ランクS
――翌日。
もっと話したいと空羽が言うのでまた放課後に病室に寄ったら……。
「空羽!!」
病室のドアを壊す勢いで開けて入って来たのは歩夢だった。
「歩夢!」
「空羽……本当に、本当に治ったのか?」
「うん。姫嶋さんのおかげでね」
歩夢は両手を掴むと、「ほんっっっとうにありがとう!!」と感謝する。
「歩夢さん、病院ではお静かに」
「あ、ごめん」
「紫も来てくれたんだね、ありがとう」
「お加減はいかがですか?」
「うん、もうだいぶ良いよ!」
「そうですか、でもまだ無理はしないでくださいね。……それと、あの時は申し訳ありませんでした」
「え? なんのこと?」
「ヒューザの角へ攻撃した時に、私が余計な一言を言ってしまったせいで……」
「それを言うならアタシでしょ。CDBで折ってれば終わってた」
「二人とも、反省はそれだけでいいよ」
「え?」
「はい?」
「歩夢も紫も私も、みんな任務のために全力で戦った。ヒューザは倒せたし、私は生きて帰れた。あとは問題点を洗い出して解決方法を探ればいい」
「空羽……どうしたの? 急に」
「……入れ知恵をした参謀がいるみたいですね」
紫は分かったようで俺を見て言う。
「あはは! 昨日姫嶋さんに言われたんだよ」
「あー! なんか、かえでみたいなこと言うなーって思った」
「やっぱり」
「いやいや! 私が悪知恵を吹き込んだみたいじゃん!」
「かえでさんは大人顔負けの知恵が働きますから」
紫、そのギリギリのラインを攻めるのやめてくれ、俺の心臓が持たない……。
「ていうか、なんでかえでに敬語なの?」
「姫嶋さんは私の命の恩人だからね」
「恩を売ったのですね」
「誤解を招くような言い方しないで……」
「あははは!!」
それからは、歩夢が魔法少女界隈の近況を報告して、俺と紫は少し離れた所で話す。
「すみません、術式はまだ……」
「進捗はどのくらい?」
「そうですね……7割といったところでしょうか」
「かなり進んだように思うけど」
「術式自体はほとんど終わりました。ですが……最後の仕上げが難航しています」
「仕上げ?」
「はい。あと少しなんですが……」
「そっか。そういや副司令に任命されたんだって?」
「……本当は辞退するつもりでした」
「どうして?」
「私は初穂お祖母様のようにはできませんから」
「紫は初穂さんの代わりに選ばれたんじゃないでしょ?」
「それはそうですが……」
「大丈夫。考え方を変えれば初穂さんと違って全責任を負わなくていいんだ。綾辻さんの戦いから学べるチャンスでもある。でも、一つだけ約束して。生き残るって」
「それはフラグなのでは?」
「あー、あはは」
「……分かりました。生き残ってまたお会いしましょう」
「うん」
「……また会えたら、お伝えしたいこともありますし」
「え?」
逢魔が時に差し掛かり、空が群青から紺青へと移り変わる。薄く残ったオレンジ色が空から消えた瞬間だった。
《キュイン! キュインキュインキュイン!!》
全員の魔法の杖がアラート音を鳴り響かせた。
「な、なんだ!?」
「うわー、マジか」
「これって……!?」
「ランクSの警告、ですね」
「ランクS?」
「魔物のランクがなんでA止まりか分かる? かえで」
「え? そういえば確かに……Sってありがちなのに」
「ランクSは評価不能な魔物のためにあるんですよ」
「ランクDみたいな?」
「まあ似たようなものかな。通称『シリアス・スレット』深刻な脅威っていう意味で、ランクAなんて比較にならないレベルの魔物ってこと」
「まさか……」
紫は、もうお分かりでしょう? と言うように俺の目を見て言う。
「ランクSは通常の枠を逸脱した魔物のこと。つまり、ローレス出現を意味します」
* * *
「雨か……」
俺は後方支援だからと三人と別れ、一旦マンションに戻った。
悠月に電話しようとして、向こうから掛かってくる。その内容は想像がついた。
「……」
電話に出たら後戻りが出来ないような気がして、少し躊躇する。
「遅くなってごめんね、今から行くよ」
〈あ、いえ、その……。大変申し訳ないのですが、今夜はキャンセルしたくて〉
「あー、もしかして親御さんに断られた?」
〈いえ! 両親はお祖母様の紹介ならと快く〉
「さすが中原理事長の威光はすごいね。悠月の用事?」
〈はい……。本当にごめんなさい〉
「気にすることないさ。ご両親が歓迎してくださるのが分かってホッとしたよ。じゃあまた今度だね」
〈……〉
「悠月?」
〈あの、……私、どうしても今言わないといけないことがあって〉
「はは、なんだ怖いな」
〈私、楓人さんのことが好きです〉
「え……?」
〈あの日、ドライブデートしてからずっと惹かれてます。ランチで私ホテルでもいいですよって言いましたけど半分本気で期待してました。楓人さんは行かないって分かってたけど、それでも私は〉
「ちょ、ちょっと待った! どうしたんだ? なにかあったのか?」
〈……私もう、楓人さんに会えないかも知れないんです〉
「どうして!?」
いや、理由は分かってる。ローレス討伐作戦に参加するということは、戦死するかも知れないって事だ。だから悠月は最後に俺への想いを告げた。
……まったく嫌な野郎だよな、電話の向こうにいる女の子がどんな思いで話してるのかを分かってて知らない振りしてるんだから。
〈ごめんなさい、それは言えないんです。でも、どうしても楓人さんには私の気持ちを伝えたくて……。私の初恋なんですよ、楓人さん。……そろそろ行かないと〉
「悠月!!」
〈最後に、私が言いたいだけのわがままを許してください。――愛してます。楓人さん〉
そう言って電話が切れた。
どうして俺なんかを好きになってくれたのかは分からない。でも、人生で初めて告白された。まさか19も年の離れた子から愛してるって言われるなんてな。
「メイプル」
『いよいよだね』
「ニャースケ」
「トリックスター起動したにゃ!」
「行くぞ、みんなを守る!!」
* * *
「お別れは済んだのか?」
「はい」
「楓人くんはなんと?」
「返事は聞いてません。一方的に話して切っちゃいましたから」
必死に笑顔を作る痛々しい孫娘を、陽子は抱きしめる。
「お祖母様?」
「馬鹿だね、そんな顔して行ったらすぐに落とされるよ。私は当時、作戦の前線には立てなかったが、悠月は前線に立てるんだ。悔いのないように戦いなさい」
「……はい」
家族と、そして愛する人との別れになるかも知れない。悠月は陽子の胸に涙を流した。
「私も楓人くんも、お前の帰りを待ってるよ」
「はい!」
涙を拭い、悠月は魔法少女に変身すると家を飛び出した。
陽子は重く暗い空を見上げて50年前を思い出す。
「頼むよ楓人くん――いや、姫嶋かえで。……千秋、あの子らを守ってやってくれ」
この日、過去最大規模のローレス討伐作戦が始まった――。
ローレス編 第一部 終
最後まで読んで頂いてありがとうございます。
皆さんの応援のおかげで注目度ランキング上位に載ることができました。本当にありがとうございます。
これにて第一部終わりです。また少しお待たせすることになると思いますが、次回は第二部・ローレス戦をお届けします。ローレス編はストーリー上、一番大事な話になると考えているので大切に書いていきたいと思ってます。
ストーリとして書かないといけない話の他にも書きたい話はいくつかあります。それらサイドストーリーを含めて完結させるのか、メインストーリーを完結させてからアナザーとして書くのかは分かりませんが、サイドストーリーも含めると一体いつ完結するのか……。笑
とりあえずは新島の話を最後まで書き切りたいと思っていますので、★★★★★評価で応援よろしくお願いします。




