014 儂の才能
教会の中に入った儂とスティラ。中にはヒーラー達が15歳の小僧、小娘共に神託を授けさせていた。大半がCとかDランクで喜びも嘆きも一様だった。
「遅かったな」
スティラがその渋い声にぴくりと肩が震える。
その声をかけた男、70歳くらいか。何となくだが見覚えがある。
「リドバさん……」
ほぅ、この男がポーション業界でトップを走るポンポーティル家の当主リドバ・ポンポーティル。
スティラの大叔父という立場でもある。
「こんなに遅くに来て神託とはいい度胸だな」
「す、すみません……。体調不良の方を診ていて」
「言い訳などいい。わしは暇ではないのだ。さっさとすませろ」
「……はい」
言葉の節々に見える悪意からやはり元々聞いていた通り仲が良くないようだ。
完全にスティラは萎縮してしまっている。
有能な幼子に対して何と無礼な男だ。
「おい、スティラ」
「ウェーウェル君」
儂と同い年くらいの小僧が現れた。
「オレ、薬師Bランクって言われたぜ」
「え、すごい」
「ポンポーティル家の跡取りだから当然だっつーの。グズでのろまなスティラは良くてもCってところだろーよ。下手すればDかもしれねーな。きゃはははっ!」
なんつーか、品のない小僧じゃの。
儂の見立てではそこまで才があるようには見えんがな。
これがポンポーティル家の跡取りじゃ先はもう無さそうだな。
それに気づいてないのがもう救えん。
スティラはワナワナと震え、強く足を踏み出した。
「お、お約束通り。Bランク以上なら……ポーション研究場で働かせてくれるんですよね!」
「……」
リドバという男は何も言わない。
「わたし、ポンポーティル家のために赤色のエクスポーションを作りたいんです! そうすればヒーリングサルブにだってきっと負けない」
「あっはっはっは! あれはお祖父様の奇跡の産物だったつーの。スティラには無理無理。今のポーションで、ポンポーティル家は安泰だって」
「売り上げ下がってるんですよ! このままじゃ!」
「スティラ」
「は、はい!」
重厚な声でリドバは声を挙げる。
「おまえのような口だけの子供がポンポーティル家を語るな」
「っ!」
スティラは何も言えず、俯いてしまう。
「Bランク以上なら考えてやる。CかDであれば予定通り家のために花嫁修業をしてもらう。わしが懇意にしている家へ嫁げ」
「……」
「いいじゃん。スティラはどんくさいけど見た目はいいし、胸もでけーじゃん。欲しがる男がぜってぇいるって!」
そういう話になっているのか。そりゃスティラも躍起になってしまうわけだ。
しかしスティラの才を見抜けずただ漠然と花嫁に出すなんてこいつら何を考えておるのか。
……家の事情に口を出すのは憚れるわけだが。
「ただ……もしEランクなど出してみろ。ポンポーティル家を名乗ることは許さん。即刻都から出て行くがよい」
「ひっ……」
Eランク。才能がまったく無いというAランク以上にレアなランクか。
ま、さすがにそれはないと思うが。
リドバとその孫の小僧は後ろに下がり、スティラは俯いたままだった。
「スティラ」
「……。ごめんなさい、恥ずかしい所を見せてしまいました」
「恥ずかしいのは向こうじゃよ。おぬしは何も悪くないし、卑下するな。スティラは立派な子じゃ。さっきの治療も何も間違っておらんかった」
「……あ」
スティラはびっくりしように目を見開き、視線を背けた。
「褒められ慣れてないので……恥ずかしいです」
「おぬしが正当に評価されんはずがない。儂は分かっておるよ」
「もう、クロスさんって全然恥ずかしがらないですね」
恥ずかしさなどこの200年で捨てきった。
儂は当たり前に生きるつもりじゃ。
ようやく、神託の列も空いて儂とスティラが受けられることになった。
終わったというのに教会の中は人で溢れている。才能の神託を最後まで聞こうということじゃな。
「先に行くか?」
「ごめんなさい。勇気が出ないので先にお願いしてもいいですか」
「うむ、分かった」
儂は先に神託を授けてくれるシスターの元へ向かう。
「クロス・エルフィドさんですね。これがプローフカードになります」
あっと言う間の処理で儂のプローフカードが作られた。
随分とあっさりとしたもんじゃのう。ただ悪用はされづらそうだし、便利ともいえるか。
「では神託を行います。何か一つ、一番得意なジョブを挙げてください」
「正直何でも良いのじゃが」
「刀を抱えていますし、剣士なんてどうでしょうか。よく聞くジョブとなります」
「ではそれでお願いする」
刀、剣、斧、槍系の技術を持つジョブを総じて剣士と呼ぶ。
獲物を持った物理戦闘系と思って良い。
シスターは宝珠のようなものを取りだし、儂に手を出すように指示をした。
「ん?」
「どうかしましたか」
「いえ、なんでもない」
あれが神器……。
王国め、自ら攻め滅ぼした国のアイテムを120年の時を経て神器と偽るとはな……。
時代は変わったということか。このことを知っている奴は儂以外おらんじゃろうな。
「こ、これは!」
シスターは驚き、神器を見た。
「クロス・エルフィドさん」
「ふむ」
「あなたの剣術の才能は……。ゼロです! Eランクです。まったくありません!」
その瞬間、教会中の若者達が大笑いをし始めた。
「ぎゃはははははははははっ!」
「数年に1人の大無能が出ちまったじゃねーかよ!」
「大層な刀を持って才能なしとかばっかじゃねーの!」
言いたい放題いってくれる。しかし、才能無いことをここまでバカにするとは今時の若者達は残念だな。
「プローフカードの作成感謝する」
「ええ、ですが剣士の才能はまったく無いので、他のジョブを試されることを推奨します」
「才能が無いのは知っておるよ。じゃが儂にはこれしかないのでな」
儂はプローフカードを体の中に入れて、下がることにする。
今も侮蔑の言葉を投げられるが、200年生きた儂がそんなことで心を乱されるはずがない。
才能が無いのは誰よりも自覚をしている。だから200年かけて研鑽を続けたのじゃ。才能無しなど言われるまでもない。
「スティラ」
スティラは俯いてみた。
儂がEランクと知って彼女は……。
「クロスさん、才能が全てじゃないです。クロスさんは絶対凄い人になる。根拠はないんですけど……えへへ、分かるんです」
侮蔑は受けても心を乱されない。
じゃが賞賛の言葉はちゃんと心に染みるものなのだな。
「ありがとうスティラ」
「はい! じゃあ行ってきますね」





