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22話_サキュバスと鋼鉄のロリコン

ある日の夕方、学校からまっすぐ帰ってソフィアと夕飯を食べているとチャミュが家を訪れた。


「食事をしているところ悪いね。2人に知らせておきたいことがあって」


「なにかあったのか?」


「あぁ、天帝の息のかかった者が続々とこの街に現れているらしい。彼らの狙いはもちろんソフィアだ。外を出る際には十分注意してくれ」


「わかった。にしても、天帝はどうしてそこまでソフィアを狙うんだ?」


「前にも言っただろう、天帝は他とは違う天使を自分の元に集めたがるんだ。希少性が高いものに価値があると信じている天使だからね」


「なるほどね」


「一度欲しいとなると執着が凄い方だからな。どうにかして解決する方法を探らないと」


「それなんだけどさ。ソフィアとも話をしたんだけど、天帝と話し合うことってできないのかな」


「シオリ、それは無理な話だ。天帝は言わば子供が権力を使って駄々をこねているようなものだからね。聞く耳をもたないだろう」


「にしたってこのままじゃソフィアも安心して暮らせないし。僕たちの生活の邪魔はしないって約束させないと」


「まぁ、ソフィアをさらうようなことだけはやめるようにさせなければならないな。それが多少荒っぽいことになったとしても」


「できれば争いごとはなくすませたいですが……」


心配そうな顔をするソフィア。


「そうだね、ソフィアを荒っぽいことに巻き込みたくはない」


「天帝に直談判する方向は、なにかしら検討しておく。もしかしたら天界に行く必要も出てくるかもしれない」


「僕も必要な時には声をかけてくれ」


「そう言ってもらえると助かるよ」


「シオリ、天帝にソフィアは自分のものだと宣言してはどうだ」


「シェイド!!?」


話を聞いていたシェイドが突如口を開く。

こいつは突拍子もないことを喋り出すから心臓に悪い。


「そんなこと言っても、逆に神経を逆なでしちゃうんじゃないか。それに、ソフィアをもの扱いするのは、それこそ天帝と同じになるから好きじゃないな」


「何故だ、自分の所有物であると宣言するのはとても大事なことだ」


「こういうのはね、デリケートな話なんだよ。。」


「(所有したい欲があることは否定していない)」


優しく諭すようにシェイドに語りかける。合理主義というか、どちらかというと天帝側の意見に近いんじゃないかと思う。


ソフィアは顔を真っ赤にしながら、照れるのをごまかすように食卓の後片付けを始める。


「シェイドと言ったか、まぁそういう面も一理あるかもしれない。ただ天帝はそれで引き下がる天使ではないからな。しつこい相手を諦めさせる手を考えないといけない」


「何かと面倒なのだな」


「そういうこと」


「また新しい情報を手に入れたら来ることにするよ。それじゃあまた」


「わかった、チャミュも気をつけてな」


僕とソフィアはチャミュを見送るとリビングに戻った。


「天帝か、どんな人物なんだろう。ソフィアは会ったことあるの?」


「はい…。自己中心的な方で、私は好きな方ではないです」


「そうなんだ、それこそソフィアの能力の影響とかで?」


「天帝には私の魅了が効かなかったみたいです。ですが、魅了にかかった方と行動はあまり変わらなくて……」


「元からそんな感じなのはやばいな……」


「近くに置いた天使には厚遇すると聞いています。なので、まわりから慕われる面もあるかと思うのですが、私は自由に恋愛をしてみたかったので…。向こうから一方的にというのは…」


「まぁ、そうだよね。好きな人は自分で決めたいよね」


「はい…。シオリもそうですか?」


「それはそうだね」


そう言ってソフィアの方を見たときに一瞬目が合う。気恥ずかしさに視線をそらす2人。


「と、とにかく、ソフィアがこっちの世界で楽しく過ごせるようになんとかするからさ」


「あ、ありがとう、シオリ。シオリといると、なぜか心が穏やかになれます」


ゆっくり視線を戻していく僕とソフィア。

ソフィアの瞳が潤んでいるのがわかる。


徐々にソフィアとの距離を縮めていく。

その時、


「やはり、早く自分の所有物であることを天帝に宣言することを提案する」


「シェイド!!」


様子を見ていた空気を読まないシェイドの言葉に僕とソフィアは2人合わせて叫んだ。



◆◆◆◆◆



翌日、学校の授業も終わり帰る支度をしていると伊達がやってきた。


「よおシオリ、帰りにクレープでも食べて帰らないか。最近屋台で美味いクレープ屋を見つけたんだ」


見かけに寄らず、甘いものが好きな伊達。


人を見た目で判断するのはいけないが、こいつは醤油とかしょっぱいものが好きそうな感じなんだよな、と勝手に思っている。実態は真逆なわけだが。


「いいね、行こうか」


その日は特に用事もなかったので伊達に付き合うことにする。


可愛らしいワゴンタイプのピンクの車が公園に停めてある。いたるところがハートでデコレーションされており、いかにも女性が好きそうなラブリーな雰囲気を醸し出している。


「これまた結構なデザインだな」


「だろう。これが食べてみるとびっくり、美味しいんだな」


そう言って伊達は店員にチョコバナナホイップクリームを注文する。ガッツリ甘いやつだ。

この店構えでも臆さず注文できるのは凄いと思う。


僕は別に甘いものを食べたい気分でもなかったのでツナサラダを注文した。クレープ生地とツナの取り合わせは他では味わえないのでなかなか興味深い。


「確かに、美味しいな」


「いや、確かに美味いんだろうけどせっかくなら甘いのを食べろよ」


「いや、今甘いのを食べたい気分じゃなかったからさ」


「誘いがいのない奴だなぁ」


伊達は呆れながらクレープを頬張る。

嬉しそうにクレープを食べるその姿は完全に女子だ。伊達だが。


「お前、ソフィアちゃんとはどうなんだよ」


「いきなりなんだよ」


唐突な伊達の質問に持っていたクレープを落としそうになる。


「そりゃあんだけ可愛い子と一緒に暮らしてるって聞いたら気にならないわけないだろう。

で。どこまでいったんだ?」


「な、なにもないよ」


まぁ、伊達が期待しているようなことはなにもしていないから、ないと言っておく。


「んなわけあるか!!男やろ!!なんもないわけないやろ!!」


「伊達、口調変わってる……」


取り乱す伊達を落ち着かせる。


「ったく、ボヤボヤしてると誰かに奪われるかもしれないぞ。あんだけ可愛いんだから」


「大丈夫だって」


そう言いつつ、天帝がソフィアを狙っていることを思い出し一抹の不安がよぎる。

大丈夫、だよな…?


「どうかしたか?」


「いや、なんでもないよ」


「好きだったらちゃんと言わないと伝わらないぞ」


「そ、そう言うお前はどうなんだよ!」


「僕か、僕はそういうのいいからさ」


そう言って伊達ははぐらかす。伊達には学校で気になる子とかいないのだろうか。


「さて、そろそろ帰るとするか」


僕と伊達は公園の出口まで歩いていく。


「じゃあまたな」


「ああ、学校で」


伊達と別れて少し歩く。


すると、


「シオリ、前方に不審者だ。こっちをずっと見ている」


「えっ」


言われて足を止める。


「人間のエネルギーではない。おそらく天帝の使いだ。それも大きいものだ」


「どうすればいい」


「まずはチャミュとミュウを呼んでおいた方がいいだろう」


「そ、そうだな…」


そう言って携帯を取り出す。しかし、圏外マークになっていて通話することができない。

「どうして、ここ街のすぐ近くだぞ?」


「結界だな。邪魔が入らないように隔離されている。ターゲットは完全に私たちらしい」


「マジかよ……」


気付かないうちに敵に狙いを定められていたことを知り、焦る。

ダメ元でミュウからもらったホイッスルのようなものを吹いてみることにする。


「スーッ」


空気の流れる音はするのだが、肝心の音が聞こえない。僕の吹き方が下手なのか?

何回やっても音が出ない。


「音出ない……」


「遊ばれたようだな」


「そんなー!!!」


シェイドの無慈悲な返答。

僕の悲痛な叫びとは裏腹に、事態は更に悪化していく。


白い軍服のような制服にマントを羽織った大柄の男が、ゆっくりとこちらに歩いてくる。


静かな威圧を放っているのが、この距離でもわかる。

金色の短髪に海外の俳優のような端正な顔立ち、これは見るからに強そうな男が現れた。


「結構やばいんじゃないか…」


「見るからに手ごわそうだな。逃げることを提案する」


その場を離れようと足を動かそうとするが、地面に張り付いたようにまったく動かない。


「な、なんだこれ……か、身体が重い……」


「重力を制御されているようだ。私たちにとてつもない重圧がかかっている」


男が近づくたびに重圧はさらに増していき、僕は地面にひざをついた。男は近くまでくると僕を見下ろし、口を開いた。


「私の名は天帝直属天士長リーガロウ」


「…天帝直属?」


「そうだ、天帝の命でサキュバス天使を迎えに来た。そのためにはお前が有用と情報を得ている」


そう言うと、リーガロウは僕の胸ぐらを掴み軽々と持ち上げる。


「こんな男が本当に必要なのか?何か特別なものは感じないが」


「随分な言い草だな……」


体は依然として重く、指先一つ動かすことが出来ない。


「己の運の悪さを呪うんだな」


リーガロウはもう片方の手から球体の宝石のようなものを取り出すと僕に近づけてくる。


石はまばゆい光を放つ。

まるで吸い込まれそうな感覚を覚える。


「シオリよ、これは危機だ。捕縛石に閉じ込められてしまう」


「逃げようにも身動きが……」


宝石が体に触れようとしたその時、


ヒュッ!!


黒い薔薇をかたどった剣が僕を掴んでいるリーガロウの手に飛んでくる。


すんでのところで剣を弾くリーガロウ。その影響で僕は掴まれていた状況から

放される。


「…誰だ?」


剣が飛んできた方向を向くリーガロウ。


「まったく、買い物の途中だったのだけれど」


ウエイトレスの服を着た女性は、落ちた剣を吸い寄せるとピッと剣を振り直す。


「シオリ」


「ミュウ!!」


そこには不満そうな顔をしてミュウが立っていた。


「吹くのは1回で十分よ。何回もいらないわ」


ミュウはゆっくり歩きながら僕の方に近付いてくる。


「ちゃんと聞こえてたんだな。音がならないのかと思ったよ」


「私にしか感知できないようにしているのよ。…それで、天帝の使いがシオリに何の用なのかしら?」


ミュウは黒薔薇の剣を持ち直すと、リーガロウに剣を向けた。


ハッとした表情でミュウのことを見つめているリーガロウ。


「なにやら衝撃を受けているように見える。シオリ、こちらの重圧が解除された」


シェイドの声で、立ち上がる僕。


「むっ!そうはさせん」


リーガロウは僕が動いたのに気付くと再び重圧をかけてくる。一気に重さが乗っかったせいで地面にへばりつく形になる僕。


「うぐぐ……重い……」


「ちょっと、どうして私を無視するのよ」


怒ったような口調のミュウが、僕とリーガロウの間に割って入る。


「ミュウ、危ない。逃げるんだ」


見上げると、ミュウが丁度僕の前にいるような形になる。スカートの空間は真っ暗になっていて何も見えない。


「何言ってるのよ。あなたが助けを呼んだんでしょ。で、なんでさっきから黙ったまま

なのかしら」


「ぐ……」


詰め寄るミュウに後ずさりを始めるリーガロウ。


「なぁ、シェイド…」


「彼の顔が随分と赤い」


「そう思うよな…」


リーガロウは何にうろたえているのだろうか。それに、どうやらミュウには重圧がかかっていないらしい。


「ねぇ、聞いてるの?」


更に詰め寄るミュウ。リーガロウの顔がもっと赤くなる。


「シェイド、まさかとは思うが……」


「ロリータコンプレックス、俗にいうロリコンというやつだな」


明らかにミュウがきてからリーガロウがうろたえている。


リーガロウの頭の中では、ミュウを初めて見た衝撃が頭を離れないでいた。


幼い顔立ちに似合わずきつめの口調。すらっとした体に上品なウエイトレス服。

自分にとって好ましい対象が目の前に現れたことで、迷いが生じてしまっていた。


「な、名は…」


「はい?」


「名はなんという」


「ミュウよ。そんなあなたは誰かしら」


「私は天帝直属天士長リーガロウだ」


「やっぱり天帝の使いだったのね。シオリを人質にでもとるつもりだったのかしら」


ミュウは白い薔薇の剣を取り出すと、地面に倒れている僕を後ろ手に切りつけた。


緑色の斬撃が走り、僕の体が軽くなる。


「おっ、動ける。ってあれ、真っ暗だ」


「重圧を斬ったわ…って何をしているのかしら」


ミュウが重圧を解除してくれた反動で起きあがろうとするが、丁度スカートの中にもぐりこんでしまった。


ミュウの柔らかいお尻が顔にぷにょんと当たる。それにクレープより甘い匂いが鼻に残る。


「わっと、ごめん!」


「そんなに私に興味あったのかしら?」


ミュウの少し嬉しそうな声が聞こえる。


「間違っただけだって!」


ミュウのスカートの中から慌てて、起きあがる。


「貴様、なんという恥知らずなことを…!」


僕の行動に怒りを示すリーガロウ。やけに怒っているな。たしかにHなことに対して耐性はなさそうではあるが。


「シオリ、私のお尻に触れておいて何か言うことはないの?」


「だから、ごめんって」


「そうじゃないわ」


ミュウは不満そうに僕に近付くと、耳元で囁く。


「前に比べて肉付きが良くなったね、とか。下着がシルク生地のものになったんだねとか」


「前と比べてとかわかんないよ!それに僕そんなこと言ったことないし!」


「あら、心外ね。もっと私の変化に敏感にならないと」


「そう言ったってなぁ」


「シオリ、敵の精神に揺らぎを感じる。どうやらダメージを受けているらしい」


僕とミュウのやりとりでリーガロウがダメージを受けているらしかった。


たしかに、なにか僕に対しての敵意が増しているような気がする。


「リーガロウって言ったっけ。まだ僕を捕まえる気なのか?」


「無論だ。それが私の任務だからな」


「それは私がさせないわ」


ミュウが黒薔薇の剣から花びらの竜巻を起こすと、リーガロウを囲む。


「くっ…」


「これまたあっさりと…」


「ロリコン恐るべし」


ミュウに対して露骨に弱くなっているリーガロウ。このままミュウにお願いして退場してもらうのが良さそうだ。


「ミュウ、頼む」


「しょうがないわね。薔薇の暴風ローゼシュトゥルムビント!!」


ミュウの掛け声とともにリーガロウとともに薔薇が巻き上がっていく。


「うわぁぁぁぁ!!」


吹き飛ぶリーガロウ。まわりの景色も、元の景色に戻っていく。


「今ので結界が解除されたようだな」


「案外あっけなかったわね」


「ここまで露骨に弱点だとね…」


「クソッ、今回は出直す。だが、覚えておくがいい。貴様の命は常に狙われていると」


リーガロウはそう言うとあっという間に消えていってしまった。


残される僕とミュウ。


「ありがとうミュウ、助かったよ」


「そうね……なにかご褒美が欲しいわね」


思案を始めるミュウ。ただならぬ面倒な展開を感じる…。


「キスを」


「却下」


即答で返す。ソフィアともしたことがないのに、できるわけがない。


「甘いわよ?」


「そういう問題じゃない!」


「じゃあ、今晩私の隣にいてくれないかしら」


「って言うと、一緒に寝るってこと?」


「そう」


「それは……」


「シオリ、ここは条件を飲むことを提案する」


「あら、飾りもたまにはいいことを言うじゃない」


「(シェイド)」


「(まぁ聞くといい。このまま断り続けても条件は難しくなるだけだ。寝るだけであれば私が監視しておく。そうすればこの娘も下手なことはできないだろう)」


「(…わかったよ)」


「ミュウ、わかった。それでいこう」


「あら、意外にすんなり決まったわね。いいわ、もしそれがダメだったら私の体の弱いところを触りながらじっくり覚えてもらうつもりだったのだけれど」


「もっとダメだよ!じゃあ、帰ろうか。買い物の途中だったんだろ?一緒に行くよ」


ミュウと僕はスーパーで買い物を済ませると、喫茶ら+(ぷらす)に向かった。


にしても、天帝の使いって外見まともそうに見えてクセのある人ばっかりだな……。天帝に対する印象がまたひとつ変わっていくのであった。

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