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83話_サキュバスは徒然なるままに

街が平和になり数日後、チャミュはOLとして平日の仕事をこなしていた。


タイトなスカートに白いシャツ、首には紺色のリボン。最初は地上の世界を知るために始めた仕事だったが、今では色々と任されるようになっていた。


髪をバッサリと切ったことで周りからは失恋かとしつこく聞かれる有り様。全くの外れというわけでもないのだが、これなら切らない方が良かったのでは、ともちょっぴり思ったりする。


公園で一息。携帯を取り出す。待ち受けには、にこやかに笑うシオリの顔が写っていた。


「(いけないとは思うのだが……)」


ルキの真実を知った日を境に、彼を想っていた気持ちが爆発しそうになる日々を送っている。反動なのだろうか、それを抑えるためにシオリの待ち受けを見ることで気持ちを落ち着かせている。


「(いけないとはわかっているのだが……)」


待ち受けを見ては悶えるチャミュ。ずっと真実だと思っていたことが誰かによって捏造ねつぞうされたものだった。最早、自分でもどうしたらいいのかわからなくなっていた。


そこに、ネツキがお弁当を持ってやってきた。

チャミュと同じOL姿。はちきれんばかりのボディがタイトなスカートとシャツを着ることでより強調されている。


「難儀なことになっとるんやねぇ」


待ち受けを見て、ふぅとため息をつくネツキ。


「な、なな、なんだ、ネツキか!驚かせるな……」


「好きなら好きって言ったらええんやないの?」


「そ、そんなわけにはいかないだろ!!それに、私のこの気持ちは、シオリに対するものでは……」


「でも、抑えるのもしんどいんやろ?」


「それはそうなんだが…。私は彼らを応援したいんだ…この記憶は、それを忘れないために胸に刻み込んでおく」


「(この娘もなんだかんだで難儀な娘やねぇ)」


細い目をさらに細くしてチャミュを見つめるネツキ。


「…どうかしたか?」


「なぁんも。ほら、お姉さんとランチしよ」


ネツキはカラカラと笑いながら膝の上のお弁当箱を広げた。



◆◆◆◆◆



場所は代わってラムとカゲトラ、スカーレットの3人。気晴らしついでにショッピングモールで買い物ざんまいをしていた。ラムとスカーレットは服を見せあってはああでもないこうでもないと言い合う、そんな後ろでカゲトラは荷物持ちをしていた。既に大きな箱を3つ持たされ面倒になっている。


「ねぇねぇ!これなんてどう?」


「きゃーっ!可愛い!!これならシオリもイチコロねっ!!」


露出の多めなセクシーな服を手にとって体に合わせてみるスカーレット。


「こっちもいいんじゃない?」


「これもいいわねっ」


キャッキャッと楽しむ2人を眺めるカゲトラ。


「犬、どっちがいいと思う?」


「どっちでもいいんじゃないっすかねぇ」


正直、服の違いはよくわからない。このまま1日つきっきりになるのは勘弁してほしいなぁと思いながら、2人を見つめる。


「まったく、これだから犬は!」


適当な返答にご立腹なラム。


「ねぇねぇラム、これなんてどう?」


「ぶはっ!超過激じゃん!!」


ラムが持ってきた下着は紐を束ねてできたような下着でめちゃめちゃ際どいものだった。


「どう、犬くん。これラム着てたら興奮する?」


「ん~、」


と言いかけてラムが凄い勢いでこちらをにらんでいるのを感じ、


「主人はなんでも似合いますからね。興奮しまくりっすよ!」


話を合わせておこうと答えたら。


「……このド変態!!」


「犬くんもなかなかの変態だね~」


あれっ、褒めれば大丈夫と思ったのに結局怒られてしまった。一体どうすれば正解だったのか。


「そう言えばさ~、ラムはなんでシオリ達を助けてくれたわけ?」


「え~?なんでだろう」


「シオリの人柄っすね。なんか手伝いたくなったんすよね」


「人柄、かぁ」


「そうね、それはあるかも。あとはこの街にいられなくなるのも嫌だったし。わりと地上の生活、気に入ってるんだから」


「じゃあ平和になった記念で今日はパーッとやろう!!」


「いいね!!」


「(もうパーッとやってるんじゃないっすかね)」


「なんか言った、犬?」


「いえいえ、お供しますよーどこまでも」


荷物を抱えたまま、

ラム、スカーレットを追いかけるカゲトラ。


彼が解放されるのはまだしばらく後のことになりそうだ。



◆◆◆◆◆



喫茶らーぷらす、

ミュウは久しぶりにウエイトレスとしてお店に立っていた。ミュウが戻ってくるとだけあって常連達でごった返している。


「ミュウちゃんが戻ってきてくれてよかった…」


涙混じりに語る店のマスター源十郎。


「そんな、大げさなんだから」


「大げさではない!!我々は、ミュウちゃんが帰ってくるのを心待ちにしていた!!」


違う方から聞こえる常連の言葉。


「よっ!!よく言った!!」


他の常連達が威勢良く合いの手を入れる。余程うれしかったのか皆テンションが高い。


「(皆、私のことを待っていたのね)」


それは別に悪い気はしない。常連達は皆気さくで楽しい大人たちなのだ(見習っていいかどうかとなると、それは別の話になるが)。


ミュウコールが鳴り響く中、カランと扉が開き、大きな体をした男が入ってきた。


「あら、いらっしゃい」


ミュウの笑顔に、男は照れたような顔を一瞬見せるが、慌てて気を引き締め直す。


ミュウに促されてカウンターに座る。


「注文を、カ――」


「カフェモカだったわよね、それでいい?」


「あ、ああ」


ミュウが、いつも自分が頼んでいたものを覚えていたことに静かな感動に打ち震える。


「…それで頼む」


喜んでいることがバレないように、努めて冷静に振る舞う。


「なんだ兄ちゃん、今日はいつになく上機嫌だな!」


隣にいた常連がリーガロウに絡む。リーガロウも常連のひとりとしてすっかり周りに認識されていた。物静かな男、のかすかな喜びを常連は感じ取ったらしい。


「今日は、良いことがあった」


「そうか!そいつぁめでたいな!」


「あぁ、めでたい…」


ミュウが自分の注文を覚えていた感動を静かに噛み締める。通い詰めて良かった、リーガロウはそう思った。心なしかいつもより饒舌じょうぜつになっている。


「はい、カフェモカ」


ミュウが出来立てのカフェモカを置く。隣にはチーズケーキが。


「…これは?頼んではいないが」


「私からのお礼。姉様を助けるのに協力してくれたでしょ。店自慢のケーキだから、味わって食べてよね」


「…かたじけない」


あまりの嬉しさに自分の口調すら忘れてしまうリーガロウ。今日はなんて日だ。嬉しさのバロメーターが一気に突き抜けた瞬間だった。


注文を覚えていただけでなく、ケーキまで!!永久保存してずっと飾っておきたいくらいだ。


【ミュウがお礼としてくれたケーキ】として。


カフェモカを口にすると甘さが口いっぱいに広がる。カフェモカとはこんなに甘かったか。

リーガロウは地上に来て一番の春を堪能していたのであった。



◆◆◆◆◆



場所は代わって公園。


今日は久しぶりにソフィアと2人きりにさせてもらった。シェイドとアイシャ、フーマルは家で夕飯の準備をしている。


公園のベンチでゆっくりしている2人。

潤んだ目でこちらを見てくるソフィア。艶っぽい雰囲気が前にも増して出てきた気がする。


僕の肩に頭を乗せるソフィア。


「ソフィア?」


「ハズレ」


「リア?」


「そう…ソフィアは今寝てる」


紫色の瞳がこちらを見つめる。前のような攻撃的な意志はない。ゆったりと僕にくっついてくる。


「ルキの匂い、好き」


リアは僕のことをずっとルキと呼ぶ。もうルキではないのだが、あえて訂正することもやめた。リアが満足するまで呼べばいい。


クンクンと僕の匂いを嗅ぐリア。


「あんまりされると恥ずかしいな…」


「我慢。ルキを独り占めできるのもソフィアが寝たときだけだから。ソフィアが起きてるときは私が我慢」


肌と肌をこすりあう。ソフィアの柔らかな胸が体に密着する。


リアはまるで子供だ。スキンシップをねだる子供のように。ひとりずっと寂しさを抱えていたんだろうなと思う。


僕の服の中に手を入れ、胸の部分に手のひらを押し付ける。鼓動を聞くように耳を心臓に当てる。


「動いてる…」


「それは、心臓だからね」


「私も?」


「うん、そうだよ」


「やってみて」


手を引っ張られ、服の中に誘導される。


「えっ、いやこれは」


「いいから」


リアのおっぱいに手を当てて、心臓の音を確かめる。


手のひらに伝わる柔らかい感触と心臓の音。この心臓の音はリアの音なのか、自分の動揺している音なのかわからなくなる。


「眠くなってきた……」


突如目を閉じるリア。


「えっ、嘘!ちょっと待って!」


リアに呼びかけるが、反応がない。

再び目を開けた、緑色の瞳と目が合う。


その瞳は僕を見た後、僕の腕を見る。自分の衣服の中に潜りこんでいる両腕。


「…ソフィア?」


「シオリ、これは……?」


ソフィアの声色だ。顔を冷や汗が伝う。


「いや、あの…話せば長くなるんだけど…」


「……」


耳まで真っ赤にさせるソフィア。


「こ、これは、リアがね、心臓の音を聞いてって、」


慌てて手を離して弁解を図る。色んな苦難を乗り越えてきたとはいえ、これは色んな手順をすっ飛ばしてるよな。


「…嫌じゃないので…」


「えっ」


ソフィアの反応は意外なものだった。


「嫌じゃないので、大丈夫ですよ。ただ、この場所でってのはありますけど……」


「だ、だよね…」


怒ってはいない。信頼を寄せる瞳。易しく僕の手を握るソフィア。緊張しているのか、手が少し汗ばんでいる。


「シオリ、ありがとう。あのままだったら、きっと私は帰ってこれなかった…」


「ソフィア…」


瞳にうっすらと涙が浮かぶ。


「リアと一緒に暮らしていく生き方を探していきたいと思います。シオリ、これからも一緒にいてくれますか」


「うん、俺からもお願いするよ」


この子を守りたい。思う通りにならなくて苦しんできた彼女が心から笑顔でいられるように。僕の中で、強くなりたいと思う気持ちが強くなってきたのもこの時からだった。


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