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第8話「True End1-2・ヴィタが望む理想郷」

「すげぇよな。こんなにも突き刺すような愛で出来た彫刻ははじめてだ」


「――っ俺は」


「男も女も関係ないんだ。オレにはこれに勝るものが彫れると思えないよ」


「……負けた」



男が圧倒的に優位な世界で女への敗北は屈辱的なもの。


だが反発さえ出来ぬほど、完成された美しさの前で男は無力に打ちひしがれた。


彫刻家として夢を抱き、美しさの高みを目指す。


その先にたどりついた境地を壊せるほど男に度胸はない。


芸術への誇りは尊いのだと、男は負けを知り、意地で涙を拭っていた。



「次は負けない。天の御使いにも勝る美しさにたどりついてみせよう」


スッとヴィタの前に握手を求めて手が伸びる。


それをヴィタはくすぐったそうに笑って、そっと握り返した。



割れんほどの拍手と歓声があがり、誰もがヴィタの彫刻が優勝となることを望んだ。


前向きに勇気をもち、自分の想いを信じてたどりついた。


女だからと諦めずに突き進んだことで、ヴィタはようやく弾けるような笑顔でルークに抱きついた。




ルークはやわらかな翼を持ってヴィタを抱きしめ返す。


愛に満ち見つめあう二人の姿は、険しい道を這いつくばりようやくたどりついた幸福なのだと、人々は祝福した。



こうしてヴィタの彫刻は優勝となり、後に大聖堂の象徴として長きにわたり君臨することとなった。


お祭り騒ぎの品評会が終わり、夜になると昼間の盛り上がりが嘘のように静かな空間となる。


大聖堂へと移動した彫刻を見送って、ヴィタはルークの腕に抱かれて星の瞬く空を駆けた。




純白の12の翼。


最も愛された者が持つ輝きに、ヴィタは腹の奥が疼く感覚を知る。



(そっか。どちらに転がってもおかしくなかったのね)


恐れずに手を伸ばして良かったとヴィタは微笑んだ。


悪魔の誘惑のような甘さがあった。


ギラついた執着に怯えたり、飲まれたりしたこともあったが、それさえもルークなのだと受け入れた。


たとえルークが追放されし者だったとしても良かった。




魂が震えた。


甘い誘惑だとしても。


ヴィタを落とそうとする囁きだったとしても。


心臓から伝わる鼓動は本物だった。



ヴィタに捧げる愛の深さを知り、全部受け止めようと決めた。


天使でも、悪魔でも、愛すると誓った。


ヴィタにとってルークは眩い光だったのだから、ルークにとっての光となりたかった。



「ルーク。あの丘へ私を連れてって」


星の輝きを瞳に映すヴィタを見て、わずかにルークは口を開く。


だが何も言わず、ヴィタの身体を抱き上げて空高く飛び始めた。


髪を結いあげていたリボンがほどけ、白金色の髪が波を打つ。


夜に溶け込む烏の濡れ羽色がつくる風にヴィタは目を閉じた。


それから丘に立つ大樹の下に降りたって、ヴィタはルークの頬を包み込み、幸福に満ちた微笑みをみせる。



「私と結婚してくれますか?」


その問いに、ルークは息を呑む。


弱々しく震える指先がヴィタのあたたかい手に触れた。



「君は悪魔をも愛すると言うの?」


「そうね。ルークにはいっぱい誘惑された」


でも、とキラキラ無邪気に歯を見せて、あふれ出す歓びに笑った。



「それ以上にいっぱい愛をくれたから」


背伸びをして、薄い唇にちょこんとキスをした。


視線が交差すると、軽く触れただけの口付けは深くなり、飽きることもなく求めあった。


心臓を繋ぐように、舌を絡めあい、何度も糸を繋げては距離をなくす。


唇が離れるとヴィタはルークの耳元で吐息混じりにささやいた。



「愛してます。だからもっと私にのめり込んで。魂を震わせて……」


「……ヴィタ。ヴィタ……!」


名前を呼ばれるたびに震える。


再び唇が重なると同時にヴィタの中で時が止まったような気がした。


果実から溢れ出す蜜の味を知り、人としての何色にも染まる愛を知った。


地を這ったとしても、愛は甘い角砂糖のようなものだ。


それさえも全部溶かしてしまう。


それくらいに果てなく求められた愛にこたえたい。


指を絡めて、赤い舌がちろりと肌に触れた。



「んっ……!」


愛に飢えていたのなら、愛してみよう。


何度も出会い、何度も別れてきたからこそ、苦しんできた人を愛したい。


誘惑に誘惑をかさねて、甘く優しくささやいて。


そうすることで求愛されるのならば受け入れよう。


魂は結びついたのだから、愛を知っていこう。


今感じる愛より、未来ではもっと強い愛を。



「この心臓はヴィタ、君のものだ。愛してる。誰よりも、深く……」



それは天の最高峰よりもと、木に背中を押し付けて二人で地面に倒れ込む。



「私ね、ちょっとイジワルなくらいの甘さが好きみたい」


「……ほんと、君はずるい女だよ」



衣擦れと、甘い吐息が夜に紛れた。


はじまりの女は傷ついた美しき者をも愛する気高き者。


好きにならずにいられようか。


苦難の果てに得た目の前の甘い果実に一度失った光を見た。



「ルーク、愛してます。私の希望」


それは愛の象徴。


明けの明星と呼ばれた者は、愛を知り完全なる翼を得た。



――その女の魂に、永遠の誓いを。



後に語られるは「道を切り開いた気高き女の物語」


悪魔にもなる存在を愛し、甘いささやきさえも抱きしめた。



天使であろうと、悪魔であろうとも。


この魂は優しく、愛し抜こうと決めた。


時に甘く、誘惑に身を委ねて愛を交わそう。



この手は慈愛のものか?


ただ一人を愛すると決めた狭き手か?



業火に焼かれる者さえ赦すは、愛からうまれたはじまりだ。



“もう、何度目の誘惑かわからない”


“やっと、愛してくれた”


それは優しいやさしい、淡く光輝く微笑みだった。




【令嬢ヴィタの魂に甘い誘惑を】(TRUE ENDルート 完)

NEXT メリーバッドエンド

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