ステラ
それから一か月。
建国間もないディルガム統一王国の王都では、歴史の裏側に埋もれるような「ささやかな」裁判が執り行われていた。
被告の名はステラ。
旧イブン王国の王妃であり、現在は「王子殺し」の大罪人として地下牢に繋がれた女。
「……いかがいたしましょうか? 被告は獄中にあってもなお、エンヴァ様を呪う言葉を叫び続けております。不敬罪を重ねて適用し、即刻処刑することも可能ですが……」
実権を握るエンヴァの元へ、文官がおずおずと伺いを立てに来た。
対するエンヴァは、窓辺で優雅に紅茶の香りを楽しみながら、資料に目を落とすことすらしなかった。
「……ステラの気が済まないのも、解らなくはないわ。私への不敬などどうでもいいから、ただ法律通りに処分して頂戴」
「ハ、承知いたしました」
文官は深く頭を下げて退室した。
エンヴァは知識として知っていた。
この国における「王族殺し」の刑罰が、いかに苛烈なものであるかを。
ステラに下された判決は「ギベット(晒し檻)」による付加刑であった。
服を全て剥ぎ取られ、人型の狭い鉄檻に閉じ込められたまま、王都の中央広場に高く吊るされる。
衆目に晒され、石を投げられ、脱水と飢えの中で数日間かけて死を待つ。
そして息絶えた後も、その死体は罪の象徴として、鴉に突き崩されるまで放置される――。
「……仕方ないわよね。私が決めた法律でもないもの」
ティーカップを置いたエンヴァが、独り言のように呟く。
その声とは裏腹に、広場からはステラの狂ったような叫び声が、王宮のバルコニーまで届いていた。
「どうして私がこんな目に! 全部あの女の、エンヴァのせいよ! 殺してやる、八つ裂きにしてやる!!」
広場を埋め尽くす群衆は、かつての気高き王妃が無様な姿で罵声を撒き散らす様を、冷ややかな好奇心で見物していた。
しかし、ステラの身体は衰弱し、その叫びもやがて途絶えようとしていた。
「……あら、楽しいことを言っていたのに。もっと長持ちさせなさい」
エンヴァのその一言により、ステラには「慈悲」が与えられた。
一日一度、刑吏の手によって水と僅かな食事が与えられ、彼女の命は強制的に繋ぎ止められたのである。 死ぬことすら許されず、剥き出しの憎悪を叫び続けるだけの機械。
だが、人間の精神には限界があった。
晒し者にされてから十日目。ステラは自分を嘲笑う民衆の顔がすべてエンヴァに見えるという幻覚に陥り、ついに完全に発狂。
最後は自らの舌を飲み込み、血を吐きながらその短い憎悪に満ちた生涯を終えた。
王国の民は「魔女に逆らうと、ああなる」
とステラの狂気の死を戒めとした。




