015 わたしと薬(※スティラ視点)
わたし、スティラ・ポンポーティルは恵まれているようで恵まれていないのが自己分析である。
子供の頃は良かった。優しい祖父がいて、愛してくれる両親がいて、至高と呼ばれたエクスポーションを眺めるのが大好きだった。
当主だった祖父が病気で亡くなり、両親を事故で亡くし、今のリドバさんが当主になってからは全てが変わったように思える。
ポンポーティル家の方針がポーションの大量生産、利益重視になってしまったのだ。
あの至高の赤色のポーションを生み出したリドバさんがなぜこんなことになってしまったのか、今でも分からない。
ずっと研究者だったリドバさんが経営者になってから私はとくに迫害されるようになった。
ポーション研究も隠れてやらなきゃいけなくて、作り上げた毒消しポーションも絶対有用なはずなのに商売の検討すらしてくれない。
成人したら家を出て、自立した方がいいのかなと思ったけど名前のせいで企業に入れないし、独立しても生きていくだけで精一杯なので研究なんてできないだろう。
ひょんなことで王都フィラフィスに来た私はアルデバ商会で運命の出会いをする。
そう、後に奇跡の産物として有名になるヒーリングサルブだ。
至高のポーションに近い回復量。さらに保存が効き、複数回使える塗り薬だった。
これが市場に出回れば回復量が少なく、保存も利かず、1回こっきりのポンポーティルのポーションは売れなくなってしまう。
わたしはポーションの質向上をリドバさんにも訴えたけど、当然ながら却下され、ヒーリングサルブの回し者と思われさらに行動が制限されるようになってしまった。
エクスポーションならきっとヒーリングサルブにも負けないはずなのに……。
アルデバ商会のヒーリングサルブがたくさん流通してなかったのが本当に救いだったと思う。
気になってどんな人が作っているのか、作成者と直接取引しているらしい行商人のアーリントさんに聞いてみた。
「あの! このヒーリングサルブはどなたが作ってるんですか」
「えっと……。旦那様の要望で公開はしないって話になってるんだ」
「そうですか……。じゃあ、どんな方なんですか!」
「見た目と言動がまったく一致してない人だよ」
それははっきりと答えてくれるんだ。
どんな人なんだろうか。私はこのヒーリングサルブを作った人に憧れを抱いていた。
きっと素晴らしい薬師に違いない。赤色のポーションは作りたいけど、それ以上に憧れの薬師さんに師事を乞いたい。側にいたい。
成人したらアルデバ商会に入って例の薬師に会うのも一つかもしれない。それくらいの感情を抱いていたんだ。
「いくつぐらいの人なんですか?」
「君と同い年……って言うのはさすがにまずいか。多分20代くらいかな! アハハ」
「20代! そんな若いんですね。すごいなぁ」
◇◇◇
神託の時が来た。
Bランク以上ならポーションの研究をさせてもらえる。
もしCとかDなら研究をすっぱり諦めさせられ、花嫁修業をさせられる。
その時は家を出よう。生きるのに必死で研究はまったく出来なくなるけど、仕方ないよね。
お願いします。再従兄弟のウェーウェル君と同じBランクで認定してください。
彼も薬師としての才はあるけど、全然勉強もしてないし、作り方も下手だし、それよりはマシだと思ってます。
ウェーウェル君がポンポーティル家を継ぐのは仕方ないにしてもポーション作りまで彼がやったら間違いなく家は終わります。
だから……。
「スティラ・ポンポーティルさん」
「は、はい!」
「では神託を行います。何か一つ、一番得意なジョブを挙げてください」
「薬師でお願いします!」
「それでは神器に手を当ててください」
心を込めて、神器に手を置いた。
高ランクであることを祈ったのだ。
「なんということでしょう!」
クレリックのお姉さんは神器をのぞき込み、そして私を見た。
「スティラ・ポンポーティルさん。あなたの薬師としての才能はありません」
「え」
「Eランクです。あなたは薬師としての才能はEランクです!」
まさかのEランクの判定に頭が真っ白になってしまった。
そして。
「ぎゃははははははは、二人連続とかマジかよっ!」
「Eランクの判定されたやつなんてどこも働けねーなっ!」
「でも可愛い子じゃん。オレが奴隷として買ってやろーか。ぎゃははははっ!」
まわりで騒々しい声が広がるが何一つして入ってこない。
まさかの判定に心臓が止まりそうだった。
「スティラ」
リドバさんの声にわたしはばっと振り返る。
いつものように鋭い目つきでわたしのことを1ミリも愛していない目だ。
祖父のことが嫌いで祖父の直系の子達を強制排除した人。両親の事故ももしかしたら……という話もあるくらいだ。
「わしは言ったな。Eランクの無能などポンポーティル家であることを名乗るのは許さん」
「っ!」
「荷物を即刻まとめて出て行くが良い。そして二度と姿をさらすな」
その無情な言葉にわたしは大声を上げる。
「な、納得できません! わたしに才能があるとは言いませんがポーションだって作れます。まったく才能がないはずがないんです!」
わたしは鞄からあの毒消しポーションを取りだして、リドバさんに差し出した。
「このポーションだってわたしが作って……。リドバさんならこの価値が分かっ!」
その瞬間、リドバさんが手を払い、わたしの持ってたポーション瓶が地面に落ちて
丹精込めて作った回復薬が地面を濡らしていく。
「あ……ああ!」
「無能が作ったものなど必要ない。ポンポーティル家の恥さらしめ」
「まっさか再従姉妹がEランクなんてよ。最悪だぜ。マジで消えてくんねーか」
ウェーウェルくんまでそんなことを言うんだ……。あなたにポーションの作り方を教えたのわたしだよ。
少しも覚えてなかったんだ。涙が出てきて、とまらない。
「ちょっと可哀想じゃない。いくら無能で才能無しだからって」
「いや、でもEランクは無理っしょ」
「Eランク認定された人って他のジョブも無能と思われて職にありつけないって聞くし……」
心無い言葉に心がズタズタに引き裂かれていく。
私はこれから……何をして生きていけばいいんだろう。
苦しい、苦しいよ。
リドバさんが足元にある、払いのけたポーション瓶を手に取った。
「才能の無い愚か者は迷惑かける前に野垂れ死ねがいい!」
そして振りかぶり、わたしに向かって投げつけてきた。目を瞑り、その痛みに耐えようとする。
もう嫌だ。こんな想いをするくらいなら……。わたしは薬師なんて辞め……。
だけどいつまで経っても痛みはなかった。そして目を開く。
そこにはポーション瓶を受け止めたクロスさんの姿があった。
「リドバ・ポンポーティル。貴様に挑戦状を叩きつける」
「なに?」
「才ある若者を踏みにじる行為を儂は絶対許さない」
ここから逆転劇のスタートとなります。
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