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60.依頼達成率100%の裏側

作業の都合上、2話アップです。

よろしくお願いします。


「クロゥイン、今日が何日か知っているか?」


朝、冒険者ギルド長室に顔を出した俺に、ダグラスが爽やかな笑顔を向けてきた。

思わず、扉を閉める。

だが、扉はすぐに開いた。


「おい、待て。どこへ行く気だ?」

「お前がそんな顔をしているときはろくなことがないって知ってるだけだ!」


もう一度力技で扉を閉めようとしたが、ダグラスがそれを許さない。

まったく馬鹿力が!

お前は単なる剣士のくせにその怪力はどこからくるんだ?


扉が軋んで半壊したところで、お互いに手を放す。


「いつもの月末の片づけだよ、そんなにビビることないだろう?」

「なんだ、それならそうと言えばいいだろう。書類はどこだ」


俺はあっさりと中に入ってさっさと執務机につく。


ダグラスが指し示した書類の束に、思わず立ち上がる。


「多いぞ!」

「仕方ないだろ。土トカゲが街を半壊させるわ、レッド・カーニバルが起こるわ。てんやわんやだったんだ。一般の依頼は普通に起こるだろ。正直、まったく手が足りない」


俺はもう一度席につきながら、未達成のハンコが押された依頼書の束を眺めた。


フェーレン市の冒険者ギルドは定められた期間が過ぎた依頼は未達成のハンコを押されて上にあげられる。ガイドや手の空いている高ランクの冒険者が依頼をこなすためだ。

そうして依頼達成率100%という実績をあげている。

公にはできないが、噂を聞きつけて依頼が舞い込み、冒険者ギルドが儲かるシステムだ。


それを作ったのは俺だが、この仕事の多さは納得できない。


「ええーと、『ドキドキ・ワクワク激高樹の話を聞きにいこう』? これ、絶対ジェニファーが受けた依頼書だろう」


依頼書のタイトルは依頼の内容を受付した者がつけることになっている。無駄な装飾のタイトルで内容がよくわからないのがジェニファー作だ。

ちなみにレミアル作は『腰を痛めたサンダースさんのためにお買い物に行きましょう』だろう。丁寧なタイトルだがやる気にはならない。


他には『遊んで、探検。やって満足。フェーレン市外でのピクニック』『鼻花を1000本集めて!』などなど依頼タイトルが並ぶ。さすが、未達成だ。やる気がなくなる。


「毎回頭の痛くなるようなタイトルだな。あいつら、真面目に受付してるのか?」

「ランクA以上の冒険者たち並べて受付させてるからな。本業とはいかないだろうが、それなりにはやってるさ」

「だと、いいが。激高樹なんてもう一月近く放置されてるぞ。これは骨が折れそうだな」


激高樹はフェーレン市の隔壁の外に生えている木だ。針葉樹で固い実をつける。だいたい、実をつける頃に暴れだし実った果実を周囲に投げつけてくる。怒りに比例して飛距離が伸びるので怒りをためる前に話を聞いて宥める必要がある。


「じゃあ、片づけてくるか」

「いってらっしゃい!」

「お前も行くにきまってるだろ」

「はあ? 俺、この前の報告書が…」


にこやかなダグラスが顔色を変えて喚いているが知ったことか。彼の襟首をひっつかんで、俺は転移魔法を唱えた。



・・・・・☆・・・・・☆・・・・・☆・・・・・☆・・・・・☆・・・・・



「ばか、ダグラス突っ込むな! 『グレイシエイトゥ』」

「そんなこと言ったって! こう次から次へときては無理だ!」


暴れまわる激高樹はなんと15本。一気に殲滅しなければやつらは、木の根を使って走り去ってしまう。

周りはなだらかな起伏の丘陵地帯で青々とした草が広がっているが、実を投げつけた後だからか、ぼこぼこと穴が開いている。

壮大な光景に、しばし言葉を失ったが、すぐに怒れる実が飛んできた。

熱を持つ赤い実は当たるとやけどでは済まない。


瞬間的に凍らせて、ダグラスは剣で叩ききっている。

ちなみに、丸腰でやってきたダグラスの装備はコールで呼び出しているのでフル装備完璧だ。

備えはバッチリだろ、と俺がサムズアップしたがため息をつかれて終わった。


「『グレイシエイトゥ』『グレイシエイトゥ』『グレイシエイトゥ』って、きりがないな!」

「ええと、話を聞かせてくれー、何が腹立たしいんだあ?」


ダグラスが声を張り上げて激高樹に言葉をかける。


ざわざわと葉が揺れて不快な音を立てる。

何かを話しているようだが、うまく聞き取れない。


「なんだって? もう少しはっきりと話してくれないか!」


ダグラスが声をさらに大きくすれば、ようやく声が聞こえた。魂からの叫びのような、慟哭する声が。


「女の子と話したああああいいいい」

「可愛い子と楽しく話したいいいい」


「あれ、燃やすぞ、ダグラス」

「そうだな。いいんじゃないかな」


常識の判断を下すダグラスの許可は得た。


植物だからって手加減されると思ったら大間違いだ。

俺は火炎魔法を唱え、盛大にぶっ放した。



・・・・・☆・・・・・☆・・・・・☆・・・・・☆・・・・・☆・・・・・



「鼻花って、こんなところに咲いてたっけ?」

「サーチで検索かけたから間違いはないはずだが」


二人で転移した先は真っ暗な洞窟の中だった。

植物なのだから、成長するためには光が必要なはずだが。


「『ライト』って、ぎゃあ」

「うっわ!」


真っ暗な洞窟を照らすと一面に鼻が咲いている。横には口が大きく開いていた。

正直、ホラー話よりもグロテスクで気持ち悪い。

せめて日の光の下で見たかった。


一部だけ照らされると不気味すぎる。


「いって、噛まれた」

「大丈夫かよ、ダグ。なんだ、ここ。いつのまにこんなに鼻花と口花が繁殖したんだ?」

「そんなことよりどうやって1000本集めるんだよ」

「『カル』」


俺が呪文を唱えると、そこらの草が一気に俺の手の中に集まる。


「おー便利だな。そんな魔法もあるのか」

「探究者の中級魔法だな、俺も今初めて使ったかも」

『鼻花を475本、口花を785本採取しました』


頭の中でお知らせが響く。

インフォームの魔法は、こういうときに便利だ。


「げ、口花の方が多い。いらないんだけど」

「そういえば、鼻花だけを1000本集めたいって不思議な依頼だよな」

「いや、確かこれなんか重要な薬が作れた気がするんだが? あーだめだ、思い出せない」


目薬とか鼻薬とかだっけ?

それとも性欲増強剤だったっけ?


「ほら、摘んだやつはストレージにしまえよ。手を噛まれてるぞ」

「強化してるから、俺の体は傷つかないけどな。依頼クリアしたら、次に行くぞ」

「はいはい。つうか、これ、俺がついてくる意味なくない?」

「一人でクリアしても淋しいだろ!」

「あ、それはちょっとわかる。昔みたいで楽しいな」


駆け出しの頃はレミアルとダグラスと三人でパーティを組んでいた。

体力のないレミアルを宿に置き去りにして、魔物退治は二人で組んだりもしていた。

確かに懐かしい感じがする。


「昔っから、ダグラスはなんか叫んでたな」

「クロゥはずっとハチャメチャだったからな」


お互いをなじりあって、ふっと笑いあう。

たまには、こういう仕事も悪くない。

お読みいただきありがとうございました。

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