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持田と近藤の異世界クエスト  作者: 大石次郎


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1/7

異世界転移とタコ焼き

俺は同級の男子2人と昼休みに机を寄せてダラダラとしていた。

机を寄せた俺の席が窓際だから、俺はぼんやりグラウンドを見ていた。体育部の昼練は禁止されてるからグラウンドでフットサル的なことをして騒いでるのは陽キャのヤツらだ。女子が緩めに応援してたりする。

どこからか吹奏楽部の練習の音もする。

一緒に机を寄せてる1人はやたら高そうなワイヤレスヘッドフォンをしてスマホで課金ゲームを黙々としている。ヘッドフォンには金を掛けても無課金勢らしい。

もう1人は五百円玉を指で弾いて回転させ、安定させることに熱中していた。


「ふぅ」


俺はため息をつき、改めてグラウンドの方をぼんやり見た。と、


「ん?」


フェンスの向こうの道を、ハロウィンの魔女の仮装のような格好をした子供が歩いていた。・・子供? ハロウィン??


「おい、あそこ」


俺は思わず連れ2人に呼び掛け、1人はヘッドフォンを外させ、もう1人は五百円玉もピシャンと机に押し付けて止めさせたが、もう1度フェンスの方を見ると誰もいなかった。


「なんだよ、持田(もちだ)?」


「巨乳の女子でもいたか?」


「あ~・・そう。あの特進コースの人、大きいよな。『近藤(こんどう)さん』だっけ?」


「何っ?」


「おおっ、確かに近藤さん!」


2人は窓際まで乗り出してきた。実際、グラウンド近くのベンチの桜の木陰で、同じ2年で特進コースのやっぱり近藤さんが本を読んでいた。

身長165センチメートルくらいで結構高いが、胸も噂では99センチメートルある。黒縁メガネに髪は三つ編みを左右にお下げにしていて地味だが、男子の間では微妙に有名人だった。

改めて見ると確かに厚み凄いっ。近藤さんのインパクトでハロウィンの子供の印象が飛んでしまった。

というかなんだ? 幻覚? なぜハロウィン??

ワケがわからなかったが、2人が近藤さんの胸に関してワーワー言ってる内に、当の近藤さんが視線に気付いて、ムッとした顔で本を閉じ立ち去ってしまった。

なんか、ごめんよ。近藤さん・・



放課後、俺はコンビニのバイトを終え、更衣室の丸椅子に座って同級生男子2人のDMを確認し、軽く返し、カラオケでミニ同窓会の話があった中学の友達と少しだけ電話をし、高校の制服に着替えると、


「お疲れっす」


と一声掛けて勝手口から出た。バイト代で買った防水バッチリの腕時計を見る。

シフトに変更があったからいつもより30分は遅い、午後8時45分過ぎ。

俺は今日、肌寒いからブレザーのジャケットの下に学校指定のキルトベスト着ればよかった。等と思いながら最寄りのバス停に向かったが、途中で立ち止まった。


「あ」


よく考えるとバスの時間もいつもと違う。俺はドーナツか、たこ焼きでも買って帰るか?

父は会社の健康診断で注意されたからドーナツは食べない。妹は部活でソフトボールやってるからドーナツの方が喜ぶだろう。母はどっちも少し摘まむ程度だろうけど、ドーナツは好みの物がないと機嫌が悪くなる。しかも日によって母の好みは変わる。


「・・たこ焼きだな」


無難にゆくぜっ。

店もある大通りの方に行き先を変更。こっちにはウチの高校からも通ってる人が多い予備校もあったな。俺も通った方がいいのかな? 帰宅部だし。でも受講料高いんだよなぁ。

等と考えてる内に迎えにきた保護者の車が周囲の路肩に目立つ予備校の前を過ぎかけると、予備校の自動ドアが開いて、近藤さんが小走りに出てきた。


「っ!」


「ども」


「はい・・」


気まずっ。認識されてる!『2階の教室から自分の乳を見ていた男子達の1人』として認識されてるリアクションだっ。


「俺、・・たこ焼き買いにゆくんで! バスの時間あるんでっ」


自分でなんだそりゃ、と内心ツッコミつつ、俺はそそくさとその場を立ち去りだしたが、なぜか近藤さんも早足で追い付いてきた。何?? 予備校内でも走ってたらしい近藤さんは少し息が上がっていた。


「なんでっ?」


「私もたこ焼き買いにゆくから! バスも乗るっ」


「そうなんだ・・」


ぐおっ、ミスった。ドーナツにしときゃよかったか? もう遅いっ。

というか近藤さんもバス乗るんだ? 同じ路線だよな? あのコンビニで8ヶ月はバイトしているが、全く気付かなかった。

いや、見掛けはしてたんだろうけど、今日2階から近藤さんだと認識するまで俺の中では『街の背景』だったんだろう。


「近藤さんも『たこ無双(むそう)』だよね?」


関西風のフワフワで有名だ。御当地活動系の動画投稿者に紹介されたこともある。

ただ、大通りの先にたこ焼きをテイクアウトで出してる店は他にも多かった。


「そうだけど? 私の名前、知ってた?」


どうせ乳の話してたんだよね? といった顔で見てくる近藤さんっ。実際そうだからいかんともし難い!


「まぁ、色々・・。俺は持田!『 持田心太(もちだしんた)』っ! 2年、文系の4組、帰宅部。向こうのコンビニでバイトしてる」


逆に自分の情報を開示してゆこうじゃないか!

困惑さんは少し面食らっていたが、応えてくれた。


「・・私は『近藤初子(こんどうはつこ)』。2年、理系の1組(理系の1組は特進)。演劇部」


演劇部なんだ。


「去年の文化祭とか演劇部の新歓(しんかん)の公演出てたっけ?」


「私は裏方。あがり症なのと、・・胸ばっかり見られるから!」


「ん~・・それはまぁ、うん。いや、うーん」


俺はよくわからない相槌を打つしかなかった。

俺はたまたまだが、なんで近藤さんが、こんな急いでたこ焼きを買おうとしているのか? 聞きたかったが、そこで会話が途切れてしまい、俺達は、競歩の試合? とツッコミたくなる勢いで、街灯の下、通りの先のたこ無双へと急いだ。

だが、横断歩道を渡った所で、ふと視界の端に違和感を感じ、振り向くと、左側の細道の先の横断歩道の無い交差点の向かって左手の横断歩道に、昼休みに見たハロウィンの子供を見付けた!

俺が横断歩道で立ち止まると、


「? 持田君? 信号変わる、けど?」


近藤さんを戸惑わせた。


「近藤さんアレ見えるよね? ハロウィンの子供・・」


「え? ・・あれ? ほんとだ。なんで霞んだんだろ??」


眼鏡を掛け直したりする近藤さんだったが、点滅した信号が警告音を鳴らしだした。俺は横断歩道を斜めに引き返し、ハロウィンの子供の方に進みだした。


「ちょっと、様子が変だから見てくる」


「どうしてっ? ただのコスプレじゃない?? ・・もうっ」


近藤さんもついてきてしまった。


「いいのに、バス間に合わなくなるよ?」


「別に、ただのダイエットチートデイだから」


なるほど。


「ダイエットしてたんだ」


「太り易いから」


「へぇ・・」


思わず迫力の胸に目がいくと、近藤さんに脇腹をつねられた!


「痛たたっ?」


「私の本体はオッパイじゃないっ!」


縁眼鏡越しに目が三角になっている近藤さんっ。


「ごめんてっ」


そんなことを言ってる内に、信号の無い、ハロウィンの子供以外は人気も無い交差点の横断歩道に近付いた。

ハロウィンの子供は俺達から見て、左車線になる横断歩道の真ん中に立って、道路の先をジッと見ていた。手にはやたらクオリティの高い魔法使い風の杖を持っている。

怪しいにも程があるっ。もう少し近付いたら声を掛けようと思っていると、その時!

道の先からトラックっ!!


「おいっ?!」


「嘘?!」


ハロウィンの子供は杖を手に何かブツブツ呟いて集中しているようだった。

子供等いないかのように減速しないトラック!!

俺と近藤さんは鞄を放り出し、夢中で「危ない!」とか「逃げて!」とか呼び掛けながら、走り込み、その子を掴んだっ。間に合う! 俺達は子供を抱えて歩道まで運ぼうとした。だがっ、


「リビノルエビィ」


その子が迷惑顔で聞き慣れない言語で呟くと、俺達2人の身体はその場で浮き上がってその子を掴んでられなくなった!

突っ込んでくるトラック!!

その子が杖を構えると、その子と俺達の前に複雑な紋様の円形の光の図形が出現し、そこへトラックが直撃しっ、激しい光が発生した!!

光が、全てを包み込込んだ。



鳥? の鳴き声、日差し、湿度、草木の匂い、発酵した土の臭い。草や苔? に触れる感覚・・


「はっ?!」


俺は気付き、身を起こした。


「森? というか・・??」


俺は森の中にいたが、様子がおかしいっ。木程の大きさのキノコや、奇妙な小型な獣、身体が淡く発光する昆虫? やたら動いている食虫植物?? 妙な生き物だらけだ!


「なんかの、テーマパーク? 仮想現実??」


一般人をターゲットにした悪ふざけ動画にしては金を掛け過ぎている気はした。

仮想現実の場合、トラックの事故で俺は深刻な怪我を負って試験的な脳医療を受けてる、みたいな??

いやっ、というか、いない! 近藤さんがいないっ! あのハロウィンの子供もっ。


「近藤さん?!」


「はい」


「え?」


呼び掛けた途端、返事があり、近藤さんが茂みの中からガサガサと出てきたっ。


「近藤さん? いたんだっ。俺だけかと思ったよ」


「うん、まぁ、ちょっと、・・トイレを」


赤面する近藤さん。


「あ、うん。それは・・人間だから」


「うん・・」


俺と近藤さんは気まずく暫く沈黙したが、こうしていてもなんともならないっ。俺達は協議を始めた。


「仮定その1、悪ふざけ動画。仮定その2、医療目的の仮想現実。仮定その3、ここはあの世。仮定その4、あの世じゃないが、ファンタジーな世界っ! このどれかだとは思うんだよな」


「1は一般人相手にここまでするかな? 2が一番ありそうだけど、トイレのことまで再現する必要あるかなぁ? 3と4はちょっと判断しようがないね」


「う~ん」


2人で困惑していると、


「?!」


俺は冷たい刃物に触れたような感覚を森の奥に感じた! それは地面を滑るように物凄い速さで迫ってくるっ!


「持田君?」


「近藤さんっ! 何か来るっ、なんかわかる!」


「わかるのっ?」


それは俺と近藤さんに対策する時間を与えず、目の前の地面の下に、いやっ、『地面その物』として現れ、見る間に歪にデフォルメされた土の巨人に変わった!!

土を固めたハンマーのような武器まで持っているっ。


「フゥシュシュシュッ!!!」


嗤う土の巨人! 自販機を3台、縦に重ねたくらいの背丈だっ。


「ええーーーっ??!!!」


2人で声が揃ってしまったっ。


「ゲームとかじゃ最初は小さい『スライム』とかだろっ?!」


「持田君! これ、マズいと思うっ。凄くマズいと思うっ!!」


2人であまりのことに棒立ちになっていると、


「フシュッ!!」


土の巨人は横薙ぎに土のハンマーで振るって、俺と近藤さんを纏めて始末に掛かった! だが・・見える! 見えてるっ!


(遅い??)


なんだ? 俺だけ? 周りの時間が全てゆっくりに見える! ゆっくりであっても土のハンマーは俺と近藤さんに迫ってくるっ!


(クソっ)


俺は減速した時間の中でどうにか動き、近藤さんを抱えると、その場をゆっくりゆっくり動いて離れた! やりっ切った、と振り返ったところで、時間が元の速さに戻り、空振りしたハンマーが周囲に土煙りと烈風を放ったっ。


「フシュッ?!」


「持田君?!」


「はぁはぁ、なんか、このゲーム? で使える能力みたいだ。すげえ疲れるけどっ」


「そうなんだ? ・・あ、でも私もなんかできるかも?! ちょっと降ろして」


「あ、ああ」


俺は土の巨人を警戒しながら、近藤さんを降ろした。巨人も俺の異様な動きに困惑して、警戒していたっ。


「実はさっきトイレしようとした時、なんか芋虫みたいな生き物に襲われて、私、思わず蹴っ飛ばしちゃったんだけど、その時凄いパワーで! その芋虫、吹っ飛んで、木にぶつかって壁に投げた水風船みたいに潰れちゃったんだっ」


「マジで?」


「うん、その時は火事場のバカ力的なもんかとも思ったけど、持田君に特別な力が使えるなら、私も、この世界なら凄いこと、できるかも?!」


近藤さんはへっぴり腰気味にファイティングポーズを取り、これに土の巨人も反応し、再び襲い掛かろうとしたがっ、


「えいっ!」


凄い勢いの突進とは裏腹に、へなちょこ気味に繰り出され近藤さんのパンチは土の巨人の胴体を丸ごとくり貫いて大穴を開けた!!!


「フシュゥウウッッ????」


土の巨人は力を失い、ただの土くれに変わって崩れ落ちていった!


「うぉーーっ?! 近藤さんっ!! 何それっ?!」


「わかんないっ、わかんないけど凄い漲ってるっ!!」


興奮した俺と近藤さんがワーワー騒いでいると、


「っ!」


敵意? の予兆も無く、俺達の目の前の中空に歪みが生じ、そこから件のハロウィンの子供が出てきた!


「あーっ! あの子だっ」


「君、大丈夫だった??」


「・・アリハナデ、モモイー」


ハロウィンの子供は唱えながらまた面倒そうな顔で杖を振るった!

同時に、光の輪が俺と近藤さんの頭を多い、俺達の脳に衝撃を与えたっ!


「おおおおおおおっっっ?????」


「あああああああっっっ?????」


光の輪はすぐ消え、衝撃も収まったが、


「おえーーーっっっ!!!!!」


俺達はあまりの衝撃にその場にリバースしてしまった。


「な、・・・何すんだよっ?」


「酷いっっ」


ハロウィンの子供はフンっ、と鼻で笑ってから、両手を腰に当てた。


「言葉は通じておるなっ? お前達の脳に、ワシらの世界、『アマラディア』の共通語をわからせた!!」


アマラディア? 共通語??


「ワシの名はナリ・アンテラっ!! このアマラディアで最も偉大な賢者なのじゃ! 加えてっ」


ナリ・アンテラと名乗った少女は自分の真横に光る円形の紋様を出現させ、そこから念力? で、たこ無双のパッケージを1つ取り出し、手に取ったっ。


「何っ?」


「たこ無双っ!」


ナリ・アンテラは杖を浮かせて宙にキープすると、得意気にふふん、と笑みを浮かべながら、パッケージを止めた輪ゴムで手の甲を弾かれて「イテっ」となったりしながら、パッケージを開け、最初から刺さってる爪楊枝で湯気の立つたこ焼きを1つ摘まみ、愛おしげにフーフーしてから口に入れた!


「ホフホフっ、・・あちあちっ、・・うんまーーーっ☆☆☆☆」


恍惚とその場で地団駄を踏んで悦ぶ少女ナリ・アンテラっ!!


「わかったか?! ワシはたこ焼きを愛し、たこ焼きに愛されし大賢者なのじゃっ!!!!」


ドーンっ、と爪楊枝でこちらを差してポーズを決めてくるナリ・アンテラ!


「・・・え~と」


「たこ焼き、好き、なのね」


俺と近藤さんはいよいよ途方に暮れるしかなかった。

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