第44話 才女、精霊を顕現させる
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「さ、ささささサイカ様!」
エルが部屋に来るようになって数日のある日、ようやく鈍くささが抜けてきたかというところでこの慌てよう。どうしたのかしら?
「エルさん、もう少し落ち着いてください。
そんなんだから、すぐに裾を踏んで転んで治した直後に頭をぶつけるんですよ」
ルカもすっかり先輩だ――その頭ぶつけ過ぎな感じは気になるけども……
なにせ、相手はエルだから、あながち冗談という訳でもないでしょうしね。
エルは一瞬こっちを見た後、私に直接言うのは憚られたのかルカに耳打ちをしている。
そんな見せつけるようにしなくても……余計気になるじゃない。
その上、耳打ちされたルカが固まってしまえば、私の好奇心は更に駆り立てられるというもの。
「で? 一体、何があったって言うの?」
待ちきれずに聞いてみれば、ようやく我に返ったのかルカがこちらを振り返り答えてくれる。
「精霊召喚を行うことが決まりました」
精霊召喚――そう言えば、前にミナカタ先生が精霊と契約がどうのとか言ってたわね。
まだ先の事だろうと思って何も勉強してないのだけども……
ルカ曰く、精霊召喚とは私たちが日常的に共生している精霊とは違い、実体を持つ高位精霊を呼び出す儀式なんだそう。
使い魔というかパートナーというか、そういう感じになるみたいね。
「それって、そんなに驚くことなの?」
「この国だと、精霊契約をしているのはミナカタさんくらいです。
召喚の儀ほどではありませんが、精霊召喚も色々と準備が必要な儀式ですので、余程のことがないと行わないそうです」
まぁ、確かに国の防衛の要である武神が一人しか契約してないとなれば、どれだけ契約が特別な場合を除いて行われていないのか分かる。
とはいえ、教会の洗礼に続いてそんな事まで私にさせるとはちょっと期待し過ぎなのではないかしら?
「ところで、その精霊召喚は私だけなの?」
「いえ、他にマモル様にもと通達されているそうです」
「え? 僕?」
部屋で復習をしていた鎮がこちらの会話に気が付き驚いている。
まぁ、こういう時って普通は勇者の来斗が参加するわよね。
だけど、人選の理由は意外とまともで、精霊は精霊魔法の補助を得意としていて、魔法剣士をしている鎮にはもってこいの相棒になるはずだという判断によるものらしい。
私は――たぶん、私だからでしょうね。
ええ、流石にそこら辺は慣れた……というより、諦めた。
「ところで、私が高位の精霊を隷属させる意味はあるのかしら?」
「と、言いますと?」
私が断ると欠片も考えていなかったルカが驚いたように聞いてくる。
確かに精霊召喚は魅力的なお誘いだ。正直に言えば是が非でも受けたい。
とはいえ、現状の戦力図を鑑みると、私って高位精霊いなくても霊刀とか持っているし、慌てて戦力強化をしないといけないほどではない。
なにせ、防衛の要である武神すら単独撃破しているのだから余計に。
「でも、サイちゃんが受けなかったら誰が受けるの? クルトくん?」
「それは、恵子ちゃんでしょうね」
「え!? 私?」
恵子ちゃんは大分驚いているけども、妥当な判断なんじゃないかと私は思っている。
弓を使う恵子ちゃんは中距離支援型。
となると、接近された時の対処が難しいわけで、使い魔がいれば……と思ったのよね。
でも、どうやらそう簡単ではないらしい。説明を受けた限りではこういうことだ。
そもそも、高位精霊とはあくまで実体を持つ精霊を指し、属性も通常とは異なる光と闇に分類される。
また、実体を持つというのは必ずしも人型という訳ではなく、むしろ、人型は最高位と呼ばれる存在で自身で魔法を使える超強力な精霊なんだとか。
多くの場合が動物型の精霊で、高位精霊と呼ばれる。これらは使役者の魔法補助を担うだけで、自身で魔法を使うことは出来ない。
つまり、恵子ちゃんが精霊召喚したとしても、召喚事例が極めて少ない最高位精霊の召喚に成功しない限りは、護衛という意味を考えるとあまり意味がないということになる。
「まぁ、よくよく考えれば、誰がやっても一緒かしらね」
従者として共に行動してもらう以上、人型が出れば自分から離れて護衛をさせればいいだけのこと。
ここはせっかく指名されたのだし、素直に精霊契約をさせてもらおう。
それに、聞けば精霊を顕現させるには魔力供給が必要だっていうじゃない。
最近、私の魔力がまた増えたのか、霊力の方も増えているみたいで抑えておくのが大変なのよねぇ……
ちなみに、よくある能力を制限するなんて道具がやっぱりあるみたいなんだけども、私レベルになると耐えきれないらしく付けてみたら一瞬で砕け散ってしまったわ。
なんか、人間をやめてしまったみたいで本当に勘弁して欲しい。
† † †
翌日。
なんとなく予想はしていたけども、フィーラス殿下が迎えに来た。
とはいえ、殿下一人かと言うとアル司祭やミナカタ先生、そしてアビスも一緒だ。
精霊契約は中々お目にかかれない儀式で、アル司祭やアビスはミナカタ先生が契約する時に用事で居合わせなかったらしい。
せっかくだからと付いて来たんだとか。
「では、皆さん。早速ですが儀式場の方へ参りましょう」
殿下に案内されて一つの建物に移動する。
てっきり召喚された時の部屋を使うものだと思ったのだけど、人を召喚するのと精霊を召喚するのでは勝手が違うらしい。
私たちの場合はどちらかと言うと、召喚された時に動転しないよう個室で行ったのだと殿下は言う。
まぁ、あんなに豪勢な部屋に召喚されたら普通に動転するけどね。
そこは、貴族と平民の感覚の違いということで仕方がない。
それに対し、案内された建物の中は薄暗い部屋で、明かりは淡く光る床だけだ。
「これは?」
「精霊召喚に限らず儀式魔法を使う際に使う祭壇です。
サイカさんはダムの方も見てらっしゃいますよね?」
「ヴェル親方に会いに行った時に見てきたわ」
「あそこは魔力の通り道で精霊が多く住み着いているというのは聞いた通りです。
ここは自然の魔力を寄せ集め擬似的に魔力溜まりを作っているんです。
なので、魔力の通り道と同様に精霊に取って住みやすい環境になっていて、精霊の力を借りないといけないような儀式魔法にはもってこいの施設ということですね」
「それって、やろうと思えばあの河原で同じことが出来るってことかしら?」
「そうですね。場所にもよりますが問題なく出来ると思いますよ」
大きな広間の真ん中まで移動すると、召喚された時に待機していた統括たちがせっせと準備をしていた。
私に気付いた統括たちは引きつった笑顔を浮かべつつお辞儀をしている。
森で魔物に会った時みたいな怯え方をしなくてもいいじゃない。
「サイカ様、お待ちしておりました。
先日はありがとうございました」
そんな中で話しかけてくれたのは統括長だった。
実は、先日、ルカにお願いしてちゃんとお見舞いに言ったのよね。
王様が悪いんであって、貴方にはまったく怒ってないわよって言いにね。
それもあってか普通に話しかけてくれた。
まぁ、多少緊張しているようにも見えるけど……
私は女帝か何かか?
「では、早速ですがサイカ様から始めましょう」
貴族たちも到着したところで召喚が始まる。
私と教会関係者以外が祭壇を離れ、祭壇を囲むように段々になっている観客席のような場所で各々待機する。
「サイカ様。まずは右手を前に出してください」
「こうかしら?」
前に手を真っ直ぐに伸ばし、手のひらは広げている。
特に問題はないらしく召喚が続けられる。
「次に右手に魔力を集中させてください」
精霊魔法としてではなく、ただただ魔力の塊を右手を突き出した先に生成する。
そこで、円の縁に等間隔で立っていた教会関係者たちが一斉に目を閉じ何やら唱え始めた。
詠唱が必要な魔法なんて聞いたことがないけど、儀式魔法って言うのは私が使った言霊のように何かしら詠唱があったほうがいいのかも知れないわね。
暫くしたところで地面に描かれた魔法陣が輝き始める。
それに呼応するように淡く光っていた床が強い輝きを放ち始める。
順調に見えた召喚だけど、急に私の手にある魔力の塊が揺らぎ始めた。
「――っ!? サイカ様! 遠慮なくもっと魔力を注ぎ込んでください!!」
「いいの?」
「そうしないと、召喚が失敗してしまいます!」
どうやら、顕現しようとしている精霊に対し魔力が足りないらしい。
実体があると言っても私の魔力を核に顕現する訳だから、核が顕現しようとしている精霊に対してちゃちかったら顕現しようがないのも当然ね。
私は抑え込んでいた魔力や霊力の全てを解放する。
元々、精霊が多く集まっていた儀式場は精霊が呼応するように明るく照らし出される。
そして、私の目の前では目の前に作っていた魔力の塊が急に大きくなって広がっていった。
眩しさに目を閉じ、落ち着いた頃に目を開けてみれば、目の前には白い軍服のような服に身を包んだ男が立っていた。
「実体を得るのは久々だ。私を呼んだのは貴方で間違いないか?」
「え、ええ……」
「そうか――」
そして、唐突に槍を突き付けられた。
その行動に教会関係者が慌てているのが伺える。
やはり、普通ではないらしい。
だけど、無闇に私を傷つけたい訳ではないらしい。殺気のようなものを全く感じられないもの。
それは的外れではないらしく、彼は一言こう言った。
「早速で申し訳ないが手合わせ願おうか」
皆さん、こんにちは。初仁です。
土曜日はすみませんでした。
お陰様でおNEWなPCケースに交換できました。
中身を移し替えただけなんですが、慣れない作業だったので結構苦労しました……
部屋紹介は後日動画にするので、またあとがきで告知出来ればと思います。
それと、私の執筆時間を削っていた「閃の軌跡Ⅳ」がようやく終わりました。
特に感想というわけではないのですが、チラッとカクヨムで書いたものがあるので、お時間ある方は読んでみて頂けると……
(https://kakuyomu.jp/works/1177354054886513265/episodes/1177354054887243180)
では、また次回。




