59.呪符の出所
よろしくお願いいたします。
「A3区画か、茶色の髪にハシバミ色の瞳ねぇ? サンダルキア市出身なら、たぶんこいつじゃないか。ジューク・オルガノ、ランクAの聖者職」
ダグラスにことの顛末を話すと、書類の束から一枚の紙を渡してくる。
身体的特徴と住まい、職業に冒険者ランク。出身地やこれまでの経歴が書かれている。
「確か妹がサンダルキア市の冒険者ギルドの事務か何かで働いてるって聞いたな」
「どっから仕入れるんだよ、その情報」
フェーレン市の冒険者ギルドへの登録日は半年前になっている。ランクAとはいえ、600人近い登録があってほとんど新人に近い者の家族構成をなぜお前が知ってるんだ。
「うちの経理担当のカエラちゃんが聞いたって話してたぞ」
「お前の業務に経理は関係ないだろう?」
「お前のおやつ代の交渉誰がやってると思ってるんだ?」
「昼寝後におやつしてる時間なんてほとんどないだろうが! 何に使ってんだよ、その金を!」
書類仕事してるか、飛び込みの仕事片付けている記憶しかない。条例で追加してやろうか。
「家族が冒険者ギルドに勤めてるのに、こっちに流れてくるってのは怪しいな」
ダグラスが話を変えるように、自然な口調で告げる。
フェーレンでは冒険者ギルドを辞めるのは簡単だが、よその市では同様ではない。特に家族が関わっているのなら、ますますギルドに縛り付ける理由になる。他のギルドへ移るなら、普通は家族も連れてくるはずだ。
ランクAの冒険者ならばなおさらだ。
もしギルドに残してしまうと呼び戻すための人質にされる。
「フェーレンに連れてくるか?」
「今回の件で居心地が悪くなっただろうが、アニキが何も俺に言わなかったんだから俺たちは、手が出せないだろ」
頼まれてもいないのに、勝手に動くわけにもいかない。向こうとしては頼めなかっただけだろうが。
「配慮はしておくか。それと相手にそんな余裕が無くなるほどのプレゼントでも送ってやってもいい」
「クロゥインの思う通りでいいんじゃないか」
許可も出たことだし、好き勝手やらせていただこう。
だが、あっさりとダグラスが頷いたことで、俺は首をかしげた。
「もしかして、ちょっと怒ってたりするのか?」
「当たり前だろ、深淵の大森林の結界を壊されたんだぞ。お前が力があるから修復も簡単にできたが、本来なら被害は甚大だ。そんなことも考えられない馬鹿が蔓延ってるのが我慢ならない」
あの温厚なダグラスをここまで怒らせるとは。基本的に、俺は魔力量などが基準値を超えているため力を振るうことに怒りは覚えない。壊されたら直せばいいし、跳ばされたら、戻ればいい。
売られたケンカは買う主義だが、そうでなければ琴線に触れることがあまりない。だから、俺の中の常識の基準はダグラスに丸投げしている。彼が怒るなら、それは正当だ。
遠慮なく、行動を起こせる。
思わずほくそ笑んだ俺に、ダグラスがああ、と不意に言葉を発した。
「そういや、結界を壊した呪符の出所というか、製作者なんだが…」
「それは言わなくてもわかってる。バングだろう?」
以前に同じパーティを組んでいたランクSの冒険者で魔道具師のバング・バンパーだ。
あいつは、いつの頃からか俺を恨んでいて、ちょいちょい嫌がらせをしてくる。
腕だけは超一流なのだが。
俺が作った結界を破壊するのもお手の物だろう。
問題は足りない魔力量だが、本来は深淵の大森林にわいた魔物の魔力で補う予定だったようだ。
結界に近づいた魔物の魔力を取り込んで2、3日かけて結界を破壊するようなプログラムが仕組まれていた。
もちろん、ジュークを核にするところは変わらない。
違ったのは、あの場にデミトリアスが配置したマルキダがいたことだ。彼女の魔力量でさっさと結界が壊れてしまった。近くに待機していた冒険者たちはろくな戦闘準備もとれずに、攻撃されたことになる。
マルキダはデミトリアス配下とはいえ、魔力量は相当なものだ。名のある悪魔なのだろうが、今のところ大人しくメイド業にいそしんでいる。
悪魔の習性は謎だ。
「お前が気にしていないなら、その件はまた保留だな。それと、こちらは別件だが、冒険者ギルド長会議なんだが、困ったことになっていてな」
「困ったこと?」
首をかしげた俺にダグラスは、二枚の紙を突きつけてきた。
その内容を見て、俺は絶句した。
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