表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生の魔女  作者: RUSA
60/151

5生 ep.14

「何なのよ、このシャベル。もう曲がっているじゃない」

エンヴァは泥のついた安物の農具を忌々しげに放り出した。


今の庭園はアロイス侯爵の送り付けた「肥料」によって土壌の栄養は満ちている。


「もう少し農地を広くしたいわね、薬効のある植物を何種類か育てたいの」


しかしさらなる拡張、腐葉土への入れ替え、そして楽に作業できる頑丈な鉄の農具を揃えるには、どうしても纏まった資金――金貨50枚が必要だった。


本来、それは子供三人と女性一人で開墾できる広さではない。


無限の命を持つエンヴァであれば1年でも2年でもかけて少しづつ進めていた作業であるのだが。



しかし、産みの母を自らの手で「処分」したあの日から、実家という後ろ盾は完全に消滅した。




皇帝からの養育費は、4人が生きていくための最低限の食費と管理費に綺麗に消えてしまう。


皇女という肩書きはあっても、贅沢品や「趣味の農具」に回せる金など、この庭園のどこを掘っても出てはこないのだ。




しかし、それもエンヴァであれば話は別。


皇帝にカネを寄越せと「命じれば」済む話。




だが、それを


「なんだかおもしろくないわ」


と特に理由も無く却下していたのもエンヴァ。




「エンヴァ様……流石に金貨50枚は、僕が町で働いても一生かかっちゃいますよ」


「……セト、誰があなたに働けと言ったの? 頭を使いなさい」




エンヴァは黄金の瞳を細め、鮮やかに咲く薔薇を睨みつけた。




金がないなら、作ればいい。魔女にとって、世界は素材の宝庫なのだから。






「森へ行くわよ、準備なさい」


「は?」


主の突飛な発言に、セトは執事にあるまじき間の抜けた声を上げた。




「何度も言わせないで。留守は母様とミーナに任せるわ」


「ふ、二人で……二人きりで行くのでございますか!」


「当たり前でしょう。誰が荷物を持つって言うの? あなた以外に」




エンヴァは溜息を吐きながら、無造作に歩き出す。


背後では、セトが顔を真っ赤にして狼狽えていた。




『二人きりの外出』。


その事実に執事の少年は、胸が破裂しそうなほどの鼓動を抑えられずにいた。




まるで、午後のティータイムを少し長めに取るかのような軽やかさで。


エンヴァは騎士の小隊も、着替えのドレスも、皇女としての権威もすべて置き去りにし、ただセト一人を連れて宮廷から「消えた」。




本来、皇女の外出には大仰な護衛がつくのが常識だ。


だが、エンヴァが指先を小さくクルクルと回すだけで、厳重なはずの門番も、鋭い眼光の見回り兵も、まるで見えない「何か」に意識を逸らされたかのように二人を素通りさせた。




(……やっぱり、エンヴァ様の威厳は凄いんだな。顔パスなんてレベルじゃないや)


セトはそれを、兵士達のエンヴァに対する「忖度」なのだと自分に言い聞かせていたが、事実はもっと単純で、魔女の術の結果に過ぎなかった。






そして城を出て町を抜け、門をまたいだらそこは王都圏へとつながる街道。


気温は低いが、整備された街道を3時間も歩くと汗がにじんでくる。


子供の足であるので大人の半分程しか進んではいない。




「エンヴァ様、あそこに丁度いい木陰と切り株があります。少し休憩になさいますか?」




セトが背負ったバッグの中身は、お世辞にも皇女の食事とは呼べないものだった。


ナイフで切り分けて食べる、少し硬めの丸いパンが二つ。


そして、陶器の水筒に入った水。たったそれだけ。




だが、エンヴァは不平一つ漏らさず、差し出されたパンを小さな口でモグモグと咀嚼する。

その無防備な仕草は、「魔女」というよりは、ただの年相応な少女のようにも見えた。




(……このペースだと、食料はあと三日も持たないな。早く目的地に着かないと)


セトは不安を打ち消すように、核心的な問いを口にした。




「……あの、エンヴァ様。結局、どこの森へ向かっていらっしゃるのですか?」


「知らないわ。わたし、このあたりの土地勘なんて無いもの」


「……は?」


パンを飲み込み、事もなげに言い放った主の返答に、セトは今度こそ絶句した。




目立たぬよう、普段の野良着のままフラリと宮廷を抜け出してきた彼女の行動は、無計画という言葉すら生ぬるい、あまりにも「アバウト」なものだった。


(……だめだ。この方は、お一人では生きていけない)




セトは、パンの粉がついた自分の手を強く握りしめた。

世間知らずで、危なっかしくて、けれど誰よりも誇り高い自分の主。


目的地さえ定かではないこの旅路で、彼女の身を、そしてその尊厳を守り抜けるのは自分しかいない


――セトの胸の中に、小さな「騎士の誇り」が芽生えた瞬間だった。







先ほどの休憩から2時間後。

それは当然の帰結だった。


騎士の護衛も持たず、馬車に乗っているわけでもなく。

ただ野良着を着ただけの子供が二人。




そんな「獲物」が街道を歩いていれば、飢えた野盗はおろか、良識足りない柄の悪い大人たちが良からぬ考えを抱くのは、この世界の摂理である。




街道へ出て最初の夕暮れ。


朱に染まる空の下、二人の男がエンヴァとセトの行く手を、粘りつくような笑みを浮かべて塞いだ。




「おろぉ? 子供二人で、こんな時間にどこへ行くのかなぁ?」


一人の男が、汚れた歯を剥き出しにして声をかけてきた。




「どこかの商人の子供か何かかい? お嬢ちゃん、パパの名前を言えるかな?」


もう一人の男は、探るような視線をエンヴァへと向けた。




エンヴァは顔を隠してすらいない。




夕闇の中でさえ、その美貌は月の雫を固めたかのように白く、神秘的に輝いていた。


男たちは確信した。この少女の「顔」には、とんでもない価値がある。


どこかの貴族の落とし胤か、それとも隠し子か。




どちらにせよ、自分たちが手に入れればしばらくは暮らせる「最高級の商品」だと。

この顔ならいくらでも買い手が付く。

それは誰の目にも明らかだった。


「……その前に。少しばかり、こいつで遊んでからでも遅くはねぇよな?」


男たちの下卑た笑いが、夕闇の街道にねっとりと響き渡った。




「商品」として売る前に、自分たちがまずその「価値」を確かめる為の「味見」をする。


そんな獣のような欲望が、濁った瞳にありありと浮かんでいる。




「おい、大人しくついてきな。殺されたくなければな」


「エンヴァ様! 僕の後ろへ!!」




セトは叫び、震える手で昼にパンを切っていたナイフを構え、主を庇うように立ちはだかった。


「ああ?それでどうすんだ?」


だが、対する男が引き抜いたのは、血に汚れた使い古しのミドルソードだ。


体格の差、武器のリーチ、そして実戦経験。子供のセトに勝ち目など、万に一つも見当たらない絶望的な状況。




「……どいていらっしゃい、セト」


背後から、凍てつくような低い声がした。


エンヴァはセトの肩を拒絶を許さない力で押し退け、一歩前へと踏み出す。




「おお? こっちは素直じゃねぇか。歓迎するぜ、お嬢ちゃん」


男はニチャリと笑い、その錆びた剣先をエンヴァの胸元へと寄せた。




金属の冷たい感触が、野良着の布越しに彼女の乳房をまさぐった。


「ああ?宿に帰ったらゆっくり可愛がってやるぜ」


剣先がツーーっと下に降り、エンヴァの幼い秘所あたりを撫でる。




それは、セトにとってはエンヴァの尊厳を土足で踏みにじる行為だった。


「貴様ぁぁああああ!!!!」


セトが怒りに我を忘れ、男に飛び掛かろうとしたその瞬間。




「……待ちなさい、セト」


エンヴァの手が、制止の壁となってセトの前に置かれた。


彼女の顔は、驚くほど無表情だった。




「……セト。目、瞑っていなさい」




主の命令には背けない。

セトは慌てて目を閉じ両手で塞ぐ。




「……もういいわよ」


エンヴァの冷ややかな声が鼓膜を叩き、セトはゆっくりと目を開けた。


時間にすれば、ほんの1秒。




瞬きをするほどの短い間に、街道の空気は劇的に変わっていた。


先ほどまで下卑た笑い声を上げ、ギラついた鉄の剣を振りかざしていた二人の男。


彼らは今、物言わぬ肉の塊となって、土の上に無様に転がっていた。




外傷一つない。


ただ、魂だけを強引に引き抜かれたかのように、その瞳には光が欠片も残っていなかった。




「エンヴァ様! お怪我は……!?」


セトは駆け寄り、主の細い肩を抱き寄せようとして――


エンヴァの周囲に漂う「静寂」に気圧され、手を止めた。




「何もないわよ。それよりセト、仕事なさい。彼らから今日の宿代と食事代を『徴収』してちょうだい。それが終わったら、街道の端へ。馬車の通行の邪魔になるでしょ」




エンヴァは汚れを払うように指先を振ると、事もなげに言い放った。




「エンヴァ様……いったい、二人をどうやっ……」


震える声で問いかけようとしたセトの唇に、白く細い指が一本、そっと当てられた。


その行為にセトの心臓がドクンと跳ね上がる。




そのまま、エンヴァの顔が至近距離まで近づく。


耳元で、甘く、けれど拒絶を許さない吐息が囁かれた。




「……知らなくていいことよ」


「は、はいっ!!!!」


セトは心臓が跳ね上がるのを感じながら、子犬のように勢いよく頷いた。




主の命令は絶対だ。

彼は言われた通り、まだ温かみの残る死体の懐を探り、数枚の硬貨と、荷物の中から干し肉、ハードタック、乾燥豆、そしてワインが詰まった革袋ワインスキンを取り出した。




作業を終え、二人の男を街道脇の深い草むらへと転がし終えた時、背後からエンヴァの独り言のような声が響く。




「……向こうから食事と宿代を運んできてくれるのよ。彼らに感謝なさい」


皮肉なのか、それとも本気でそう思っているのか。


月明かりに照らされたエンヴァの横顔は、慈悲深い聖女のようでもあり、すべてを食らい尽くす悪魔のようでもあった。










それから1時間程。


街道沿いの集落に宿屋を見つけると、宿屋の主人に堂々と「二人よ」というエンヴァ。


「へ、へい。銀貨40枚で。食事はつけますか?つけるなら56枚になりますが」


「そうね、お願いするわ。部屋まで持ってきて頂戴」


あまりにエンヴァが堂々としすぎていて宿屋の主人も普通に接客せざるを得ない。

二階への階段を上る二人に

「なんだありゃ?」

「子供二人でなぁ」

とぼやく宿屋の主人と客。


代金は先ほど殺した二人組の所持金から支払った。


「まぁ、アレだ。面倒ごとには口を突っ込むなって言うだろ」

どうせ明日になれば出て行く。

「珍しい客は厄介ごとを連れてくる。」

爺さんの代から伝わる格言に宿屋の主人は従う事にした。



宿屋の簡素な部屋に運ばれてきたのは、鶏肉と戻した豆の温かなスープ、そして焚火で少し炙ったパン。

それに、汲みたての冷たい井戸水。


「ちょっと戻しが甘いわね」


煮豆にはうるさいエンヴァの採点は中の下。

しかし贅沢は言っていられない。




王宮の贅を尽くした晩餐に比べればあまりに質素だが、街道の安宿としては真っ当な内容だ。


空腹を満たし、二人きりの部屋に静寂が訪れる。




そこで、セトが弾かれたように立ち上がった。




「わ、わ、私は馬小屋で寝てきますので! 失礼しますッ!」


脱兎のごとく部屋を飛び出そうとしたセトの背中に拒絶を許さない声が突き刺さった。




「ダメよ。一日中歩いて、汗をかいちゃったわ。……拭いて頂戴」


(えええええええええええええええええ!)


セトの絶叫は、声にならずに心の中で木霊した。




「拭いて」?




誰が?




誰を?




帝国一の美少女と謳われ、目を合わせることすら不敬とされる皇女殿下の、その……肌を?




「……何、ぼうっとしているの。早くしなさい」


エンヴァは窓の外を眺めたまま、無造作に野良着の襟元に手をかけた。




旅の汚れを嫌う彼女にとって、清潔を保つことは何よりも優先されるべき。




そこに羞恥心や、年頃の男女という概念が介在する余地はない。




「あ、あの……! エンヴァ様! それは、その、ミーナがいれば……!」


「いないわよ。ここにいるのは、私の執事であるあなただけ。……まさか、主を汚れたまま寝かせるつもり?」


黄金の瞳が、じろりとセトを射抜く。




逆らえるはずがなかった。




エンヴァとしては全くセトに意を介していないようで、そそくさと上着を脱ぎインナーを脱いでその乳房をあらわにして向こう側を向いている。




(はいいいいいい! 謹んで! 喜んでぇええええ!)


心の中で野太い雄叫びを上げながら、セトは宿の井戸から汲み上げた新鮮な水を桶に満たし、全速力で部屋へと戻った。


だが、その熱気とは裏腹に、部屋の中には静謐で、どこか神聖ですらある空気が漂っていた。




エンヴァは、恥じらう素振りなど微塵も見せなかった。




彼女にとって、この行為は「汗で汚れたから拭く」だけの行為。


彼女が正面を向くと、白く細い片手がすっと差し出された。


(うわ!!!!)


セトの心の声が響く、正面には乳房を露わにしたエンヴァの姿。




まずは右手。


次に左手。




セトは熱を帯びた自分の指先が、その絹のような肌に触れるたびに、心臓が爆音を立てるのを感じていた。


「……ん」


短く呟くと、エンヴァは無造作に両手を上げた。




脇から、滑らかな背中、平坦でしなやかな腹部。


そして、12歳の、まだ蕾のように控えめな膨らみ。




夕闇の差し込む粗末な部屋で、その肢体は真珠のような光沢を放ち、あまりの眩しさにセトは思わず、固く目を瞑った。




「……何をしているの。ちゃんと目を開けなさい」



拒絶を許さない、静かな命。




セトは震える瞼を押し上げた。




そこには、自分を誘惑しようとする邪悪な女ではなく、ただ真っ直ぐに自分を「己の一部」として信じ切っている、傲慢で孤独な主がいた。




その黄金の瞳に見据えられ、セトはもはや羞恥心すら通り越し、一つの「儀式」に挑む神官のような心持ちで、濡れた布をその清廉な肌へと滑らせていった。




上半身の清拭を終え、いよいよ奉仕の布は下半身へと吸い寄せられていく。

セトの心臓はもはや警鐘を鳴らす限界を超え、期待と畏怖が綯い交ぜになった濁流に呑み込まれようとしていた。




一点の曇りも、穢れすらも跳ね返すような、白く滑らかな両足。


その汗を丁寧に、祈るような手つきで拭き取ったその時だった。




「……布を貸して」


エンヴァの短く、けれど明確な「境界線」を示す声。




流石にそこは、彼女自身の領域だった。


セトから布を受け取ると、エンヴァは迷うことなく下着の中に自ら手を突っ込み、事務的にその身を清め始めた。




(……あぁ、そうですよね。流石に、そこまでは……)


どこかで期待していた自分を恥じる余裕すらなく、セトは妙な納得感と共に深く息を吐き出した。




魔女としての矜持か?


あるいは単に「そこまでさせるのは、年頃の男の子には」という彼女なりの判断か。




一通りスッキリした表情を浮かべたエンヴァが、湿った布をセトへと差し戻す。


「……あなたも、ちゃんと清潔になさい。隣で寝るのに、汗臭いのはダメよ」


「は、はいっ!!!!」




セトは弾かれたように叫ぶと、ひったくるように布を掴み、逃げるように部屋を飛び出した。


彼の体は少年ならではの激しい興奮と主への忠誠心で沸騰せんばかりに熱を持っていたのだ。




……バシャッ!!


窓の外から、景気の良い水飛沫の音が響いてくる。




セトは暗がりの井戸端で、氷のように冷たい水を頭から何度も被っていた。

暴走しそうな己の雑念を、物理的に冷却する。




それが今の彼にできる唯一の「騎士道」だった。




窓辺に寄り添い、月明かりの中でその様子を眺めていたエンヴァは、小さく肩を竦めた。


「……ふん。効率はいいけれど、流石にまだ寒いわね」


彼女にとって、それは単なる「先体効率」の可能性。


自分もあんな風に水を被るという選択肢は、この旅の予定表から即座に抹消された。




「……これを、ドアに」


部屋に戻り、先ほどの「隣で寝る」という言葉を反芻して使い物にならなくなっていたセトに、エンヴァが冷たく、けれど的確な指示を飛ばした。




手渡されたのは、返しのついた三角形の金属片。


「え、あ、はい……? これは一体……」


「ドアの隙間に差し込みなさい。こんなのも知らないの?」




それは旅人の知恵が詰まった「ドアウェッジ」と呼ばれる道具だった。


寝静まった夜、外から強引に扉を開けようとすれば、この金属が食い込み、物理的に侵入を阻む。




先日、町でエンヴァに言われるがまま購入したガラクタの一つが、これほど合理的な役割を持っていたことにセトは舌を巻いた。




(エンヴァ様は、本当になんでも知っていらっしゃる……)


感心している暇はなかった。主は、すでに次の「命令」を口にしていたからだ。




「そろそろ寝るわよ。明日は日の出には出発するから」


エンヴァは迷いなくベッドに横たわった。

だが、彼女は中央ではなく、あからさまに右側へと寄ってスペースを開けている。




「何をしているの? いらっしゃい。……ベッドは一つしかないのよ」


「……っ!!」


セトの心臓が、本日何度目かの限界突破を記録する。




震える手で魚油の灯火を消すと、部屋は一瞬にして濃密な闇に包まれた。




窓の外には雲一つない満天の星々。




その微かな光を頼りに、セトは鉄の棒のように体を硬直させ、ベッドの端へと滑り込んだ。




(落ち着け、落ち着け僕……。これは護衛だ。僕は盾なんだ……)


自分に言い聞かせ、呼吸すら止めていたその時。


隣から、ふわりと甘く、清潔な香りが近づいてきた。




「……ん」


無防備な呟きと共に、エンヴァが突然、セトの体に抱き着いてきたのだ。


「エ、エンヴァ……様……?」


返事はない。




ただ、彼女の柔らかな体温と、規則正しい鼓動が腕越しに伝わってくる。




セトが石のように固まっていると、やがて耳元で、小鳥の羽ばたきのような可愛い寝息が聞こえ始めた。


(……ああ。これ、ミーナが言っていたアレか)


「エンヴァ様は、寝相だけはとってもアレなのよ。寂しがり屋なのかなぁ」




と、以前ミーナが笑って話していた言葉。


帝国を震撼させる魔女も、眠りの中ではただの孤独な少女に過ぎない。




セトはそっと、強張っていた力を抜いた。


自分の右腕を伸ばし、彼女の頭を優しく受け止める。




そして左手をその小さな背中に回し、闇の中に潜むあらゆる災厄から彼女を遮断するように、静かに抱き寄せた。


「……おやすみなさい、エンヴァ様。僕が、守りますから」


星空に見守られた狭いベッドの上で、二人の鼓動はいつしか、一つのリズムを刻み始めていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ