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82話_後日談~新たな一日~

悪魔の塔の闘いは我写髑髏がしゃどくろを倒すことでその幕を下ろした。


我写髑髏が吸った魂は街にいる人たちの元にかえり、塔も再び魔界へと戻っていった。


街の人の記憶は、ソフィアとチャミュの力によって異変が起きたことを綺麗に消去された。塔が現れたことを覚えているのはごくわずかしかいない。




次の日の朝、僕は目が覚めて身体を起こす。


戦いの疲れからぐっすりと寝てしまった。昨日家に着いた後のことは一切覚えていない。

うつろな目をこすりながら、左手を支えに起きあがろうとすると、柔らかい何かの感触が手のひらに当たった。


ムニュッ。


手に吸い付くような優しい感触。


ムニュムニュ。


指を動かしてその感触を確かめる。

何か覚えがあるような……。


「うぅん…」


かすかに聞こえる声にビクッとして、恐る恐る左の方を見る。そこには下着姿で丸くなっているソフィアの姿があった。


「ソ、ソフィア!?」


僕のベッドに潜り込むことが今までなかっただけに驚きの声をあげる。


「ん…うぅん…」


ソフィアは可愛らしい声をあげながら、猫のように僕の膝の上に頭を乗せる。眠っているらしくこっちには気付いていないようだ。


どうしよう、起こすとパニックになるだろうし……でも、このままにするのも……。


すると、ソフィアは僕の肌の臭いを嗅ぐように鼻をらせると、お腹を胸へと上に移動してくる。時折擦れる鼻がくすぐったい。僕の目の前までソフィアの顔がくると、ソフィアの瞳がパチクリと開いた。


「……」


「………」


「や、やぁ、おはよう、ソフィア」


「………////!!?キャー!!!」


僕の顔と自分のあられもない姿を確認して叫び声をあげるソフィア。顔を真っ赤にして、タオルを全身に巻く。


「ど、どうしてシオリがベッドに…」


「どうしてって、ここ僕の部屋だから…」


「え……」


タオルから顔だけ出し、辺りを伺うソフィア。自分が部屋を間違えたことに気付き、顔を更に真っ赤にさせる。


「ご、ごめんなさい…シオリ…」


「ソフィアも疲れてたんだから、間違うのも仕方ないよ…。僕は先に下に行ってるから…」


前屈みになりながら、部屋を後にする僕。部屋からはソフィアのうわーんといううめき声が聞こえてきた。



◆◆◆◆◆



朝の食卓。


着替えを済ませてテーブルに座る。ほどなくして、ソフィアとシェイドも席に座った。ソフィアはずーっと顔を真っ赤にさせている。


あの件以来、変わったことがいくつかある。


ひとつは、アイシャが僕から独立して生活できるようになったこと。


どうやら僕の魔力値が増加したことが原因らしい。たまに戻って補給が必要のようだが、いつも一緒にいる必要はなくなったようだ。


もうひとつはソフィアの外見だ。


リアと精神を共有することになり、右目が緑、左目が紫色に変わっている。眼鏡も必要なくなり、ソフィアもまた魔力値が大幅に増大した。


今はもう、能力が暴走することはなくなったらしい。代わりにリアとの肉体を操る優劣が上手くついておらず、時折人が変わったように動くことがある(大抵は何かに興味を持ったリアのせいなのだが)。


髪の色もグレーと黒が混ざった髪の色になっていて、今は長い髪を後ろでまとめている。

最初に会った頃からすると、まさに別人と見間違えるだろう。


僕は用意した朝食を食べながら皆の顔を見る。何度かこういう光景は目にしているが、平和な食卓というものは、危機を乗り越えてから味わうと一層ありがたみを知るのであった。


「あ、あの、シオリ、今日は、その……」


「あ、あぁ、気にしないで…僕も寝ぼけててよく覚えてないから」


しどろもどろに会話する2人。


「なんだ、朝に何かあったのか?」


「え、いやぁ、まぁね…」


「久しぶりの再会もわかるが、程々にな」


「な、何もしてないって!!」


シェイドは悠然と味噌汁をすする。僕は必死に弁明するが聞く耳を持ってくれない。


「でも、ルキの匂い、凄く安心した…」


慌てて口を押さえるソフィア。確かに、ソフィアから声がした。


「ソフィア?」


「い、いえ、なんでもないです…」


「今、ルキって…」


「いえ、なにも…」


必死にごまかそうとするソフィア。でも、リアが喋ったことはバレバレだった。


「…リア?」


「なに?あっ……」


つい反応してしまって黙りこむ。


「……」


「………」


「リア、たまに出てきちゃうんです…」


恥ずかしうつむくソフィア。


「ちゃんと、そこにいるんだな」


僕は何故かホッとした。


「これからよろしくな」


リアに語りかける。


「……!?」


ソフィアの左目から、涙がこぼれる。


「あれ、変ですね…涙が……」


慌てて涙を拭うソフィア。


「ありがとう、シオリ……」


「お帰り、ソフィア」


涙を流すソフィアに、僕は優しく微笑んだ。



◆◆◆◆◆



その日の昼過ぎ、僕は1人公園へとやってきた。目の前には天使が立っている。


金髪をなびかせ、こちらを見るチャミュ。

申し訳無さそうに、うつむいたままこちらに体を向ける。


戦いの後、僕とソフィアはチャミュに過去に何が起きたかを話した。チャミュがルキを好きだったこと、ソフィアが死んだのはチャミュのせいではないことを。


だが、チャミュは無言だった。どうしたらいいのかわからない、そんな表情をしていた。


「チャミュ、どうしたんだ。急に呼び出して」


「……お別れを言いに、来たんだ」


チャミュはうつむいたまま言葉を発した。表情は暗く、どこか遠くを見つめている。


「気にしているのか、過去のことを」


「ソフィアのそばにいれば、また彼女を傷つけてしまうだろう…私は消せない過ちを犯した……」


「だが、それがなければ僕はここにはいない…」


僕はチャミュの顔を見つめる。


「僕がこの世にいられるのはルキが死んだからだ。だとしたら、罪は僕が背負わないといけない」


「そんなことはない!罰されるのは私なんだ……私がソフィアと出会わなければ……ソフィアが死ぬことはなかった…」


「それは、違うわ……」


「……ソフィア」


気付くと、すくそばにソフィアが来ていた。黒と白の4枚羽を羽ばたかせ、ゆっくりと地面に着地する。


「あれは誰かが仕組んだ罠だった。チャミュはそれに利用されただけ」


「だが、私がそもそも落ちてこなければ……」


ソフィアはチャミュの近くに来ると優しく手を握る。


「あなたが来なければ、私はずっと閉じこめられたままだった…素敵な気持ちも知ることが出来た…それは同時にあなたを苦しめることになってしまつたけど…」


「………」


「私は後悔していないから……今まで、私を助けてくれてありがとう…」


ソフィアの右目から、大粒の涙がこぼれる。


「ソフィア?……ソフィアリアなのか?」


ソフィアを見つめるチャミュ。


ソフィアは涙を流したまま、ニッコリと笑う。

そのまま、気を失ったかのようにその場に倒れるソフィア。僕とチャミュは慌ててソフィアを抱き抱える。


安らかな寝息を立てるソフィア。


「私は…許されたのか……」


ソフィアの顔に、チャミュの涙が滴り落ちる。


「チャミュ……」


「…シオリ、私は真実を知りたい。これを仕組んだ犯人を……」


「あぁ、そうだな…」


転生した僕とソフィアを引き合わせた人物がいる。何かの意図を持って。


「見つけよう、僕も知りたい。何故こんなまわりくどいことをするのか。直接会って聞かないと」


「私は、これからその手掛かりを探したいと思う。今までのようには行かないかもしれないが、ソフィアとシオリ、2人を守ることは約束する」


「無理はするなよ」


差し出されたチャミュの手を握る。


「シオリ、ありがとう」


「こちらこそ」


僕達は、ようやくスタートラインに立てた。そんな気がしたんだ。


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