ユキがここにいる理由
素振りの修行とこれからの事を話すと、月見里は仕事があると言って帰って行った。
「はぁ、まさか月見里さんを連れて来るなんてね」
「かえでと年も近いし、千夜ちゃんならピッタリだと思って」
「そんな気軽にお友だち紹介するみたいな……」
「それも半分あるわ」
「え?」
「千夜ちゃんは確かに強いしファンもいるけど、友だちはいないみたい。だから、かえでが千夜ちゃんの友だちになってあげて」
「100キロメートルエリア担当で師匠なのに?」
「そんなの関係ないない。いいじゃない、師匠と友だちでも。私とだって友だちみたい接してくれてるでしょ?」
「まあ、妹だからね」
「もし……かえでが嫌なら、止めてもいいよ。私が無理に付き合わせちゃってるんだから」
一応自覚はあるんだな。
「いいよ、妹のままで」
「……本当に?」
「もう慣れたよ。それに、お姉ちゃんとは友だちみたいにじゃなくて、友だちだとも思ってるよ」
「……かえでちゃーん!!」
「もう、泣かないでよお姉ちゃん」
「ぐすっ、かえでちゃんが泣かしたのよぉ」
「はいはい」
いつまで姉妹ごっこ続けるんだって思ったが、
『止めてもいいよ』
あんな寂しそうな顔見せられたら、断れないだろ。師匠になってもらって月見里まで紹介してくれたし。
「よーし、私もがんばって師匠やるぞー!」
「あのね、気合い入れてもらったところ悪いんだけど」
「ん?」
「素振りで疲れちゃって……」
* * *
「ユキー! パフェ作って! パフェ!」
高位専用カフェ【シンフォニー】に入るなり花織さんはユキさんに注文を入れる。
素振りで俺がヘトヘトになってしまい、レッスンどころじゃなくなったため、シンフォニーで休憩することになった。
「はいはい。あら、かえでちゃんも一緒なのね。最近仲いいわねー」
「そりゃあ私の妹ですから」
「今日はレッスンだったんです」
「あー、そういうこと」
「無視するなー!」
「はい紅茶。席に着いて待ってて」
「はーい」
「かえでちゃんもパフェでいい?」
「はい。同じもので」
「オッケー」
近くの席に着くと、「ユキさんて美人だよね」と呟く。
「なーにー? 私は美人じゃないのー?」
「お姉ちゃんはかわいい系だから」
「かえでちゃんに可愛いって言われちゃったー!」
本当に幸せそうだな、この人。
「ユキさんて、どんな魔法少女なの?」
「うーん、それは本人から聞いた方がいいかな」
「なにかあるの?」
「そうねー、これも一応高位の機密事項ではあるんだけど、かえでなら話してもいいかな。いつかは分かることだし」
なんだか重めの話の予感だな……。
「実は魔法少女協会本部の職員の中で、ユキと売店の小夜ちゃんは現役じゃないのよ」
「現役じゃない? それって、本部長みたいな?」
「ちょっと違うかな。本部長は現役を退いてて魔法の杖も返納してる。でも、ユキと小夜ちゃんは現役じゃないけど魔法の杖は持ってるの」
「どういうこと?」
「特務職員って言ってね、なんらかの理由によって現役として前線には立てないけど、魔法少女としての有用性が高くて職員に採用されてる人のこと」
「じゃあ、ユキさんも小夜さんも、特別な役割が与えられてこの本部に常駐してるってこと?」
「さすがかえで。そういうこと」
そこへユキさんがパフェを2つ持ってきた。
「なーにがそういうことよ。機密事項をペラペラと喋っちゃダメでしょ」
「かえでなら大丈夫よ」
「まったく。はい、お待たせ」
「わーい!」
子供みたいに喜ぶ花織さんを見て、ユキさんは呆れていた。
「あの、ユキさん」
「ん? なーに?」
「もしよければ、教えてもらえませんか? ユキさんがここにいる理由」
「……そうね、このアホが色々喋ったみたいだし、かえでちゃんには特別に教えてあげようかな」
「ありがとうございます」
「ていっても、大してドラマチックなものじゃないわ。……ちょっと待ってね」
カウンターに戻ると、ティーセットを持ってくる。
「少し長くなるし、ティータイムにしましょう」
「え? お店はいいんですか?」
「いいのよ、どうせ他に誰もいないし。来る人は全員見知ってるから、来てから対応すればいいわ」
「あはは……なんだか自由ですね」
「ええ。今はここが気に入ってるわ」
「今は?」
「あー、そうね。じゃあ……少しだけ昔話しよっか。私の現役はね、三年前に終わったの」
「三年前は高位だったんですよね?」
「そうよ。50キロメートルエリア担当だった。本当は100キロメートルエリア担当も狙ってたんだけどね、どっかの誰かさんを見て諦めたわ」
と言って花織さんを見る。
「……なによ。人のことバケモノみたいに言って」
「実際バケモノよ100キロメートルエリア担当は。かえでちゃんなら分かるでしょ?」
ユキさんに問われるが、花織さんが分かりやすく睨む。
「そう思う時もありますね。花織さんはカッコいいですけど」
と答えると、花織さんは笑みを浮かべる。
「いい弟子ねー、師匠に忖度してあげるなんて」
「あはは……。それで、三年前になにがあったんですか?」
「呪いって、知ってる?」
「はい。――まさか」
「そうよ。私は呪いを受けたの」
「どんな呪いなんですか?」
「攻撃ができなくなったのよ」
「攻撃が? 他は大丈夫なんですか?」
「うん、そう。攻撃魔法だけが使えなくなるっていう呪いよ」
呪いについては聞いたことがある。神楽・ソランデルと的場奏雨は一定距離離れると魔力が無くなる。
「どうして……その」
「呪いを受けたのか?」
「はい」
「私の力不足でね、魔物を倒しきれなかったの」
「ユキは、守りたかったんだよ」
と、花織さんが割って入る。
「仲間をね」
「どういうことですか?」
花織さんは「私が話す?」とユキさんに確認する。
「ううん、自分で話すわ」
ユキさんは紅茶を一口飲むと、「美味しい」と呟く。
「あの時はツーマンセルで任務にあたっていたの。ラゼーゼンという魔物でね。クリスタルの板を使って多角射撃してくるの」
「それって、青いクリスタルみたいな?」
「そうそう。遭ったことあるんだ?」
「あーいえ、この前の特別昇格試験で対応しました」
「特試で? なにかの間違いじゃない?」
「えっ、どういうことですか?」
「だって、ラゼーゼンはA++の魔物よ。特試はA+の設定になってるはずよ」
ラゼーゼンはA++だって? 確かに威圧感を感じたし、攻撃力もかなり強かった。でも、まさか……。
「当時の試験官は?」
「帰来という方です」
「あー、帰来かー」
完全オフモードでパフェを堪能する花織さんは、「あの子って真面目だよねー」と困ったように言う。
「うん、まあ、そんな感じだったかな」
「帰来は設定ミスなんてするような人じゃないんだけど……」
「ていっても人間だし、ミスもあるんじゃない?」
「もし設定ミスのせいで昇格できなかったとしたら、再試験を要求できるけど」
「でも、そしたら合格した人はどうなるんですか?」
「そのままよ。原則として各担当の定員は決まってるけど、例外的に増減することはあるの」
「そうなんですか」
「……まあ過ぎたことはしょうがないか。ごめん、話逸れちゃったね。ラゼーゼンは苦戦したけど、なんとか倒せた……と思ったの。そしたら最後の最後にレーザーを撃とうとしてて、それが仲間を狙ってるって分かったから……」
目を閉じるユキさんに、「ユキ、大丈夫?」と花織さんは声を掛ける。
「うん、大丈夫。……その攻撃をさせまいと止めを刺すために構えたら、呪いを受けたの。最初は呪いだって分からなくて、私はもうパニックになって、なにもできなかった。
……そして、仲間の魔法少女はラゼーゼンに殺された。それが本当に最後の力だったみたいで、私は一人生き残ったの」
「そんなことが……」
仲間を助けようとして呪いを受けて、混乱してるうちになす術なく目の前で仲間が……。
「私はそのあとすぐに引退することを決意した。それで本部長に会いに行ったら、ちょうど中原さんがいたの。その時に呪いを受けて引退せざるを得ないと話したら――」
『ならばシンフォニーで働くといい』
『シンフォニーで、ですか?』
『店員が辞めることになってな。後任はいないかと本部長に相談しに来たところだよ。元50キロメートルエリア担当なら他の高位とも上手くやれるだろう』
『ですが、私は料理なんてできません』
『些末な問題だ。これから練習すればいい。それに客は多くはない』
『……少し、考えさせてください』
「――それから、しばらくして私はここに来たの」
「そうだったんですか」
「ユキおかわりー!」
「お姉ちゃん太るよ?」
「ムカつくことに、灯は食べても太らない体質なのよ」
「えっ、うそ……」
「ふふーん」
花織さんの勝ち誇った顔を見て、ユキさんは頭にゲンコツを落とした。
To be continued→
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