十話 国からの使者
「ねぇ、正時」
「なに」
「例えば、警察とか来たときに、私は普通に引き渡すから、逃げるんだったら逃げてね」
翌日、食事を終えて麻耶はそう言った。
「何の話」
「最初のギフト付与者の内ほとんどが、帰還したって」
そう言って見せてくるのは、ニュースサイトだった。
どうやら、確認されているだけでも十二名全員が、俺と同じ時刻にチュートリアルからこっちに戻ってきたようだ。
そして、チュートリアル中に過ごした時間は様々で、最低で一日、最長で一か月なんてこともあるらしい。
食料はどうしたのか気になるところだが。
それと同時に、戻って来てそうそう殺されてしまったものもいたらしい。
殺人を犯した者は、被害者家族が、チュートリアル開始場所に二週間も陣取って戻ってきた瞬間に襲って殺したと言う。
「あれ、なんで俺はホームセンターで張り込まれてなかったんだ?盛大に事故ったから、目撃証言も合わせればすぐばれるよな」
「始めの頃はいたけど、普通に営業妨害だし。それに、時間が経ってからは、多くの人にギフトが芽生えたから」
「うやむやになったってわけね」
まあ、それでも平日のあの時間にあそこに視線が集まるだけの人がいたと考えれば多い方ではあったのかもしれない。
それでも、取り囲むように人がいなかったのは、そういう事情があったからか。
「で、最初の言葉の意味は?」
「恐らく、警察ではないと思うけど、何かしらからの接触がありそうってこと。国からの使者とか、あとは、良からぬことを考えてる人とか」
「もし国の人が来たとして、国家権力に逆らう気もないってことか。まあ、今持っている情報を考えれば、俺の力が希少とは言え、強力なモノじゃないから変な思惑に巻き込まれるようなことはなさそうだし、抵抗はしないけど」
と、そんな話をしていると、噂をすればと言ったようにインターホンが鳴った。
俺の家ではないから、流石に対応するのは麻耶だ。
そして、室内機越しに何かを話すと、こちらを見た。
「正時、来た」
俺は首を傾げるが、遅れてその意味に気付く。
今の話の流れから考えれば、一つしかない。
国からの使者からかどうかは定かではないが、確実に最初にギフトを受けとった二十三人の一人として俺に接触をしてきている奴がいると言う事だ。
俺は、頷くと玄関で靴を履いて扉を開いた。
そうすれば、黒いスーツを着た男が二人立っているのが分かった。
「河添正時さんでよろしいですね」
「ええ。あってます」
俺が頷くと、男は名刺を差し出してきた。
名刺には、防衛省と書かれている。
名前は、木下翔也。
やはり国か。
「詳しい話は、車の方でよろしいですか。それと、河添さんお一人でお願いします」
簡単な詳細も話していないのに、ついていくのは、よろしくはないと思っていると、不意に俺の背後を見てそんなことを言う男。
俺もつられるように見れば、麻耶がいた。
まあ、彼女の家だし、さらに言えば、インターホンに出たのも彼女だから別におかしなことではない。
きっと心配してくれたのだろう。
俺が頷くと、彼女は目をそらして部屋に戻っていった。
「では、こちらへ」
そう言って、ドアを開けた黒塗りの車に乗せられた。
男が、乗り込むと車は発進した。
それを確認した俺は口を開く。
「事情の説明の前にどこにいくか教えてもらっても構いませんか?」
別に、大したことはないが、少し気になり聞いた見た。
だが、運転席に座る木下さんは首を振った。
そのあと、言葉を返した。
「申し訳ありませんが、それは言えません。機密ですので」
「これから連れて行くのにですか」
「はい。河添さんに関しては、こちらのスキルを使用して外部を見えないようにしますので、そちらもご了承ください」
そう言う木下さんの声に、俺は黙った。
別に、力をもって気が大きくなっている自覚はあるが、逆らいたいわけではない。
そんな様子の俺を見てから、彼は本題を話そうと口を開いた。
ビル街に入ったあたりで車はスキルに寄ってか、窓の外が黒く塗りつぶされたが、何故か日光は入ってくるようで依然、明るかった。
「河添さんは、今の現状をどこまで把握していますか」
「現状ですか?」
ここ二週間の話だろうか。
そうおもって、俺は簡単に知っていることを説明した。
「確か、最初の二十三人以外の方にも、【ステータス】と言うギフトが配られたとか」
「ええ、そうです。そして、スキルを利用して様々な恩恵を得ることが可能になります」
確かに、麻耶が使っていたものだけを見ても多彩だった。
俺の様に【延長】一辺倒よりもさぞ便利なんだろう。
「それでなんですが。河添さんのギフトはどんなものだったのでしょうか。貴方も知っている通り、こちらが把握しているのは【ステータス】だけですので」
まあ、そうなるよな。
一瞬、ごまかす選択肢も出たがやめておこう。
情報を握られたくない。
そんな思いがあるが、俺のギフトは知られても大したことにはならない。
「【延長】と言う名前のギフトです。名前の通りの能力で、物を伸ばせます」
「制限、限界などはありますか?」
ずけずけと聞いて来るな。
正直、ギフトの公開自体プライバシーに含まれると考えてるんだが。
【ステータス】の様に、スキル構成がバレれば命取りと言った能力ではないが、それでも、ギフトを秘匿することに自分の安全を確保する効果は少なからずある。
この男には、こういった感覚がないのかもしれないが。
まあ、仕方ない。
そう思って、口を開いた。
「制限で言えば、ギフトは指定された「武器」にしか使用できません。限界は、レベルアップのたびに変わるようなのでわかりませんね」
まあ、それだって感覚で分かるのだが。
ただ、それを聞いた彼は満足だったのか、後部座席の乗った俺から見えるミラーには笑みが見えた。
「そうですか。ありがとうございます。それと、やはり、レベルアップはしているのですね」
「ええ、まあ」
他のチュートリアルを終えたものからの情報で多少は知っているのだろう。
「では、早めに保護出来てよかったです。実は、貴方たちの言う魔物と呼ばれる生物は、未だ発見できていないですが、レベルと言うのは人間を殺した場合にも上がるようでして」
まあ、考えられたことだ。
力を持てば、こういうことは起きるだろう。
もし、誰も故意に殺人をしようとしなくても、事故くらいは絶対に起こる。
「それでですね。人間間ではレベルが高いものほど殺した時にレベルが上がりやすいらしく」
「ああ。それで、魔物を倒してレベルが上がっている俺が、経験値として狙われやすいから保護したと言う事ですか」
「そうです」
木下さんは同意する。
そして、俺は車の揺れで下っているのを感じた。
スキルで見えないが、日光が遮断されて暗くなったため、恐らく地下に入ったのだろう。
駐車場とかだろうか。
ただ、そんなことに気を取られていたために、気付けなかった。
運転席の男が、不敵な笑みを浮かべていたことに。
次の瞬間、俺に向けられたナイフを寸でのことろで避ける。
「ちっ」
反射的に動いたせいで、半ば理解がおよななかったが、男の舌打ちで状況の把握をした。
嵌められたのだ。
すぐに脱出を試みるが、鍵は当然締まっている。
そして、男の仲間が外部から攻撃を開始した。
刀、だろうか。
だか、スキルで何かしたであろうそれは、簡単に扉を貫通してこちらに刃を届かせた。
ただ、俺も車内に敵がいる状態だ。
当然、そんなものを避けている暇はない。
隠して持っていた斧を【延長】を使って、車内で、邪魔にならない程度に伸ばして攻撃を受け、そのまま押し込んだ。
そして、開いた手で、もう一本を伸ばしてドアを破壊した。
そのまま、外に出た俺は、周囲を見渡した。
「結構いるなぁ」
場所は、予想通り駐車場だが、そんなことよりも人がたくさんいた。




