三十七話 クエ
責め立てるように言葉を吐いた後、優しく俺のことを肯定したDV野郎こと、糸魚川正龍の誘いを真面目に俺は考えてみることにした。
確かに、俺は目の前にいる大会優勝者である正龍を見た時、「ああ、こんなもんか」と思った。
それは、失礼なことではある物の、本音であることに違いはなかった。
だから、正龍よりも下を見た時、あまり期待できないだろうなと思った。
それは、正龍からしてみれば、強い奴を誘いたいのなら、必然的に俺になると言う事である。
だから、俺は彼が俺のもとに話を持ち掛けた理由を納得せざるを得なかった。
「わかった。話を聞かせてくれ」
俺は、これ以上話を妨げる必要はないと判断して、正龍を促した。
正龍は、それに頷いて、本題に入った。
「まずだけど。正時は、クエストって、来たことはある?」
「クエスト?」
ゲームでよく聞く単語だから、なんだそれとは言わないが、少なくとも世界がこんなことになってから聞いたことのない言葉だった。
ユニークスキルと言い、各々で秘匿されている情報は多いのかもしれない。
もしくは、【ステータス】を持っていない、俺が例外的に情報をはじいているのかもしれないが。
「クエスト、まあ、聞いての通りの物なんだけど。……そうか、やっぱりファーストでも、来ていないのか」
正龍は、ボソッとそう言った。
そこから推測するに、ギフトが【ステータス】でないために、俺が知らないと言うよりは、一般的にも珍しいと言う事だろうか。
「まあ、薄々気付いているとは重いけど、今回のギフト新たな可能性ってのは、そのクエストの報酬に関係してくる」
「クエスト報酬が、ギフトの強化だったりするってことか?」
曖昧な、表現に俺はそう訊いた。
だが、この曖昧な表現を多用するのには理由があったようだった。
「正確には、分からない。文字通り、俺の目の前に現れたウィンドウには『ギフトの新たな可能性』って出てるんだ」
他人にギフトを任意で見せることが出来るようで、彼は俺にそれを見せて来た。
確かに、彼が言ったように、報酬の欄にはそう書かれていた。
そして、難易度も高いと言う旨も記載されていた。
「なるほどな。一つ気になったんだが、どのタイミングで、そのクエストは来たんだ?」
「ちょうど、大会で優勝した時。恐らく優勝が関係してるんだろうけど、詳しくは」
分からない、か。
言って見れば、日本一、そんな称号を手にした正龍に反応したとも考えられなくもないが。
そんなこんなで、俺たちは、話を進めた。
その日、一本の動画が投稿された。
それは、見事協会主催の大会で優勝をした糸魚川正龍の盗撮動画だった。
ただ、投稿者、視聴者並びに盗撮の意識は薄いように見えた。
それよりも、コメント欄は、この動画内での正龍の行動の考察が行われていた。
「正龍、サンドイッチ食う時一口小さくて笑った」「隣の男、ファーストの河添じゃね」「アイツって、メディアでねぇよな」「お高く止まってんだろ」「正龍くん、イケメン過ぎて死ぬ」「まって、オフの正龍君ヤバイww」「スキル使ってんのか、話は分かんねぇな」「口元の動きもスキルで隠してやがる。流石日本一」「日本一は、西峯京香なんだよなぁ」「戦ってるの見たことないだろ」「事実上の、日本一なんだからあってんだろ。そんなこと言ったら、河添がどれくらいの実力になるかって話だし」「それより、二人って知り合い?」「知り合いなんだから、一緒に話してんだろ。俺もおどろいたけど」「このカフェ、協会本部近くだよな」「あー、コーヒー異常にうまいとこね」「以上にってどゆこと」「それより、河添のギフトって何?」「知らん」「伸ばす能力って聞いたけど」「チートじゃん。壁伸ばしたり、相手の骨伸ばして、突き破れば加地じゃね」「グロいな」「でも、用件つったら、優勝した時になんか見て驚いていた奴だろ」「なにそれ」「知らん」
ただ、そこに羅列された文字は、特に意味のある物でもなかった。




