055 争い
生徒会室での騒動が終わり、儂は頼まれた運び屋の仕事をこなしていた。
荷物を依頼人のいる所に運びこみ、どんどん消化していく。
それと合わせて学校内の地理を頭にたたき込み、効率よく動けるようになった。
「あれは……」
クラスの男子達だろうか。
4,5人くらいが集まっている。
一人の小柄な気弱な小僧に別の小僧共が囲んでおり、真ん中にいる大柄な小僧が強い口調で言葉を投げている。
良い雰囲気には見えないが……。助けにいこうかと思った頃には別の小僧達が立ち去っており、気弱な小僧も泣いて走り去ってしまった。
ちょっと遅かったか、まぁいい。
生徒会室に戻った儂にシャルーンは驚いた顔をした。
「もう終わらせちゃったの!?」
本来一人でやるレベルの量じゃなかったようだが、プロを舐めてもらっては困る。
1日で予定量全て終わらせてやったわい。
「こっちの仕事終わったら手伝おうと思ったのに」
「儂の腕を舐めるでないわ」
シャルーンは生徒会長の机で書類仕事を進めていた。
かなりの量があり、一人で進めていくのは大変そうだ。
「そういえば途中、名前は分からぬがクラスの男子達の間でいざこざがあるのを見たな」
シャルーンの手が止まる。
「やはり見たのね。うん、男子の中でいじめがあるみたいなの」
「みたいなの、ってのはどういうことじゃ?」
「私の前では見せないようにしてるのよ。見たら止めるんだけどね」
王女の前ではいざこざは起こさないという所か。
今日は男女共同の授業しかなかったので何も起こらなかった。
明日は何かあるかもしれんな。
「ねぇ、クロス。私も王女として、生徒会長としてやれることのことはやりたいけどやっぱり見えない所はあると思う」
「そうじゃろうな」
「どうしても隠されるのよね。みんな楽しく学校生活を送りたいのに……。私の見える範囲だけ平和だなんて嫌なの」
王女がそのような優しい考えなのは庶民としてはありがたいものだ。
王女にしかできないこともあれば、王女だからできないこともある。
「だから私が見切れない所、見てもらえないかな」
「かまわんが、儂は3週間しかおらんぞ」
シャルーンはそんな話でも微笑みを絶やさなかった。
「それだけあれば大丈夫。きっとクロスなら私が驚くようなことをしてくれる気がするわ」
買いかぶりすぎじゃよ。儂はどこにでもいる才能なしの小僧にしかすぎん。
だけど期待してくれるのであればそれに応えたいとは思った。
……それが儂の今世の生き方に準ずると思う。
シャルーンを置いて儂は校舎の外へ出た。
後は男子寮へ戻るだけじゃが……今日一日運び屋の仕事で学園中をまわって、少し感じたことがある。
「……何か変わろうとしておる。悪い方向で無ければ良いのだがな」
悪い予感は杞憂だと思うことにした。
◇◇◇
王立学園では主に騎士学科と文官学科の二種に分かれる。
騎士学科はその名の通り国の平和を守る王国騎士になることを目的としているが卒業後は魔獣退治や未開地での旅立ちも夢見て、冒険者ギルドに入る人もいる。
言えば剣術や魔法を学ぶ学科と言えるだろう。
文官学科は帝王学から政治経済まで貴族達の多くは文官学科を受けている。
大変だが二つの学科をどちらも受けることは可能。王女であり、騎士でもあるシャルーンはどっちも受けており、お家の再興を目指すジュリオもどちらも受けている。
2週間の短期通学ではどっちの学科の授業も受けられる。
なので儂もスティラも興味のある授業だけを受けさせてもらっている身だ。
今回は武具修練の授業に参加している。
「この授業は男女別なのだな」
「人数が多くなりすぎるしね。女の子は魔法修練の授業を行っているよ」
「おぬしは行かなくていいのか」
「僕は男だから!」
そんな冗談をジュリオと言い合う。
騎士学科では武具修練と魔法修練の授業がある。どちらに適性があるかは授業で学びながら知っていくということか。
儂は生まれつき魔法の才が極めて低く、剣で魔法的な攻撃を行う方が得意だった。
どんなことでも200年の鍛錬である程度のことを成し遂げたから魔法もちゃんと学べば人並みくらいにはなるかもしれんな。
「ジュリオは魔法も使えるのか?」
「うん。男爵家には昔から仕えてくれている教育係がいたからね。でも……現実は厳しいよ。それなりにやれたと思っていても学校に入れば上には上がいる」
ジュリオは離れた演習場で魔法修練をやっている女子の方に目を向ける。
「女子の方に成人の儀式で魔術師の才能がAだった子いるみたい。そのランクの通り、授業の成績も凄いし将来は優れた魔術師になるだろうね」
この世は才能だけではないが、才能を生かすことができた者は比類無き力を持てることも当然。
シャルーンやスティラを見ればよく分かる。
「姫殿下……じゃない。シャルーンは魔法の腕も凄いらしいね。その子に匹敵すると言われているよ」
剣術はSランクの才能だからどちらの才能も秀でているとうことか。
あの美貌に王女としての立場。天は二物以上を与えるものじゃな。
「武具修練でシャルーン以外にめぼしい奴はおるのか?」
「多分彼だね。子爵家の長男のヒストール」
ジュリオの視線の先には一回りガタイの良い小僧がおった。
昨日、小柄な生徒に詰め寄っていておった小僧だな。
まわりには武具修練の生徒が集まっており、男子の中心人物に見える。
「シャルーンみたいに高潔な人柄だったら良かったんだだけどね」
「む?」
当のヒストールがこちらに近づいてた。
「よぉ、才能Eランクの無能剣士よぉ」
ヒストールは授業に使用する木製の剣を肩に掲げて居丈高に声をかけてきた。





