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転生の魔女  作者: RUSA
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6生 ep.36

外は、命を凍りつかせるような冬の嵐。


そして東方の前線では、共和国の兵士たちが泥を啜りながら「正義」のために死んでいく地獄。


けれど、エンヴァの工場の私室には、世界から切り離されたような、不気味なほど穏やかな熱気が満ちていた。




「……はぁ。これ、悪魔の道具ね。足を入れた瞬間半分溶けていく気がするわ」




エンヴァは、新開発された木製の暖房机——通称「コタツ」の中に、その細い脚を深々と突き込んでいた。




机を覆う厚手の布団、その内側には熱を逃がさないための極薄の金属箔が仕込まれている。


クリフが調整した「焼いた石炭」の熱源が、四人の体温を緩やかに温め心地よい倦怠感を与えていた。




「これ、本当に売れますよ! 布団の中に熱を閉じ込める工夫、苦労した甲斐がありました。エヴァ様、量産体制に入ってもよろしいでしょうか?」


クリフが、頬を紅潮させて熱く語る。




「売れるでしょうね。一度入ったら最後、人間を『根菜』に変えてしまう魔具ですもの。……で、イメルダ。お茶の代わりに出されたこの不気味な色の液体は何かしら?」




「ふふ、特製のハーブジュースですよ、エヴァ様。……さて、カードゲームを続けましょうか。一番負けた人は、この『超苦い汁』を一杯、飲み干していただきます!」


イメルダが楽しそうにカードを配る。




本来、エンヴァにとってこの手の勝負は、勝負にすらならないはずだった。


魔力を使えば、裏返されたカードの繊維すら透けて見える。


相手の瞳の動き、心拍数、すべてが彼女に答えを教えてくれる。




はずだったのに。


「……あ、ら。また私の負け?」


エンヴァは手元に揃わなかったカードを見つめ、不思議そうに首を傾げた。


今日ですでに、勝負の半分はエンヴァの敗北で終わっている。




「エヴァ様! ギャンブルあんなにお強かったのに、今日は手を抜いていらっしゃるのですね? 」


クラリッサがクスクスと笑いながら、並々と注がれた「苦い汁」をエンヴァの前に差し出す。




「……計算、ね。そんな面倒なこと、今は考えたくないわ。……ぐ……。っ、にが……!? なにこれ、毒薬の失敗作かしら……」


顔をしかめ、涙目になりながら黒い汁を飲み干す魔女。




その傍らで、共和国の軍勢が焦土と化した東方で飢えに震えていることなど、今の彼女にとっては、お茶請けのクッキーの食べかすよりも、どうでもいい些細な出来事だった。




外の冬嵐も、東方の戦火も、この小さな木枠の中には届かない。


新開発の暖房具「コタツ」は、四人の男女を、心地よい倦怠感と、不埒ふらちな温もりで4人を包み込んでいた。




黒い苦汁(イメルダ特製ハーブジュース)を飲み干し、涙目になりながらも次のカードを配り終えたエンヴァは、コタツの中で、少し窮屈になった足を伸ばした。


その、刹那。




「……あ」


布団の奥底、焼いた石炭が放つ熱源の近くで、エンヴァの裸足が、誰かの足と密着した。


厚手の靴下越しではない。


それは、ゴツゴツとした、けれど体温を持った、男の足の感触。




「(……クリフ、ね)」


エンヴァは上半身をピクリとも動かさず、配られたカードを見つめたまま、黄金色の瞳の端でクリフの様子を伺った。




「ヒッ……!?」


クリフは、配られたばかりのカードを派手にコタツの上にぶちまけた。


みるみるうちに、その顔が、焼き石炭よりも真っ赤に染まっていく。


耳たぶまでが、破裂しそうなほどに紅潮していた。




「あら、クリフ。どうしたの? カードを配り直しましょうか?」


イメルダが不思議そうに首を傾げる。


「い、いえ! なんでも、なんでもありません! ちょっと、手が滑っただけで……!」


クリフは、慌ててカードを掻き集めるが、その手は微かに震えている。




彼は、コタツの中で何が起きているか、誰の足が自分に触れているか、瞬時に理解していた。


そして、その相手がエンヴァであることに、魂が沸騰するほどの動揺を覚えていたのだ。




「(……ふふっ。面白いわね)」


上半身は、退屈そうにカードを整理する、冷徹な魔女。


けれど下半身では、エンヴァはさらに足を伸ばし、クリフのふくらはぎへと、自身の足を執拗に絡ませ始めた。


「……っ、ぐ……!」


クリフは、コタツの布団をギュッと握りしめ、声にならない悲鳴を上げた。


柔らかく、温かい魔女の足。


それが自分の足を捕らえ、絡み合い、離してくれない。


彼の心臓は、もはや爆辞ばくじを唱えるどころか、限界を超えて暴走寸前だった。




「あら、貴方もこの苦い汁、飲みたくなったのかしら?超苦いわよ、フフフ 」




エンヴァは、動揺を隠しきれないクリフの瞳をじっと見つめ、薄いくちびるを妖艶に歪めて囁いた。 その黄金色の瞳には、冷徹な支配者の影はなく、ただ、純情な少年の反応を面白がる、悪戯っぽい「少女」の光が宿っていた。

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