど」
わかったぞ。分かっちゃったもんね。
「ま、ゲーム召喚ではありがちなパターンだな」
…って事は、
「俺を召喚した美少女はどこだ〜?」
やたら視力のいい目を見張らせる。
うーん、よし!
いない事だけは分かった!
とりあえず行動あるのみってやつよ!
「あのー、ちょ〜っと聞きたいんですけどぉ」
道を歩いていた女の人に腰を低くして訪ねた。
「え、あ、おい!」
ナチュラルスルーかよ。
「ったくよー…」
しゃぁねぇか。こうなったら1人で何とかするしかないな。
しばらく歩いた所にあった細い路地の階段に腰掛ける。
「しっかし、常備していた物が菓子パン一つとは、情けないぜ」
そう呟いて残りわずかとなったメロンパンにかぶりついた。
残りの一口を食べようとした時だった。
ジャラッジャラと何か音をたてながら近づいてくるのが分かった。
「あ……」
女の、子ども?
ボロボロの首元の衣服。
ノースリーブのそでに足首までぎりぎり見えないくらいの丈、良く言えばワンピースのようなデザインだが…
悪く言えば、布切れを巻き付けた様にしか見えねぇな…よく見ればノースリーブの袖ってただ千切れたって感じだし
どう、、したんだろう、
もしかして、
「……ん、食うか?」
残りの一口のメロンパンを差し出す。
「…って…返…して、」
「は?お前のものなんて持ってねぇよ…つーかむしろ初対面。」
「私の…大切…っ」
薄暗いこの路地でキラッと光った刃物。
おいおい、そんなのどっから取り出しやがったんだよ…物騒だ。
「返してっ!!!」
両手で小さいナイフを持ち、走ってくる。
「うわっ!」
辛うじて余けた先端にまたこっちに向かって走り出す女の子。
「待て待て待て!」
転けそうになりながら、細い道を縫うように光の方へと抜ける。
ドンッと鼻に鈍い衝撃を感じた
「ってぇ…わり!」
辿りついた勢いで出たせいで人にぶつかった事に気づいた。
あ、そうだ!後ろ!!
女の子に追いかけられていたのを思い出し振り返ったとたん、カランっと落とす音が響いた。
地面に落ちたナイフを見て安堵の息をつく。
「あーら、ごめんなさい坊や」
「ぼ、ぼう!?」
顔を上げて初めて目が合った時思わず息を飲んだ。
で、でけぇ…どんな体格してんだこいつ。
銀色の髪、銀色の目、
白い肌に、
赤い唇。
右手には何かを握っているようだったが壁が邪魔で見えなかった。
「……っサティア…様」
1歩近づいた女の子は震えていた。
「あら、あんた…ねぇ坊や?」
女の子から俺に視線を移したそいつは話を続けた。
「随分と慌てた顔していたけど、この子に殺されそうになっていたのかしら?」
下唇を舐めてからニンマリと笑った銀髪に悪寒さえ感じる。
「…あ、ああっそうなんだよ!急に刃物向けられてよー」
そこまで言うと彼女の落としたその刃物を拾った。
歩く度に聞こえるジャラッとした音。
女の子と同じだ。一体なんの音だ?
「…ぁっ、サティア様っ…あのっ」
さっきよりも震える足。
きつく握りしめたスカートのせいで少し上がった裾から見えたそれに、一瞬で察しがついた。
「おい!何すーーー…」
「それは、こういう事かしら?」
ぐちゃっと出た音が耳元で聞こえた気がした。
「なっ…」
一瞬で心臓めがけて刺していた。
躊躇いも迷いもねぇ。
悲鳴もうめき声も無く静かに倒れた女の子の血が、地面についていた俺の手に流れてきた。
「っ……ひっ…」
「仕方ないのよ〜これはルール違反だもの」
ルール…?
「こんな底辺の奴らは武器は使ってはいけないのよ」
何だってんだよ…だからって簡単に殺せるのかよ
サティアと呼ばれたそいつは指についた返り血を舐め、また歩きだした。
「んーやっぱりダメねぇ安物は。じゃあね坊や」
早く、早くこの子をっ…まだ助かるかもしんねぇ!
誰かっこの子を…っ!
女の子を抱えて病院を探してまだ知らない町を走り回る。
あぁ、そうだ。
俺の考えた通りだ。
銀髪が右手に持っていたものと言い、
そいつの後ろを歩く人と言い、
ジャラジャラとした音の正体。
銀髪に銀色の目。
あいつは、間違いなく
「すみませんっ誰かっこの子を!誰か!助けてやってくれよ!」
奴隷狩り…奴は奴隷商人だ。
「誰か!誰かっ…」
なんでみんな知らん顔するんだよっ…
誰かっ…!
「ここへ、入りなさい。」
その声とともに一つの扉があいた。