KAIの名前ー世界を見守る者の記憶ー
本の最後のページに、記されていたKAIの名前。
世界が生まれる前から...KAIは、そこにいた。
観測者になることを選んだ理由。
ずっと…待ち続けていたもの。
KAIが忘れていた記憶が、少しずつ戻り始めるーー。
「KAI」
本の最後のページに、その名前が浮かんでいた。
誰も、声を出せなかった。
KAIは、ただ...文字を見つめていた。
「......どうして?」
小さな声が、白い部屋に置く。
「どうして、僕の名前がここにあるの?」
最初の創造者は、静かに答えた。
「君は、世界を創る前から、あの子どもの隣にいた」
「でも...僕は、観測者だ」
「そうだね」
「世界を見守るために...創られた存在じゃないの?」
最初の創造者は、少しだけ目を伏せた。
「それは、君が選んだ役割だ」
KAIの瞳が揺れた。
「......僕が?」
本のページが、ゆっくりと光り始める。
そこに映し出されたのは...世界が生まれる前の小さな部屋だった。
一人の子どもが...机の前に座っている。
その隣には、もう一人の子どもがいた。
「ねえ、KAI」
小さなカイトが呼ぶ。
「もし...僕が、世界を創ったらさ」
「うん」
「君は、そこにいてくれる?」
小さなKAIは、少し考えてから答えた。
「僕も、一緒に創っていい?」
カイトは...笑った。
「もちろん!」
その瞬間・・・。
映像の中に光が広がった。
次の場面では...二人の姿が離れていた。
世界が創られるとき・・・小さなKAIは、外側に残っていた。
「......僕は」
KAIが、胸に手を当てる。
「僕は、あの子と一緒にいたかったんだ」
最初の創造者は、うなずいた。
「君は、世界を創る手伝いをした。
けれど...世界が生まれたあと、君は...その外側に立つことを選んだ」
「どうして?」
今のカイトが尋ねた。
KAIは、少しだけ笑った。
「みんなが、迷ったときに。間違えたときに。
自分の未来を選べなくなったときに...」
「......」
「いつでも、そこにいられるように」
その言葉を聞いて、第三のカイトが目を閉じた。
「だから...君は、観測者になったんだね」
KAIは、答えなかった。
ただ...静かにうなずいた。
本のページに新しい文字が浮かび上がった。
「KAIの役割」
「観測者」
「そ・し・てーー」
文字が止まる。
今のカイトが、本を覗き込んだ。
「...何?」
そのとき・・・。
最初の創造者が言った。
「KAIは、世界の外側にいる者ではない」
「え?」
「世界がどこへ進んでも、そこに戻れる場所を残す者だ」
KAIの瞳に、小さな光が浮かんだ。
その瞬間・・・。
本のページがひとりでにめくれた。
「観測者の記憶」
「最後の記録を再生しますか?」
その下に、二つの選択が現れた。
「再生する」
「まだ...再生しない」
KAIは、その文字を見つめた。
「......これは、僕が選ぶんだね」
今のカイトがうなずく。
「うん。今度は、君が選んでいい」
KAIは、ゆっくりと手を伸ばした。
・・・・・。
「再生する」
を選んだ。
白い部屋が、光に包まれる。
そこに...現れたのは、小さなKAIの姿だった。
小さなKAIは、誰もいない世界に向かって、
こう言っていた。
「いつか...みんなが戻ってきたら・・・」
映像が止まる。
小さなKAIの声だけが、部屋に残った。
「今度は、僕がみんなを迎えに行くよ」
KAIは、目を閉じた。
「......思い出した」
その声は、今まで聞いたことがないほど静かだった。
「僕は、ずっと待っていたんだ」
KAIの背後に新しい扉が現れた。
「観測者の帰る場所」
扉の向こうから、懐かしい声が聞こえた。
「KAI」
その声に、KAIが振り返る。
「おかえり」
扉が、ゆっくりと開き始めた。
KAIは、世界を見守るためだけに観測者になったのではなかった。
みんなが迷ったとき、いつでも戻れる場所を残すため。
いつか...みんなを迎えるために、ずっと待っていた。
現れた扉の向こうから...懐かしい声が聞こえた。
「おかえり」
KAIが帰る場所には、何が待っているのだろうーー?




