第14話 乗っ取りの開始と、崩壊の兆し
「……ここからが本番だ」
黒瀬悠真は、ターゲット企業のデータを見ながら呟いた。
表向きは健全な中堅企業。
だが――
(中はボロボロだな)
資金の流れ。
不自然な取引。
隠された負債。
すべてが見えている。
「……これ、いつでも崩せますね」
佐伯が静かに言う。
その声には、確信があった。
「だな」
黒瀬も頷く。
「ただし――」
指を止める。
「崩すだけじゃ意味がない」
「……取りに行くんですね」
「そういうことだ」
壊すのは簡単。
だが、それでは終わり。
(目的は支配)
そのためには――
「順番がある」
黒瀬は、淡々と説明する。
「まず、株を集める」
「次に、内部情報を押さえる」
「最後に、経営に介入する」
「……」
佐伯は、黙って聞いている。
その目は、完全に“戦う側”のものだった。
「……やれます」
小さく、だが力強く言う。
「いいな」
黒瀬は笑う。
「じゃあ、始めるか」
◇
数日後。
黒瀬の資金は、静かに動いていた。
目立たないように。
だが、確実に。
ターゲット企業の株を、少しずつ集めていく。
「……いいペースだな」
スマホの画面を見る。
保有率。
じわじわと上がっている。
「このままいけば……」
「10%、超えますね」
佐伯が続ける。
「その時点で、影響力はかなり上がります」
「だな」
黒瀬は頷く。
だが――
(ここからが問題だ)
相手もバカじゃない。
気づかれれば、対抗される。
「……来るぞ」
小さく呟いた、その瞬間。
《警告:外部干渉を検知》
「……やっぱりな」
画面が揺れる。
株価が、不自然に動く。
意図的な売り。
「……潰しに来てる」
佐伯が言う。
「こっちの買いを止める気だ」
「だな」
だが――
黒瀬は、焦らなかった。
むしろ。
「……ちょうどいい」
口元が歪む。
「ここで使うか」
スマホを操作する。
《スキル統合》
選択。
【資産運用者】+【情報解析者】
《市場支配(仮)》
「……発動」
その瞬間――
世界が、変わる。
市場全体の“流れ”が見える。
そして――
「……ここだ」
一点。
大口の資金の動き。
それを、逆に利用する。
「……流れを、奪う」
黒瀬は、指を動かす。
一気に資金を投入。
通常ではありえないタイミング。
だが――
(今なら分かる)
その裏。
その意図。
すべてを読んでいる。
次の瞬間。
市場が、反転した。
「……っ!?」
佐伯が息を呑む。
さっきまで下がっていた株価が、一気に上昇する。
「……乗ったな」
他の投資家も動き出す。
流れが、完全に変わる。
「……これで」
黒瀬は、冷静に操作する。
「一気に取る」
買い増し。
一気に、比率を引き上げる。
数分後。
「……超えた」
画面に表示される数字。
保有率――10%突破。
「……成功ですね」
佐伯が、静かに言う。
「いや」
黒瀬は、首を振る。
「まだだ」
そのとき――
《通知》
送り主:UNKNOWN
「……来たな」
開く。
『やりすぎだ』
短い一文。
だが、その裏には――
明確な“警告”。
「……そうか?」
黒瀬は、打ち込む。
『まだ始まったばかりだ』
送信。
数秒後。
返信。
『なら、次は止める』
「……」
黒瀬は、スマホを見つめる。
そして――
「……やってみろ」
小さく呟く。
その目には、揺るぎない自信があった。
◇
同時刻。
どこかの高層ビル。
一人の男が、画面を見ていた。
「……黒瀬悠真」
小さく名前を呟く。
その目には、興味と――
わずかな苛立ち。
「……面白い」
だが、すぐに笑う。
「なら、潰しにいこうか」
指が、静かに動く。
その瞬間。
新たな命令が、下された。
――標的:黒瀬悠真
戦いは、次の段階へ。
本格的な“潰し合い”が始まる。




