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九話 幼馴染


 俺は、携帯を閉じて、家の中を見渡した。

 空き巣が入った形跡はなかったが、酷く荒れていた。

 特に俺の自室は窓が割られ、私物が水濡れになって使い物にならなくなっていた。

 俺は、しまっていた濡れていない服に着替えると、適当に荷物を整えて家を出た。


「流石に、堪えるけど、取りあえず寝泊りが出来る場所に行かなきゃなんねぇしな」


 俺は、そう独り言ちて家を出た。

 親が死んだのは悲しいが、落ち込んで居られると言うわけではない。

 とにかく今は行動すべきなのだ。

 両親を殺した犯人は捕まったと言うし、復讐しようもない。

 まあ、あの人たちは喜ばないだろうから、しないけど。


 そして、暫く歩いたところで、俺は止まった。


「おい、誰だ」


 気配を感じる。

 レベルアップの恩恵で五感も研ぎ澄まされている。

 いや、第六感と呼ぶべきものが、備わったと言えばいいか。


 まあ、とにかく、俺を見ている気配に向けてそう言った。


「バレた」


 そんな声と共に、何かからスタッと着地するような音が聞こえて振り向く。

 わかっていたが、初めの二十三人以外もギフトをもらったと言うし、サラっと人間離れした動きをするものだなと思う。

 顔を見れば、見慣れた顔だ。


「なにしてんだよ?八重桐(やえぎり)


 黒髪を方くらいまで伸ばした少女、八重桐麻耶(まや)が、いた。

 彼女とは小学生の頃からの付き合いだ。


「なにって、見知った顔があったから、スキルを試しに使おうと思って」

「どういうことだよ。……いや、待て。今日平日だぞ?学校は?」

「……今使ってたのは、『空中浮遊』と『隠密』っていうスキルなんだけど……スキルって知ってる?」

「無視かよ。……そこんとこは、まあ、さっき調べた」

「そう。で、使ってたんだけど。もしミスったら、宙に浮いてストーキングしているやばい奴じゃん。だから、知ってる奴で試した」


 まあ、そういう事らしい。

 確かに、浮いてたと言っても、数センチくらいだし、空を飛んでいたわけじゃあない。

 なんとも間抜けな格好だ。

 それを、他人に見られるわけにもいかなかったのだろう。

 普通に、人をつけるのはやばいしな。

 

「あ、そうそう。家燃えたでしょ。今日親いないけど家来る?」

「行くけど、お前んちの親、両方とも在宅勤務じゃん」







「こうやってお前の家に行くのも久しぶりだな」

「まあ、正時(まさとき)ヒキニートしてたし」

「不登校な。職業は学生」


 俺は、否定して彼女についていく。

 俺が不登校になる前はよく来ていた。

 別に付き合っているわけじゃないが、俺が家に行く間柄なのはこいつだけだった。

 まあ、昔からの付き合いで、それが高校に入っても続いていたと言う事だけど。


「どっちでもいいけど。……お茶淹れてくるから、待ってて」

「悪いな」


 俺は、彼女の部屋に案内されて、適当に座った。

 この部屋に来るのも久しく感じる。

 女の子の部屋にあるまじき、シンプルで面白みのない部屋だ。

 まあ、元々、家具は家をでたお兄さんの物を使っているらしいから仕方がないが。

 小学生くらいの時までは、彼女の部屋も少女趣味前回のきゃぴきゃぴとしたものだったが、いつからか、お兄さんが使っていたシンプルな家具に置き換わっていた。

 本人曰く、買い替えようと思ったときに、ちょうど兄が家を出たため、貰ったのだと言う。

 彼女は彼女で気に入ってはいるらしい。


「はい」

「ありがと」


 暫らくして、お茶を淹れて来た八重桐が部屋に戻って来た。

 俺はお礼を言って緑茶を啜った。

 そして、八重桐は座ったと思うと口を開いた。


「じゃあ、正時。聞かせて、ここ二週間どこに行ってたか」


 彼女はそんなことを訊いてきた。

 確かに、先ほどの会話から、俺がチュートリアルに参加したことは把握しているようだが、流石に、そこで起こったことは把握してないだろう。


「わかった、八重桐。じゃあ──」

「それと、苗字で呼ぶのやめて」

「え。なんで?もしかして、名前で呼ばれたいとか?」

「違う。中学生ならともかく、高校生になって苗字呼びになるのが童貞臭くてキモイ」


 まあ、確かに、俺がこいつを苗字で呼び始めたのが、不登校になる前くらいだから、変な時期ではあるけど。


「前みたいに麻耶って呼んで」

「まあ、わかった」


 俺は、その言葉に返事をして、起きたことを話した。

 俺のギフトと指定武器、そして、魔物との戦闘。


「なるほど。事故った挙句に万引きまで」

「そこじゃねぇだろ」


 そんな俺の声を無視して、麻耶は何事もなかったかのように口を開いた。


「じゃあ、こっちでは二週間経ってたけど、あっちでは二日程度だったってこと?」

「ああ」


 俺は麻耶が確認する言葉に頷いた。

 俺は、少しの食料しか持っていなかった。

 間違うはずもない。


「ギフトも【ステータス】じゃないのは、知ってたけど。そんなカスみたいな力だったなんて」

「言い方悪いな。つーか、チュートリアルをした奴ら以外は、同じギフトなのに、何で俺のが異なるって知ってたんだ?」

「アナウンスで、言ってた。チュートリアルにおける様々なギフトを参照して、私たちに【ステータス】と言うギフトを付与するって」

「なるほど」


 俺は納得した。

 そこまで、アナウンスが言っていたのならわかって当然だ。


「それと、一番気になるのは、魔物ってやつだけど」

「コボルトっぽい奴な」

「今現在、こっちの世界にはそういうのは出てないし、これから出て来るとかなら、まずいと思う」

「まあ、ダンジョンとかそういうのだったら、別だけど市街地に直接現れるとかだときついよな」


 実際どうかは分からないが、ダンジョン系の場合は、望んで中に入らなければ魔物と遭遇することはないが、市街地に直接湧いたりした場合は色々と面倒ごとが増えるだろう。


「それと俺も気になっていたことがあるんだけど」

「何?」

「俺の場合は魔物を倒してレベルアップで能力の上昇だったけど、それがないお前らはどうしてたんだろって。ほら、スキルとか言うのを取得するなら何か必要だろ、きっと。スキルポイント的な奴が」

「それは、最初にもらった初期ポイントで色々とするんだけど、今のところは新しく増やす方法はないから、だからこそ、魔物が現れるかもって話してたんだけど」


 彼女たちがもつギフト【ステータス】は、スキルの獲得が可能だ。

 そして、能力値にも色々とポイントを振れると言う。

 まあ、名前まんまではあるけど。






 そんなこんなで時間が経って夕食時、俺は八重桐家で夕飯をごちそうになっていた。


「それにしても、正時君が来るのも久しぶりだねぇ。僕も腕がなるよ」


 そんな、気合を入れた麻耶の父親である省吾さんを横目に俺は席に着いた。


「そうそう、行くとこないでしょうから、お部屋空いてるし、使っていいわよ」

「ありがとうございます」


 母親の宮子さんも、快くそう言ってくれた。

 そうした温かさを感じながら、俺は夕飯を食べ終わり、再び麻耶と俺が使わせてもらうお兄さんの部屋がある二階へと移動していた。


「それにしても、この年になっても、歓迎してくれるとはな」

「家の親は、正時とお兄ちゃんには甘いから」

「いや、それにしても、年頃の娘がいる空間に、長い付き合いとは言え、俺を泊まらせてくれるとは」

「同じ空間っていっても、部屋は違うし、追い出すわけにもいかないでしょ。それに、ヒキニートになる前はしょっちゅう来てたわけだし」

「引きこもってたからこそ、久しぶりに来てそう感じてるんだが。てか、よく来てたとは言え、泊まったの何て小学生ぶりだし」

「くどい。家が燃えたんだから、追い出せるわけないでしょ」

「まあ、そうか」


 確かに、顔を知ってる人間を追い出すのはなかなか難しい。

 それにしても。


「食事中話してるときも思ったが、誰も親の事聞かないんだな」

「ん、正太郎と由紀子のこと?」

「人の両親を下の名前で呼ぶなよ」


 確かに、この名前は俺の両親のものだが、友達かの様に呼び捨てにされても困る。

 ただ、気にした様子もなく麻耶は口を開いた。

 

「聞いてほしかったの?」

「いや、そうじゃないけど」


 歯切れの悪い言葉を俺は返す。

 別にきいてほしかったわけではないが、両親が死んだことは知っているだろう。

 それなら、少しは何か言うのかと思ったからだ。


「ならいいでしょ。こっちだって見るからに落ち込んでいるのを見て大丈夫何て聞かないし」

「そんな分かりやすいか?」

「だって、話し方とかいつもよりキモイし何より、くどい」

「普段からキモイのかよ」


 まあ、確かに自分でも少し面倒くさく接していたと言う自覚はあった。

 そんな俺をよそに、彼女はある部屋の前で止まってドアノブに手を掛けた。


「この部屋使って。掃除はしてあるし、布団はさっき用意してくれたみたいだから」


 彼女は、そう言うと自分の部屋に去っていった。

 どうやら、元々お兄さんの部屋だったらしいが、今は使われていない為かしてくれるとのこと。

 俺は、暫くして、風呂を借りた後、布団に入った。


「思ったより堪えるな……」


 目をつむれば、常にあるのは両親の死だった。

 迷惑をかけて、面倒をかけて、それでも俺を心配してくれるような人たちだった。

 結局彼らが死んだのは、俺のせいだ。

 

 そんな罪悪感以上に、ただただ沸き上がるのは悲しみだった。

 寂しくて悲しくて仕方がない。

 そんな感情は溢れ出て、涙が止まらなかった。


 そして、気付いて時には泣きつかれて寝てしまっていた。








 翌日。


「え?なにこれ。布団が正時の体液で湿ってるんだけど」

「いや、枕な。てか、勝手に入ってくんじゃねぇ」

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