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挑戦 Ⅱ

 二基のジェネレーターが稼働し、背面の翼が展開する。ばらまかれた蒼い粒子が廃墟の町を漂い、空気に溶けていく。相変わらず綺麗な出撃ムービーを楽しむ余裕は、今日ばかりは無かった。


 輝の駆る〈アフトクラトル〉と葵さんの〈アカンティオン〉。どちらも強敵であることは考えるまでもなく明らかだった。


『陸、いつも通りにいこうね』

「ああ、分かった」

 いつも通り――というと機動性を生かし俺が強襲、一対一に誘い込むプレイスタイルを貫けと言うことだ。元々〈ラビュリント〉には一対一が適している。実際、〈フリューゲル〉の機体速度を生かすためにも、そっちの方が都合は良い。

 それとも、怒りを抑えて、という意味だろうか?

 どちらにせよ、平常心で立ち向かうだけだ。


『〈アカンティオン〉は〈アフトクラトル〉の支援機みたいね、この感じだと』

『〈アカンティオン〉は装甲が厚いみたいだけど――ひとまず、そっちの対処お願い! 後者はわたしがどうにかするから』


 アフトクラトル――黒ベースの塗装。ひろげた赤いマントのような形状のスラスター……だろうか、そして王冠のような索敵用のアンテナ、鎧のような装甲等々、王をイメージしたような見た目の機体だ。いや、もっと……王と言うより、皇帝とか帝王とか、そういう表現が似合いそうだ。


「つばさ、滑腔砲を使うぞ!」

 現状の〈フリューゲル〉は例の外装を装着している。様々な武器を積んでいるとはいえ、その中でも最大の攻撃力を誇るのはこの120mm滑腔砲だった。

 滑腔砲を肩にマウント。画面に凄まじい勢いで流れていく滑腔砲の情報を横目に、〈アフトクラトル〉を見据える。こちらへの距離を積める最中だった〈アフトクラトル〉は、一端動きを止める。


 完全に、立ち止まった……?

 なんのつもりだ? 余裕だとでも言うのか?


「陸……!」

「いや、このまま撃つぞ」

 凄まじい発射音。飛び続けていた〈フリューゲル〉は反動で急減速。この機体の特性上停止射撃ができないので、なにぶん命中率は低いのだが――この軌道なら、直撃だろう。相手が止まっているなら、当てるくらいは訳ない。


 着弾の直前、〈アフトクラトル〉が動いた。背部のスラスターを前面に展開――本当にマントみたいな動きだ。そしてこの瞬間、あれが盾の一種だったと分かった。

 着弾。爆発。

 戦車の主砲の流れを汲んでいるこの滑腔砲の貫通力ならば、あのマントなど貫通して当然だったのだ。

 しかし――。


「つばさ……!」

「――敵機損傷ゼロです。マント越しとはいえ、直撃したはずでした」

「なにがどうなっているんだ!?」

 ビーム兵器を無効化するフィールドはあるのが知っているが、この滑腔砲は当然実弾兵器。それの影響を受けるいわれなど無い。


「分かった、全弾発射だ。何か無効化の絡繰りは分かるかもしれない」

 敵、〈アフトクラトル〉はマントを元に戻し、再び移動を始めようとする。敵機との距離はかなり近い。この状態で使える全装備の有効射程圏内だ。


「はい。足止め代わりにバラマきます!」

 楓の〈ラビュリント〉は現在も〈アカンティオン〉と戦っているのだ。こっちはこっちで片づけないといけない。

 一瞬の予備動作、展開される各部武装、ミサイルや機銃、取り出したサブマシンガンが一息の内に全て発射される。マズルフラッシュに埋め尽くされる画面。凄まじい爆音。吹き抜ける破壊の風。凄まじい爆発のために、画面が真っ白に染まり、なにも見えなくなった。


 俺は〈アフトクラトル〉が回避動作に入ると思いこんでいた。しかし、それでも逃げきれないと思っていた。しかし現実は全く別だった。なにを考えているのか分からないが――むしろ、彼は動こうとしなかった。

 その余裕がひどく恐ろしかった。


 武器セレクトから外装銃火機一斉射撃を選択し、一息にマニュピレイターのボタンを押し込む。

 銃器が敵機に向けられる、硬質で無機質な音が他の音を消し去った。

 一瞬の後に画面がマズルフラッシュに埋め尽くされ、凄まじい衝撃に激しく揺さぶられながらも、前を見続ける。フラッシュがある程度収まったが、今度は巻き上げた砂埃が視界を遮る。


 その砂埃の向こうに、巨大な機影が揺らめいている。

 余裕を見せびらかすような直立不動の状態――いや、もっと悠然とした体制で佇んでいる。


 仁王立ち。しかも、胸の前で腕を組んでいた。

 圧倒的な存在感。そして、王者の風格。見たものすべてに、そいつがこの場をが支配していることを示している。


 その横を、後ろをとろうと愛機が駆け抜けていくが--そちらを見ようとさえもしない。


「敵機……無傷ですよ!?」

 その黒色の装甲には傷一つ付いておらず、それどころか砂埃さえ付着していないように思えた。何らかのトリックが有るのかもしれないが……絶望感に打ちひしがれていて、頭が全く回らなかった。


 こちらの全弾発射を微動だにせずすべて真っ向から受け止め、なおかつ無傷で立っている。

 勝てる気がしなかった。勝たねばならないのに、負ければ全てを失うのに――勝てる気がしない。

 大事な何かを落としてしまったような気がした。そしてその何かが堅い地面にぶつかって、砕け散った音が聞こえた気がした。足下が崩壊してどこまでも墜ちていく光景を幻視する。


『陸、諦めたら全部終わりだよ!』

 聞き慣れた声が、聞いたことの無いような真剣な声色でそう言った。


『陸は終わらせたいの!? そんな気持ちでここに来たの!?』


 ――違う。

 終わらせたくないから、ここに来たんだ。惨めに足掻くためにここにいるんだ。

 こんなことで絶望するために歩いてきたわけじゃない!


「行くぞ、つばさ!」

「――はい!」


 展開される機械仕掛けの羽根。肩、股、腕、背……あらゆる場所に仕込まれた放熱ファンクションが動き出す。キィイイイン--と、耳をつんざくような機械音。放出される推進剤や粒子が土気色の空を塗り替えていく。

 一気に出力をあげたジェネレータ。マニュピレイターを握る腕が、武者震いに震えていた。


「〈フリューゲル〉、行くぞ!」


 答えるように、フリューゲルの白い翼は蒼い粒子をまき散らす。


「つばさ、外装パージ!」

「はい!」

 敵につっこむ勢いのままに外装をパージする。慣性の法則に従い敵に殺到したバラバラになった外装は〈アカンティオン〉に直撃。


 ……え?


 距離をとろうとしていた〈アカンティオン〉は、確かに怯んでいた。

 全弾発射を無傷でしのいだくせに、外装パージでダメージを受けている? 今までこれで倒せた敵とか、殲滅戦の雑魚敵でもそうそう居なかったのに? ただの、めくらましなのに?


 しかも今の今まで接近してきていたのに、急に後退……なにかからくりがあるはずなのに、そのからくりが理解できない。


「誘導ミサイル、来ます!」

「加速して振り切るぞ!」

 この機体にしかできない力業だった。ミサイル相手に追いかけっこができるこの速度――最大限に生かせばミサイルくらいはどうとでもなる。


「タイミングは任せます」

「………………今!」

 目前に迫るミサイルをかいくぐって直線的に急加速。こちらの動きについてこられないミサイル群。そう、これこそが〈フリューゲル〉の真骨頂。


「つばさ、ビット射出!」

「打ち落とします!」

 ビットがそれらを各個に処理する。これで、障壁はなくなった。

「このまま突っ込むぞ!」

 ヴァリアブルセイバーを二本とも展開、このまま白兵戦に突入する!


 速度を上げたまま敵機の懐に飛び込む。〈アフトクラトル〉は大型のブレードを用い、こちらを迎撃する構えに入った。瀟洒な飾り付けが腹立たしい。

 切り上げる。回避。離脱。滑腔砲を展開、射出。また、奴は無傷。


 ……〈アフトクラトル〉は一撃目を回避した。今まで見せた防御力がそのままなら、絶対に無傷になるはずの攻撃だった。


 実弾は無効化するくせに、対ビーム兵器の対策ができていない? 可能なのかどうかは分からないが――このゲームの可能性はほぼ無限。なにをやっても、やられてもおかしくない。


 再びの急加速。


 敵機はこちら同様に、大型の銃器を構えていた。停止射撃だ。

「……! 陸!」

 よけないとまずい!

 が、加速し始めたばかりの〈フリューゲル〉は愚直なまでに一直線に突撃する。


 発砲音。


 一瞬の暗転。




 そして、久しぶりの撃墜ムービーが画面を流れていく。

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