056 よくある光景
「学校には慣れたかぁ? 無能はついていけねーかもしれーねが」
「シャルーン達が気をつかってくれるおかげで楽しめておるよ」
「あ?」
ヒストールの表情が歪む。どうやら一番聞きたくなかった言葉なのかもしれない。
「シャルーン様の好意に甘えてんじゃねぇぞ。あの方は優しいからてめぇみたいな無能にも平等にしてくださる。だが……俺は気にいらねえ!」
ビストールはドンと持っていた剣を地面に叩きつける。
その勢いは地面にボコっとへこませてしまうほどの力だった。
たいした力じゃのう。男子筆頭の実力を謳うだけはある。
儂はジュリオの方を向いた。
「彼はシャルーンに憧れているみたい……。今度の学園祭の決闘会にも出て、シャルーンの婚約者候補になりたいって言ってるんだ」
「ああ、なるほど」
「おい、Eランク野郎。俺がてめぇに学園の武具修練の恐ろしさを教えてやる。来い」
「ほほー」
「ちょ、先生がいない時に勝手なマネをしてはいけないよ!」
「うるせぇっ! 女男は黙ってろ」
「っ!」
ヒストールの一喝に、食ってかかったジュリオも静まってしまう。
今、武具修練の先生は席を外している状況だった。
「シャルーン様と二度と話せないようにしてやるぜ」
シャルーンは仕事の依頼人でもあるからそういうわけにもいかんじゃが。
ヒストールはシャルーンと仲の良い儂のことを相当嫌っているようだ。男の嫉妬はかっこ悪いのう。
この男はこの武具修練に参加している中で最も強いと見えるが力の差がちゃんと見えておらんようだな。
まぁ、学生では仕方あるまいか。
「是非、教練してもらおうか」
「へへっ」
向こうでヒストールの取り巻きっぽい男子達が儂を指さして笑っている。
ここで儂を叩きのめして憂さ晴らしをしようということか。
「生意気なんだよ。シャルーン様だけじゃなくて他の女子にチヤホヤされやがってよぉ」
「儂も困っておるんじゃよ。おぬしからも言ってはくれんか」
「チッ、イラつく野郎だ。徹底的にいたぶってやる」
どうやらさらに怒りを買ってしまったらしい。
まぁ、良いじゃろう。
儂は手にしていた木刀をジュリオに渡す。
「おいおい、木刀無しでやる気か?」
「儂は教練を受ける側だからな。おぬしの剣術を見ておきたい」
「へ、そうかい。怪我してもしらねーぞっ!」
ヒストールが木刀を振りかぶって、儂に迫ってくる。
確かに才能はあるのじゃろう。ただ相手をぶちのめしたいという不純な動機が剣の筋を鈍らせておる。
「俺はクラスで唯一シャルーン様に釣り合う男なんだよ!」
ヒストールの大ぶりの剣をさっと避ける。
「てめぇみたいなぽっと出の無能が!」
さらに突き出される剣。力強く、まともに食らったら本当に怪我をしそうだ。
人に怪我をさせることの意味を知らないんじゃないか。成人しとるというのに何というか……子供じゃな。
「表に出てきてんじゃねーっ!」
「出るつもりはないじゃがな」
儂はヒストールの渾身の振り下ろしをばしっと二本の指で掴む。
「え」
そしてそのままもう一方の手を使ってヒストールの甲を指で突き、ヒストールの木刀を奪う。
「武器を取られ丸腰になった時、おぬしはどうする?」
儂は木刀を持って大きく手を振りかぶる。できる限りの上から威圧するように鋭くヒストールをにらみつける。
「ひっ!」
するとヒストールは武器を奪われたことに恐れたのかすっころんでしまい、両手で体を庇うように情けない格好を見せた。
儂は思わず息を漏らしてしまう。木刀は当然下げた。
「実に情けない。シャルーンは相手が強大でも決して引かなかったぞ」
「な、なにを」
「おぬしはシャルーンには釣り合わない。精神から鍛え直すが良い」
「おい、何をやっているんだ!」
武闘教練の先生が戻ってきたようだ。
こちらの雰囲気を察しったようだ。
「ヒストール。何があった」
「……。なんでもありませんよ」
ヒストールは立ち上がり、去って行く。
ま、言えるわけがないな。才能Eの儂に無様に剣を奪われて、すっころんだことなんて。
「おい、何見てやがる。てめぇら全員並べっ! 俺が稽古してやる」
ヒストールはクラスの連中相手に武闘の練習をし始める。
先ほどの鬱憤を晴らすかのようにクラスの男子達を相手取る。
何というか若いな……。
「何かあったみたいだが……すまないな」
「先生も苦労しているようじゃな」
「女子はシャルーン様のおかげでうまく統率されているか……男子は統率すべき彼があれだからな」
先生もどうやら悩んでいるようだ。ジュリオが側に寄ってくる。
「彼は子爵家の長男だから家の力も強くてね。男子は誰も刃向かえないんだ」
学生とはいえ、すでに成人しておるんじゃ。
いつまでも子供染みたことをしている時期ではないと思うのじゃが。
ま、2週間しかいない儂の言葉では恐らく何も届かんじゃろうな。
「それにしても……ヒストールを手玉に取るなんてクロスは本当に強いんだね」
「相手が弱いんじゃないか」
「そんなことないよ。彼は1年生の中では一番。上級生含めても上位になるはずなのに……まったく相手にならなかった」
「3週間後はおぬしがその立場になるんじゃぞ」
「自信が持てないなぁ」
3週間という期間はそう長くはない。
正攻法ではないやり方となるが、無謀の方法ではない。
ジュリオが強くなることはきっとあのヒストールの意識改善にも繋がるはずじゃ。
だが……ジュリオだけでは足りん気がするな。
「うわぁぁぁっ!」
ヒストールの攻撃に一人の生徒が吹き飛ばされてしまう。
訓練着が砂埃まみれになっていいた。
「おらっ、ブロコリ! ほんと弱ぇな!」
「……ぐっ」
「やっぱおまえは弱虫だな。おい、昼休みに全員分のジュース買ってこい」
「……」
あれは……昨日ヒストールに攻められていた小柄な子。やはり取り巻きの一人じゃったんだな。
儂にやられた怒りをぶつけているように見える。
ヒストールの取り巻きの一人だが、他の取り巻きとは違い、全員から攻められているような感じだった。
黒の髪に黒の瞳、体は細く、身長も低い。気弱な男子生徒だった。
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