94.ビーランド王国王都ガザフ
よろしくお願いします。
「おー、久しぶりってなんだこりゃ?」
眼下に広がる景色に、俺はしばし呆然となる。
小高い丘に転移した俺たちの目の前には、小さな街とまっすぐに伸びた道の先に小さな城が見える。
辺境の砦と同じくらいの規模だ。
自国と比較して寂れた様子に、首をかしげるしかない。
「ここは本当にビーランド王国なのか?」
「オレは半年くらい前に、ここに来たからそんなに変わっていないぞ?」
「いや、俺が記憶していた城と位置も変わっているようだが?」
丘からいえば、左手奥のほうに城が位置していたはずだ。
今は一番右端の奥と随分と離れた場所にある。
「それは僕が居座っていたので、場所を新たに立て替えたと言ってました」
「お前のせいか?!」
肩に乗ったグラドを見やれば、彼は悪びれもせず羽をゆっくりと開く。
「羽を動かすだけで城の壁やら天井が壊れてしまうので、いっそ立て直したほうがいいと判断したようです」
「お前がさっさと主を追いかけていればよかったんじゃないか」
「うるさいぞ、小娘。僕に偉そうに指図するな」
「俺の肩に乗ったままケンカするな、うるさい」
「スミマセン、主さま」
ぺこりぺこりと頭を下げる青灰竜は威厳も何もあったものではない。
「しかし、これじゃあフェーレン市街よりも田舎に見えるぞ。昔はもう少し賑わっていたんだがな」
「ドラゴンが近くにいるってことで、人の足が遠のいたらしい。王都の移転計画も出たようだが、立ち消えたようだ。オレには関係ないから詳しくは知らないな」
「そうか。ごめんな、マヤ。お前の好きな食べ物でもあればいいと思ったんだが」
「ううん、クロと一緒ならどこだって楽しいから大丈夫!」
銀色のしっぽを揺らしながら、マヤが嬉しそうに笑う。
俺の右腕にしがみついているので、必然的に開いたほうの左手でわしゃわしゃと小さな頭を撫でる。
可愛い。
もうほんと、かわいいからっ。
「とにかく俺たちは王都でもぶらついてるから、ネロは用事を済ませてこい」
「わかった」
アリッサにグラド討伐の書類を作成してもらった俺たちは、昼寝の後にビーランド王国へと転移した。
別にネロ一人が行って戻ってくるのを待ってもよかったのだが、ついでにマヤにも他国を見せてやりたいと思ってこうして連れてきたのだ。
丘を駆け下りていくネロを見送って俺たちはのんびりと王都へと向かう。
薄い桃色のワンピースを着たマヤはせわしなく耳を動かして、様子を窺っている。
近づいてくる街の茶色の建物を指して、説明をする。
「フェーレンとはまた違った建物だろう? ビーランド王国は大陸の南に位置するから暖かいしな。その代わり日差しが強いからあんまり暑いところにいると辛くなる」
「ふうん」
深淵の大森林もフェーレン市も北部に位置するので、こうも気温が高いと馴染むのに苦労する。
あらかじめわかっていたので、魔法で対策はしているからマヤも平気な顔をしているが。
日よけのマントや帽子をかぶらないと肌が焼けてあとでひどい目にあうことになる。
特にマヤの白い肌などすぐに真っ赤になってしまうだろう。
王都を囲む門まで来て、短い列に並んだ。
やはりあまり人の出入りは少ないらしい。
すぐに順番が来たので、首から下げた冒険者プレートを示すと、門番は肩に乗ったグラドと横にいるマヤを見た。
「テイムした魔物だ」
「魔獣使いか?」
俺は軽く肩を竦めるだけにとどめた。あとは相手が適当に解釈してくれる。
「ガンダル王国フェーレン市の冒険者ギルド所属、ランクAの冒険者クロ・ベンガル」
所属はあっているが、内容は冒険者のランクも名前も偽りだ。
本名でこんなところに来て、昔のことを覚えている知り合いに会うのもまずい。
「ここへは何しにきたんだ? ガンダル王国からはずいぶんと離れているが」
馬で2か月は走らなければここまでたどり着くことはできない。
流れの冒険者ではない者がうろついているのはさぞかし不思議だろう。
俺はガンダル王国の南に位置するビーランド王国と北で接している隣国の名前を挙げる。
「ちょっとヴェヤード王国まで依頼があったから、ついでにこっちに来たんだ。ここにはドラゴンがいるんだろう?」
「物好きだな、魔獣使いはドラゴンなど操れないだろうが。だが、残念だったな。ドラゴンはすでにいなくなっている。今のところ、戻ってくる気配はないな」
「なんだ、そりゃがっかりだな。だが、この国にとっちゃよかっただろう?」
消えたドラゴンは俺の肩に乗っているので、いないことは知っている。単純に話を合わせただけだが、門番の浮かない顔に、俺は思わず尋ねていた。
「そうとも言えない辛い事情があってな。まあ、ようこそビーランド王国王都ガザフへ。冒険者だから大丈夫だとは思うが、気を付けてくれ」
門番は浮かない顔のまま笑った。普通は楽しんでくれ、とかそんな言葉をかけられるはずだ。へんな挨拶に、俺は内心で首をかしげたが、彼がすぐに表情を改めたので思わず身構えた。
「黒髪黒眼の冒険者は、ここでは嫌がられるから注意しろ」
もしかして昔、俺がやらかしたからか?
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