057 目をつける
「彼はブロコリ。ちょっと前からヒストールに目をつけられてね……。取り巻き一同からいじめられているみたいなんだ」
「シャルーンの前では良い子ぶっているが、実際は性根も腐っておるのか」
「僕はいじめなんていけないって言いたいんだけど……。ごめん」
「おぬしが指摘するのはやめておけ。標的にされて女子だってバレたら別の意味で危険じゃ」
ちょうどタイミング良く授業終了の鐘が鳴り昼休みに入ることになった。
ブロコリという生徒は一人売店の方へ向かって行く。
ヒストールは一瞬、儂を見て睨み付けてきたが……そのまま無言で教室の方へ行ってしまった。
「もうヒストールはクロスに絡んでこないだろうね」
「それはそれでつまらんのう。儂はもっとたくさんの人と触れたいのじゃが」
「まぁ……出会いはクラスの中だけじゃないから」
「そうじゃの。学内の運び屋の仕事で知り合った生徒もおる」
ジュリオは儂の手をぐっと掴む。
「決闘会に勝つための修行。今日からだよね。僕は絶対逃げ出さないから頼むよ」
「ああ……じゃが」
儂はしょんぼりした歩き方をするブロコリに目線を向ける。
「もしかしたら二人になるかもしれんな」
一時、ジュリオとも別れ、売店の方に向かった儂はブロコリを追う。
「はぁ……」
「まだ若いのにため息をついてはいかんぞ。気持ちは察するがな」
「え? わぁ!」
飲み物の瓶をたくさん手にしていたブロコリはびっくりして瓶を落とそうとする。
割るわけにいかないので儂もそれを全て空中でキャッチした。
「あ、ありがとう」
「驚かせてすまんのう」
「……それで僕に何」
この小僧とは話したことはない。ゆえに警戒されているのも当然と言える。
こやつはいじめられているとはいえヒストール側にいるわけだ。儂と一緒にいる所を見られたらきっとそれネタに加虐される。
「おぬし、そんな使いっ走りみたいなことをして悔しくはないのか」
直球に言ってみた。ブロコリはぴくりと震える。
さて返す言葉次第じゃな。この状況を受け入れるなら何も言うことはない。まぁ頑張れと言って終了じゃ。だが。
「悔しくないわけないだろっ!」
ブロコリは小さな体で大声で叫んだ。
「悔しくてたまらないよ! でも僕は小さいし、弱いし、家も大きくない。クラスは3年間変わらないから学校を辞めない限り、あいつらからには逃げられない」
本当に悔しさが滲み出ていた。
もっと気弱な印象だと思っていたが心の内は違ったようじゃ。
「この学園に入るの大変だったんだ……。騎士になりたくてずっと勉強して入学して、力を付けて卒業するって決めたのに。あんなクズな奴らに目をつけられて……毎日毎日いじめられる」
「……そうじゃったか」
「君は凄いよ。ヒストールに目をつけられてきっと僕と同じようになるんだと思ったら、ヒストールを倒しちゃった。あんな情けないヒストールを見て心の中ですっとした。他の取り巻きの奴らも多分同じこと思ってると思うよ」
「ならば問おう」
儂はまっすぐブロコリの瞳を見る。
「おぬしはヒストールよりも強くなったとして……奴に成り代わり弱者を虐げるか?」
「え?」
「強くなったらヒストールを今度は虐めるのか」
ブロコリは一瞬、頷こうとした。しかし踏みとどまり……首を横に振った。
「僕はさっきも言った通り騎士になりたくてこの学園に入学したんだ。騎士はそんなことしない。弱きを助けるために騎士はいるんだ」
「そうか」
「そりゃ腹立つことはいっぱいあるし、仕返ししたいって思うけど……。ってあっ! 早く戻らないとまた……殴られる」
ブロコリは慌てて、儂の横を通り過ぎようとした。
儂は彼を呼びとめる。
「今夜、校舎裏の広場に来るといい。おぬしをたった一晩で強くさせてやる」
「え……」
「儂は信念を持つ若い者の味方じゃ」
 





