81話_サキュバスと天使と髑髏《ドクロ》
悪魔の塔、最上階―――。
魂を吸い寄せ暴走する我写髑髏。
その動きが突如弱まった。
先ほどまでミュウ達を圧倒していたリアの動きに変化が現れる。
「リアの動き、鈍くなってるわね」
「シオリが上手くやったか」
抱えているシオリを見るシェイド。
「う…うぅ…」
「シオリ!!戻ったか!!」
「シオリが戻ったの!?」
「あぁ、シオリは無事だ!!」
「ってことは、姉様!!」
ミュウはリアの方を見る。
リアは頭を抱えながら、地面へとゆっくり降りていく。姿形はそのままだが、髪がグレーに、目の色が緑に変化していく。
「姉様、戻ったのね!!」
「……ミュウ、来てくれたのね。ありがとう……」
ソフィアの返答にミュウの目から涙がこぼれる。
「姉様、良かった…」
「ミュウ、あれをなんとかしましょう」
ソフィアは身体を起こすと、片手に装飾がついた剣を取り出す。白銀に輝く剣はミュウにも見たことのない剣だった。
「我写髑髏の暴走を止めて吸われた魂を元に戻さないと」
「急がないとダメなようね」
ミュウも両手に薔薇の剣を構える。翼を生やした2人は、空を飛び我写髑髏の腕を1本ずつ切り落とした。
ズシャァアアアッツ!!!
「グォォォオオ!!」
叫び声とともに我写髑髏の腕が音を立てて落ちていく。
「やるぅ!!」
「息ピッタリじゃない!!」
攻撃を避けながら、2人のコンビネーションを見守るカゲトラとラム。
「ふん、結局戻ってきたのね」
スカーレットは不満そうに鎌を持ち直す。
腕を落とされた我写髑髏は、上を見上げると上空に大きな闇の玉をつくり出す。玉は徐々に大きくなり、最上階を覆うほどに肥大していく。傍目から見ても、街をすべて覆いつくような禍々《まがまが》しさだった。
「この大きさは……」
「流石にマズいぞ……」
今までとは比べものにならないエネルギーの塊。魂と組み合わさったそれは、禍々しさを帯びながら次第に大きくなっていく。
髑髏は巨大な闇の玉を街に向かって振り下ろす。
ゆっくりと待ちに向かって落ちていく球場の物体。まわりの物を破壊しながら落下していく。
「このままじゃ街が!!」
「しまった!!街までの防衛は手が回らない…!!」
皆が唖然とする中、ソフィアは躊躇なく闇の玉へ向かって行く。
「姉様!!」
「ぐっ…うぅ…!!」
手でバリアをつくりながら、闇の玉を押し返そうとするソフィア。衣服が裂けながらも懸命に力を入れる。
「姉様!!1人でなんて無茶よ!!」
ミュウもソフィアの隣につけ、玉を押し返そうと力を込める。
「く、うぅ……!!」
圧倒的なエネルギー量に苦悶の表情を浮かべるミュウ。
「ミュウ…無理しないで……」
「ここで無理しないで、いつ無理するというの……」
ビシッ
肌の表面が避け、血が滴りだす。
「帰って、シオリと紅茶でも飲みましょう」
ミュウは無理矢理笑って見せる。それを見てソフィアも笑顔をつくる。
「俺も!!」
「任せっぱなしは悪いわよね!!」
「ほな、ウチもやらんとね」
「ここが力の使いどころだ」
カゲトラ、ラム、ネツキ、リーガロウも加勢に加わる。
「ホント、迷惑よね…」
「姉さん………」
遅れてスカーレットもやってくる。
スカーレットはそっぽを向いたまま、玉を押し返すために両手を掲げた。
「ぐぐ…かなり、きつい……」
「6人がかりでも無理か……」
「諦めないで……私たちが諦めたら…街が…」
精一杯、力の限りに抵抗する6人。
「シェイド、このままじゃ皆が」
「なんとかしたいが、空を飛べない以上どうしようもない…」
「ソフィア…頑張ってくれ…」
僕は戻ってきた反動で上手く身体を動かせないでいた。もどかしい気持ちでそれを見つめる。6人が懸命に押すが、玉はじりじりと落下を続けていく。
「くっそー!!!止まらねえ!!」
「犬、しっかりしなさい!!私たちしかいないのよ!!」
「わかってるっすよ!!」
叫ぶカゲトラとラム。
そこに、ソフィアの隣にもう1人玉を押す者が現れた。
「…チャミュ!?」
「……遅れてしまった。すまない」
ソフィアには目を合わせず、玉を見ながら喋るチャミュ。
「ううん、来てくれてありがとう」
「こいつが落ちたら街は壊滅だ。なんとしても防がなければ」
7人になり、玉の落下は遅くなるがそれでも押し返すまでには至らない。
「あとひとつ、パワーが足りない…」
「強力な一撃さえあれば…」
そこに、シェイドの電話が突然鳴りだす。シェイドは着信の相手を確認すると、電話をとった。
「考えてくれたかい?」
「1度だけだ」
受話器から聞こえてくる男の声。それを聞いてシェイドはニッと笑う。
「十分だ」
「約束は果たせ」
ブツッ。それだけを言って切れる電話。
「誰だったんだ、今のは?」
「じきにわかるよ」
シェイドは携帯を手に7人が必死に押す方向を見た。
◆◆◆◆◆
街の10階建てのマンション―――。
その屋上に電話をかけた人物はいた。髪を無造作になびかせ、半袖のシャツをはだけさせている。ズボンにサンダルと随分ラフな格好だ。
男は不機嫌そうに携帯をクラシックスタイルのメイドの女性に投げつけると、自分は椅子へと腰掛けた。
「よろしかったのですか?」
「構わん。やれ、ネリアーチェ」
メイド、ネリアーチェは遙か向こうに見える巨大な球体に向けて斜めに立ち、弓を取り出して足を広げる。
「では、数を」
「3だ」
男は片手で真っ赤な雷撃の走る球体を3つつくると、ネリアーチェに向かって投げ飛ばす。
ネリアーチェはそれを手に取った矢の先に取り付けると、玉に向かって放った。
3本の矢が超弩級の球体に変貌し、闇の玉に強烈な一撃を喰らわせる。
ズシィィィィィン!!!
「うおぉっ!!」
激しい衝撃に驚く7人。
「これって……」
「この技、知ってるわよ」
思わぬ攻撃に驚くカゲトラとラム。
「今ので、闇の玉の勢いが弱まったみたいね!!やりましょう、姉様!!」
「ええ!!これで終わらせます!!」
ソフィアは大きく深呼吸すると、翼をもう一段大きくさせる。悪魔の翼の下に、天使の翼が生え4枚羽根となる。
「姉様、その姿……」
「私はもう逃げない…過去からも、自分の姿からも…今が私の全て。この力で、街を守ってみせる…皆、力を貸してください!!」
ソフィアの言葉をきっかけに、もう一度力をこめる7人。
「うぉぉぉお!!!」
掛け声とともに押し返されていく闇の球体。
「やった!!押し返した!!」
「これでおしまいにしましょう」
ソフィアは剣を取り出すと、呪文を詠唱する。
「天と魔の狭間にて、双曲なる奇跡を描かん天魔・極光!!」
弧を描いた二筋の斬撃は闇の玉を切り裂いた。
弾け飛び、元の場所へと戻っていく魂。
「やったな、皆!!」
「あとは、本体のみか」
「こっちは僕たちの番みたいだな」
僕は立ち上がると、パシっと手を叩く。
「シオリ、実はなんだが」
「どうした?」
「創造主に頼んで、また主護天使としての力を戻してもらった」
シェイドは僕の方を見てニヤリと笑う。
「それって」
「あぁ、こういうことだ」
シェイドは自分が入っていた天器から意識を取り外すと僕の中へと入ってくる。
久しぶりの感覚。自分以外が心の中にいる感覚。
「よし、これで終わりにしよう」
「あぁ、行こう」
僕はシェイドに意識を合わせる。
我写髑髏に向かって走り出し、残った腕で攻撃する髑髏の攻撃を軽やかにかわしていく。全ての腕をかわし終え、髑髏の頭上へ跳ぶと拳に溜めた強烈な一撃を叩き込んだ。
「これで、終わりだぁぁぁぁああああ!!!」
ズドォォォォン!!!
骨が粉々に砕けていく。
バキバキバキ!!!
凄まじい音を立てて壊れていく我写髑髏。
ズズ、ズズズ……。
腕が体から離れ、ボロボロと崩壊をしていく。
「流石だな、わが主よ」
「シェイドだからだよ」
2人は1つの体で同じように笑った。




