二十一話 第一試験
律儀に礼をする男の人を俺はボーとみる。
強さはそんなにない。
というか、ここにいる人たちは忍び込んで居なければ、ダンジョンに入っていないであろうから、そりゃそうとしか言えない。
ただ、俺のように【延長】と言った、最初の二十三人が持っていたギフトではなく、【ステータス】と言う、初期ポイントを割り振って強化できるギフトであるため、そんじょそこらの素人と言って侮ることも出来ない。
要は使い方なのだ。
麻耶や正龍と言ったレベルアップをしていない人間でもダンジョンをクリアすることが出来るのは分かっている。
スキルを上手く使えれば、単純な攻撃力がなくても、一方的に負けてしまうと言う事もない。
男は、剣を構えて、チクヒさんを見据えている。
剣は、当たり前だが、銃刀法の関係で資格を取らない限りは持つことは出来ないために、貸し出すと言う形になっているようだ。
とは言っても、様々な武器種が長机においてあることを考えれば、普段の力が出せないなんてことはないだろう。
そうこうしている内にブザーがなった。
開始の合図だ。
「ハアァ!!」
その瞬間、男は地面を蹴る。
先手必勝、そう思ったのだろう。
だが、チクヒさんが、本気で相手をしたのなら、ここからでも簡単に対応されてしまうのは俺には分かった。
恐らくレベルアップして相当に力をつけているのだろう。
まあ、だが、試験なので、そんなことはしないようだが。
男の剣は何に防がれるでもなくチクヒさんに届こうとする。
だが、此処まで男はスキルを見せていない。
使うならここだろう。
足止め、目つぶし、何でもいいが、このままではどうせ躱される。
そして、男は、予想通り、スキルを使った。
加速だ。
一瞬にして、詰めていた距離を更に縮めた。
一気に加速系のスキルを使わなかったのは、恐らくその手はないと油断させるためだろう。
足元や目つぶしによる視界の阻害を警戒していたであろうチクヒさんは一瞬反応が遅れる。
「とった」
男が言った。
だが、それでも、避けられる。
当たり前だ、地の力が違う。
それに、クチヒさんもこの男だけの相手をするわけではない。
当たってあげる、なんてことはない。
だが、避けられた男も、まだ一撃目。
追撃のては止まらない。
次は加速ではなく、魔法攻撃。
手から、火球を出して牽制しつつ距離を詰めていく。
土魔法的な奴の方が応用力が高そうだなと思いながら見る。
火なんて焚火を起こすくらいしかない気がするし。
足止めも難しいし、未だって、剣で薙ぎ払われている。
ポイントを振るのをミスったのではないだろうか。
まあ、善戦はしているのだが。
そうこうしているうちに男は負けた。
最後は足を引っかけられて転んだところに、チクヒさんが剣を突き付けての降参によってだった。
ただ、その次に続く人たちを見ていると、この男の人は結構強かったんだなと、気付いた。
工夫してスキルを使う人がたくさんいるが、そもそも、体を動かして戦うと言うのは思ったよりも難易度が高いらしい。
格闘技とか習ってないと難しいのかもしれない。
俺も、初めはこの人たちよりだめだったし。
いまは、矯正されつつあるが。
「河添正時さん」
「はい」
いつの間にか、結構進んだようで、俺の番になり名前を呼ばれた。
俺は、愛用の金と銀の斧を取り出そうとして手を止めた。
そう言えば、武器は置いてあるのを使うんだったか。
置いてあるのを見てみれば、くそデカい戦斧のようなものがあった。
剣を選んだり出来ない俺は悩むことないとてっきり思っていたが、斧だけでも数種類ある。
とは言え、俺が選んだのは、手斧。
【延長】の関係を考えれば、やはりいつも使っているのとさほど変わらない手斧を選ぶことになった。
まあ、いつものように二本もちとはいかないが。
二つで一つ判定の引きだからこそいつもは出来ているが普通の手斧は、それが出来ない。
これも【延長】によって指定できる対象が一つなことの弊害だ。
邪魔になるだろうし、隠して持ってきていた二本の斧は上着に包んで隅に置いておく。
まあ、怪しさはあるが、運動前に上着を脱ぐのは変なことではない。
俺は、位置につく。
目の前には、連戦だと言うのに未だに、息を切らすことのないチクヒさんが立っている。
ブザーが鳴り同時に動いた。
彼女も俺がそれなりにできることは分かるのだろう。
俺は、初手から【延長】を使うことなく接近する。
相手が本気を出しているのかは定かではないが、俺の方が早い。
勿論、俺だって本気ではないが。
まあ、とにかく先手を取ったのは俺だった。
そして、懐に入った俺は斧を振って攻撃をした。
だが、案の定、今までの受験者の攻撃をすべて躱してきた人相手にこの程度で手傷を追わせることは出来ない。
だから、二撃目を入れるときに【延長】を発動する。
ほんの少し伸びた程度、子供だましにもならないその攻撃は、相手にリーチを誤認させる。
「──っ!?」
「チッ」
だが、驚かせることが精々で、浅い傷を与えるだけに終わった。
それに、やる気を出させてしまったようだ。
「ふふ。強いですね。では、こちらも本気で行きますよっ!!」
「くっ!?」
チクヒさんは、そう言って俺に剣を叩きつけた。
先ほどまでの打ち込みとはわけが違う。
俺は、何とか受けきるが、少し後退する。
そのまま、攻撃に向かう前に【延長】で、短剣より長いかと言ったくらいまで、斧を伸ばす。
そして、地面を蹴った。
すでに、初見ではない【延長】をここで渋っても意味がない。
それなら、いつものように戦いやすくして、挑む方が確実だ。
何より、相手は格上ではない。
それを考えれば、奇をてらう必要は全くと言ってない。
一瞬、相手に攻勢に回られるも、一撃、一撃の、スピードをこちらから上げることで、相手にリズムを合わせさせる。
一気に優勢に出た。
さらに、速度を上げていく。
チュートリアルを経て、さらに、ダンジョンゲートを対処する俺にとって、チクヒさんは敵ではない。
単純な、力、速度では勝っている。
それを埋めているのは、技術であろうが、それだって、実践を経て成長している。
俺は、最後の一撃を強く当てて相手の持つ剣を遠くに飛ばした。
「俺の勝ちです」
「そうですね。さすが、会長直々に出迎えられたことはある」
仮発行のカードを提出しているのだ、白波瀬さんに直接対応してもらったことくらいは想像に難くないのだろう。
それとも、事前に俺のことを白波瀬さんが、伝えていたか。
まあ、どちらでもいいか。
とりあえず俺の勝ちだ。
「では、次の方」
俺が、元の場所に戻ると、休憩もなしに次の人を呼んだ。
凄いなと思う反面、これで負けたらどうすんだと思ったが、最後まで苦戦することなく試験は行われた。
最後に、
「結果は、御帰りの際に、受付にてお教えします。今日はお疲れさまでした」
そう言って終わった。
会場をでて受付に言って見ると、すぐに結果を教えてもらえたので凄いなと思いつつも、合格したことにほっとした。
二次試験の概要を聞いて、その日は帰宅した。
後で聞けば、一次はそうそう落ちない試験だったらしい。
というか、ほぼ、ギフトを本当にもらっているか確かめるための試験だったようだ。
ギフトを持っていなければ、スキルは使えないからな。
まあ、なくても滅茶苦茶強いなら通る可能性もあるとかなんとか。レベル自体はギフト関係なく上がるようだし。
でも、逆に、ギフトがあっても、相当向いていないと思われれば落ちるらしい。
そもそも、これも後から知るのだが、俺は免除されていたようだが、この試験の前に、座学試験があったりして、そこで勉強して試験を受ける過程で実態をしって自分に合っているかどうかを考えると言う。
だから、そう言った人がここまで来ることもそうはない様だ。




