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炎神少女は、歪んだ世界に火をつける  作者: ぱぱんむ
第四章 龍人の里編
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第七十七話 地蔵砲門・炎魔王

(あれが、爵位持ちの魔族……)


カーズの姿を目の当たりにした時、ツバキはその重圧だけで、自身との圧倒的な力の差を強く感じ取っていた。


(セリア殿は間違いなく強い。だが……)


ツバキは、少し遠くに見えるセリアの背中を見ながら心のなかで呟く。


セリアの強さは、最初にコモナーの魔族を倒した一撃から見て疑いようがない。


しかし、あのカーズという子爵級の魔族を相手に、その力がどの程度通用するのかツバキには想像がつかなかった。


「勝ちますよ。セリアさんは」


不意に、隣から声がした。


「……え?」


その言葉に、ツバキは僅かに目を見開き、レティシエラの横顔を目だけでチラリと見る。


しかし、レティシエラはツバキを見ることもなく、ただ真っ直ぐにセリアの背中を見つめていた。

その表情に、不安の色はない。


精霊術で、自分の不安でも見抜いたのだろうか。


そう疑ってしまうほど絶妙な間合いの言葉に、ツバキはもう一度、レティシエラの横顔を窺う。

だが、彼女は相変わらず、静かにセリアを見つめているだけだった。


「……」


ツバキは何か言おうとしたが、結局は無言のまま、視線をセリアの背中へと戻した。


________________________________________


――ギィン! ギンギンッ!!


鋭い金属音が立て続けに響き渡り、セリアのクライゲラクとカーズの剣が激しく火花を散らす。

互いに一歩も退かぬまま、幾度となく剣戟を繰り返す最中、カーズが不意に左手を頭上へ掲げた。


――ギギッ


カーズの左手の先で、何もない空間に亀裂が走った。


先ほど剣を取り出した時と同じ、黒い裂け目。

今度はその奥から、新たな剣が勢いよく飛び出してきた。


「うおっ!?」


セリアは咄嗟に上体を大きく反らす。


鋭い刃が、その鼻先を掠めて通り過ぎていった。


「それ、そんなこともできるんだな!」


セリアはカーズと距離を取りながら、裂け目に視線を向ける。


「……それだけではない」


カーズはそう答えると、剣を構えたまま左手をセリアへとかざした。


――ギギギギッ


再び、空間が軋むような不気味な音が響く。


今度はセリアを囲むように、いくつもの黒い裂け目が生じ、それらから剣先が顔を覗かせた。

セリアは視線だけで周囲を確認すると、左掌に炎を宿らせる。


「死ね」


カーズの言葉とともに、セリアの周囲の裂け目から一斉に剣が飛び出してくる。


だが、セリアは身を躱そうともしない。ただ左手に宿した炎へ意識を向け、その勢いをさらに増大させていく。


そして、裂け目から飛び出した剣たちがセリアの身体へと突き刺さった。


しかし、セリアは意に介する様子もなく、左手をカーズに向け宿した炎を解き放つ。


「!?」


カーズの眉が僅かに動く。しかし、すぐさま右手の剣で迫りくる炎の奔流を真っ向から切り裂いた。

炎が左右へと分かれ、無数の火の粉となって周囲へ飛び散っていく。


「……」


カーズは剣を構え直し、セリアへと視線を戻した。

その瞳が、僅かに細められる。


セリアの身体には、今も四方八方から剣が突き刺さっている。


いや、正確には突き刺さっているように見えるだけだった。


よく見れば、剣先はセリアの身体を覆う金色の炎――不知火の衣に阻まれていた。

刃はその肌に触れることすらできず、炎に包まれた先端から徐々に燃え崩れていく。


――パチンッ


不意にセリアが左手の指を弾く。


すると、先ほどカーズに切り裂かれ周囲へ散っていた炎の欠片が一斉に動き出す。

炎は形を変え、大小様々な猫の姿となりカーズへ向かって飛びかかった。


「っ!」


カーズは咄嗟に左手をかざし、自身の周囲にいくつもの黒い裂け目を出現させた。

そこから次々と剣が射出され、迫り来る炎の猫たちを迎え撃つ。


それらの剣は数匹を切り裂くが、猫の大半は軽やかな動きで剣を躱しカーズの身体に張り付いていく。


「くっ!」


カーズが炎の猫を振り払おうとしたその時。


――パチンッ


再びセリアの指から乾いた音が響く。


その瞬間、カーズの身体に張り付いていた炎の猫たちが一斉に膨張する。


――ドゴォォォン!!


轟音とともに、膨張した炎の猫が次々と弾け飛んだ。


爆炎が重なり合い、カーズの身体を一瞬にして呑み込んでいく。

凄まじい熱風が周囲へ吹き荒れ、立ち昇る黒煙がその姿を完全に覆い隠した。


「金火猫(キンカビョウ)・弐式(ニシキ)。結構効くだろ?」


セリアが口の端を上げ、いまだ爆炎の煙で姿が見えないカーズに向かって声をかけた。

その時。


――ドドドドドドッ


黒煙の中から、無数の剣が一斉に飛び出してきた。


「またそれか、よ!」


セリアはクライゲラクを振るい、迫り来る剣を次々と弾き飛ばしていく。



やがて、最後の一本を弾き飛ばし、セリアは再び正面を向いた。



「あっ!」


セリアの口から思わず声が漏れる。


そこには、背を向け龍人の里から遠ざかっていくカーズの姿があった。


先ほどの爆発によって全身の至るところが焼け焦げ、衣服も大きく破れている。

そして、左腕は肘から先が失われていた。


「逃げんのかよ……」


あまりにもあっさりと背を向けた魔族に、セリアが呆れたように呟く。


《逃がすなよ》


ラグルスが短く告げる。


「わかってるって」



セリアは右手を伸ばし、照準を合わせるようにクライゲラクの刃をカーズの後ろ姿へと向けた。



「不知火変換――」



その呟きののち、右腕を覆う不知火の炎衣が激しく燃え上がる。


炎は徐々に結晶化し、セリアの右腕をクライゲラクごと覆いながら、その先へと伸びていった。


やがて出来上がったのは、セリアの右腕を倍ほどまで伸ばした巨大な砲身。


その直径はセリアの腕の三倍ほどもあり、その重さ故か、砲身の下部からも結晶化した炎が伸び、その巨体を支える土台が形作られていた。


セリアは完成した砲身をカーズの背中へと向け、静かに口を開く。


「地蔵砲門(ジゾウホウモン)・炎魔王(エンマオウ)」


その言葉に呼応するように、砲身の内側に赤い光が灯った。


《……かなり距離が開いたな》


ラグルスが呟く。


カーズの背中は、もはや肉眼でははっきりとは見えない所まで遠ざかっていた。


「そんなこともあろうかと」


そう言ってセリアは、自分の左眼を指さす。


「一匹、残してるんだ」


セリアが言い終えると同時に、その左眼に炎が灯る。


《……なら良い》


「なんだよ、素直に褒めたらどうだ?」


《無駄口を叩く前にさっさと仕留めろ》


「はいはい」


セリアは小さく笑うと、緩んでいた表情を引き締めた。


砲身の内側で赤い光がさらに強さを増し、高熱によって周囲の景色が揺らぐ。


セリアは左眼に灯る炎を頼りに、遠くのカーズへと狙いを定める。

砲身の輝きが、限界まで高まる。



そして――



「終わりだ」



 ――ボッ!!!


その言葉とともに、巨大な砲身からクライゲラクが射出された。


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