第一章 橙色の屋根の街
扉を開けてくださり、ありがとうございます。
「闇」がその名を授かるよりもずっと前に存在していた、あの深遠なる世界へようこそ。
心臓の鼓動をひとつ潜ませて、この異界の物語をお愉しみいただければ幸いです。
その街を、人々はスウェーデン語で別の名で呼んでいた。――Mina drömmars stad。夢の街。だが、初めてその地に足を踏み入れた日の私にとって、そこは夢とは程遠い場所だった。目の前に広がっていたのは、歳月に洗われて褪せた、一枚の古い油彩画。けれどそこには、どこか異様で、胸を締めつけるような妖しい魅力が確かに宿っていた。
石畳の路地が中央広場から海辺へと向かって、うねるように伸びている。その両脇には、オレンジ色の瓦屋根を戴いた家々が、まるで歴史書の頁のように隙間なくひしめき合っていた。そのオレンジは、柑橘類やネオンサインのような目につく派手な色ではない。幾度もの雨期と焦げ付くような夏を耐え抜いた窯焼きレンガの色であり、うっすらと纏った苔と、海から吹き寄せる塩濁りに彩られた色だった。三階建ての館もあれば、わずか二階建ての家もある。けれどどの家も、アーチ状の窓、歳月に剥げかけた白い木枠の窓辺、そしてもとに置かれた一鉢の赤いゼラニウムという共通の佇まいを見せていた。
その街は、海を前に身を寄せ合い静かに物語を紡ぐ、老人のように湾へと寄り添っていた。西側には古い漁港が横たわり、小さな漁船たちが潮の満ち引きに合わせて揺れている。干物と湿ったロープ、そしてタールの匂いが混ざり合い、この場所だけにしか存在しない特有の香気を漂わせていた。東側にはカエデやシラカバが植えられた小高い丘がそびえ、秋が深まれば、黄金色の落葉が道を覆い尽くし、踏みしめるたびに乾いた音を鳴らすのだ。
私が終点のバスを降り立った大広場は、街の心臓部だった。決して広くはないものの、ささやかな朝市を開くには十分で、夏の野外演奏会を開くにも、夕暮れ時に近所の子どもたちが駆け回るのにも申し分のない広さだった。広場の中心には、とうの昔に水の絶えた噴水があり、その中央にはフェルト帽をかぶり本を手に抱えた男の石像が佇んでいた。水はもう流れていなかったが、子どもたちは今でも台座によじ登り、まだ見ぬ大海原をゆく船長気取りでそこに腰掛けるのを好んでいた。
噴水の向かいには、街で最も高い建造物である時計塔がそびえ立っていた。灰色の石で組み上げられ、その頂には歳月に霞んだローマ数字の丸い文字盤が据えられている。一時間ごとに鳴り響く鐘の音は、朝六時に街を目覚めさせ、夜九時に街を眠りへと誘っていた。その後の約一ヶ月に及ぶ求職活動の間、私はこの鐘の音を道標として生きることになる――最初の鐘は出立の合図であり、二度目の鐘は帰還の合図だった。
だが、そんな古雅な美しさも、胸を突くような平穏も、その秋の夕暮れの私には愛でる余裕などなかった。バスを降りた私の手にあったのは、たったひとつの鞄だけ。十八年間、孤児院から孤児院へと渡り歩くあいだ、ずっと携えてきたあの鞄だ。中身は三着の着替えと、ほとんど余白のないノートが一冊、小さくなった鉛筆の芯、そして孤児院で雑用をして貯めた僅かなお金が入った封筒。そのお金――想像していたよりも少なくなっているのが怖くて、もう一度開けて確かめることさえできなかった。
黄昏時の広場を初めて目にしたときの光景を、今でも覚えている。太陽はオレンジ色の屋根の向こうへと沈み、空全体を蜂蜜に一筋の煙を混ぜ合わせたような色へと染め上げていた。街灯がひとつ、またひとつと点灯し、温かな琥珀色の光を灯す。開け放たれた窓からは、夕食の匂いが漂ってきた――肉のロースト、カボチャのスープ、焼き立てのパン。商人の賑わいと家庭の温もりの影で、私の内側では、長いバスの旅の間ずっと押し殺していた空腹が、低く鳴りを上げた。
行き交う数百の人々の中で、私は広場の中央に呆然と立ち尽くしていた。彼らには帰るべき場所があった。笑い合い、言葉を交わし、互いに手を振り合っている。魚の籠を抱えた男、孫の手を引く老婦人、前籠に花を載せた自転車の少女。誰もが、辿り着くべき目的地を持っていた。そして私には――手に握りしめた鞄と、バス停で請い願って手に入れた皺くちゃの地図しかなかった。
どこか木陰の石ベンチでも見つけて、朝が来るまでそこに腰掛けて過ごそうかと思っていた。けれど、ふと周囲を見渡したとき、通りの向こうに一人の老婦人の姿が目に入った。市場の帰りだろうか、柳細工の籠を腕に下げ、ゆっくりと歩いている。彼女は誰かを待つかのようにカエデの木の傍らで足を止めた。そして、私の方へと視線の向きを変えたのだ。丸い柔和な眼鏡の奥の眼差し、街灯に照らされた栗色の髪――まるで手彩色を施された古い写真のようだった。彼女は通りを渡ってきた。焦る風でもなく、ためらう風でもなく。まるで私がそこに立っていることを端から知っていたかのように。まるで、私が生まれる前から私を待ち続けていたかのように。
「こんばんは」と彼女は言った。「この街の方ではありませんね?」
少し掠れた声だったが、暖炉の脇に長く置かれたお茶のように、じんわりと温かかった。
私は鞄のストラップを強く握りしめた。孤児院の浴室の鏡の前で、弱みを見せないための笑顔や言葉遣いを、それこそ何百回と練習してきたはずだった。けれど彼女を前にして、本当の優しさをもって問いかけられたときの練習など、一度たりともしてこなかったのだと気づかされた。
「はい……たった今、着いたばかりなんです、奥様」
彼女は私を見つめた。その瞳は静かだった――けれど、それは海が静まり返るような静けさ。深く、すべてを赦すような静けさだった。身寄りについて尋ねられ、私には誰もいないと答えた。なぜここに来たのかと問われ、もう一人前になれる歳だから仕事を探しに来たと伝えた。今日の天気を語るかのように軽やかに言葉を口にしたけれど、胸の奥では恥じらいと誇りが入り混じった奇妙な感情が、微かに震えていた。
彼女は、とても静かに溜息をついた。私のような流れ者を幾人も見てきたのかもしれない。あるいは、私のような者を一度も見たことがなかったのかもしれない――けれど彼女は足を止め、問いかけを続け、時計塔の方へ手を挙げて指し示しながら、もう六時半を過ぎているのだと教えてくれた。「人は大抵、七時に夕食を摂るものですよ」と彼女は言った。まるで私に、すがりつくための確かな日常のリズムを思い描かせようとするかのように。
部屋を借りたいのだと計画を話した。体を横たえる場所さえあればそれでいいのだと。見知らぬ街に夜が訪れることがどれほど恐ろしいか、名も知らぬ何かに心の中で必死に祈っていたことなど、口が裂けても告白できなかった。ただ、貸し部屋に心当たりはないかと尋ねただけだ。厚かましいお願いだということはわかっていた。けれど、切羽詰まっているとき、人は最も無垢な形で恥知らずになれるものなのだ。
アン夫人――その時点ではまだ彼女の名を知らなかった――が微笑んだ。大袈裟に口元を綻ばせるわけでもなく、ほんのわずかに唇をすぼめただけだったが、それだけで私がこれ以上何も乞う必要がないのだと思わせるには十分だった。彼女は広場の向こうを指さした。
指先を追うと、そこに小さな家があった。赤オレンジの傾斜屋根に苔色の壁、細い煙をそっと吐き出す白い煙突。一階の窓からは、柔らかく温かな黄色の光が溢れ出していた。そこが自分の家だと彼女は言った。「屋根裏部屋がまだ空いているのよ。とても狭いけれど。よかったら、見にいらしてみる?」
私は目を見張った。「本当に……伺ってもいいのですか?」
「もちろんですよ」
私は頷いた。目頭が熱くなり、その瞬間から、私の内側で何かが変化し始めた。恐怖が消え去ったわけではない――けれど、恐怖が別の何かへと場所を譲ったのだ。奇妙で、静かな安らぎへと。アン夫人に導かれ、私たちは広場を横切った。街灯の下に伸びるふたつの影が、縮み、伸び、重なり、また離れてゆく――まるで緩やかなワルツを踊るかのように。そして私は悟ったのだ。明日がどんな運命をもたらそうとも、少なくともこの最初の夜、私には体を横たえる場所が見つかったのだと。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます。
見知らぬ 街で彼女が辿り着いた、ささやかな温もりを感じていただけたでしょうか。
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次の鐘が鳴る刻、またあなたとお会いできますように。




