エステル
「あ、ごめんなさい。そういえばまだ名乗っていませんでしたね。あたしは、優香さんと賢斗さんが時々お立ち寄りくださっているカフェ・アベルトゥラのオーナーのエステルと申します」
カフェ・アベルトゥラのエステルといえば心当たりは一人しかいない。
二日前に優香と二人で行った時にも顔を合わせた、すっかり顔なじみの銀髪銀瞳の美少女ウェイトレス。
しかし、実は彼女こそがカフェ・アベルトゥラのオーナーだという。
あの店に並ぶ手作り雑貨の作り主である謎のオーナーは実は彼女なのだという。
正直頭が混乱してわけが分からない。
「……え? エステルってあのエステルさん? 一昨日も会った?」
「そうですよ。先日も『メビウスの鍵』のストラップをお買い上げありがとうございました。……でも、まさかこんなにも早く使う機会が訪れるとは思ってもいませんでした」
「ちょ、ちょっと待って。どういうことか、俺にも分かるように説明してください」
「あなたの見た夢には非常に重要な意味があり、鍵を持つあなたにはそれを知る権利があります」
「俺が持ってる鍵って……夢の話でしょ。一体、なんの話ですか?」
「……今、ここで話しても到底信じられないでしょうね。それに時間も惜しいです。では、使いの黒猫を送ります。鍵を持って猫についてきてください。……もし、優香さんにもう一度お会いになりたいのなら」
それだけ言って、エステルは電話を切った。
僕は、結局なにがなんだか最後まで分からなかった。




