最終話 ~ありがとう~
文化祭から一週間、僕はいつもの様に部屋で曲を作っていた。
「ねぇ、奏」
「ん? 何?」
ネオンが話しかけてきた。なんだかいつもと雰囲気が違う。改まった様な。
「もう、奏はウチがいなくてもやっていける。ネオンちゃん、取り憑くのやめます」
びっくりした。けど、いつかはそんな日が来るんじゃないかって心のどこかで思ってた。
だから最後にネオンに聞きたかった。
「ネオンはなんで僕を助けてくれたの?」
ずっと、気になってたこと。ネオンの明るさに振り回されて忘れがちだったけど。
ネオンは眉を下げて笑う。
「聞いちゃうか」
「うん」
ネオンはぽつぽつと話し始めた。
「ウチね、自殺したんだ」
ネオンが……自殺? 自殺とは真反対にいる様なネオンが……?
「彼氏にフラれて自棄になって、わーってお風呂場で手首を切ったの」
ネオンはくるりと後ろを向く。きっと今の顔を見られたくないんだろう。
「下らないでしょ? でも、その時のウチにはそれが全てだった」
まるで僕みたいだ。僕が自殺しようとした理由だって今となっては下らない。でも、その時はそれが世界の全てだった。
「幽霊になって、自分のお葬式見に行ったらみんな泣いてた。家族も、友達も、先生も。元カレは気まずそうにしてた」
もし僕が死んでたら……僕もそうだったかもしれない。
「ウチの軽はずみな行動でいろんな人を不幸にした。だからかな。知ってる? 自殺した者は天国には行けないの」
知ってる。教会でシスターが講演してたのを聴いた。
「それからウチは、ウチみたいな人を少しでも救おうって言うのはおこがましいけど、減らそって思って奏みたいな人のところに行った」
「その人達は助けられた?」
ネオンは後ろを向いたまま言う。
「いろいろ。止めれた人もいれば、止めれなかった人もいた」
ネオンの声は少し悲しげだ。
「結局、ただの自己満足なの。偽善者」
僕はアコギを横に置いて言う。
「それでも、僕は確かにネオンに救われた」
ネオンは振り返る。驚いた様な顔をしていた。
「他の誰がなんて言おうと、僕はネオンのことが……」
息を吸い込んで。
「好きだ」
ネオンは目を丸くした後、笑った。
「奏には幽霊なんかより生きた人間を好きになってよ」
「『幽霊なんか』なんて言うなよ」
ネオンは照れくさそうに言う。
「じゃあ、ネオンちゃんの別れの挨拶だ」
そう言うとネオンは僕に顔を近づけ、唇を重ねた。感触は無い。でも、確かに僕らはキスをした。
「バイバイ! 奏!」
ネオンは手を振り、窓から出ていこうとする。そんなネオンに僕は叫ぶ。
「ネオン!!」
ネオンはぴたりと止まる。
「こんなに優しいネオンが天国に行けないなんておかしい! なら、僕はこれから毎日神様に祈る! ネオンが天国に行ける様に! 約束する!」
ネオンは慈母の様な微笑みを浮かべて……窓の外に消えていった。
それから僕は教会で毎日神様に祈った。シスターに「熱心ね」と言われたから、僕は「大切な人が天国に行ける様に祈ってるんです」と言った。シスターは「きっと祈りは通じるわ」と穏やかな笑みをうかべた。
そんな日々が数年続いたある日、いつもの様に神様に祈っていると懐かしい声が聞こえた。
『奏、ありがとう。もうウチは大丈夫』
確かにネオンの声がした。辺りを見回すが誰もいない。けど……きっと祈りは通じたんだ。
「ネオンは……天国に行けるんだね」
僕の目から一筋の涙が零れた。
涙を拭いて、相棒のアコギを背負って立ち上がる。
「じゃあ、僕も頑張らなくちゃ。天国でネオンにがっかりされない様に」
僕は歩き出す。
「よし! 今日も曲を作るぞ~!」
伸びをしながら教会の外に出ると、晴れ渡った空が見える。
この人生は君がくれたんだ。僕はそれを無駄になんてしないよ。
ありがとう、ネオン。




