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56.ありがとうが聞きたくて

よろしくお願いいたします。


腑に落ちない。

大いに、盛大に。


クロゥインはギルド長室に戻ってきて、自分の席に着きながら深く息を吐いた。ダグラスが書類から目を上げて尋ねてくる。


「どうした?」

「どこに行っても、感謝されずに批難されるのはどういうこった?」


戦闘をしている区画、6ヶ所を全て回った。どこも接戦を繰り広げていたため、数を減らして回復魔法をかけてきた。だが、どこに言っても隊長に怒鳴られ、終わるのだ。


ダグラスは目を瞠って、苦笑する。


「お前がやりすぎたか、素材を台無しにしたか。まあ、規格外すぎてみんな呆れただけだろう」


それはまったく褒められた気がしないのだが。


「つまり、俺は手を出さないほうがよかったってことか?」

「感謝はされてるんだろうさ。クロゥはよくやってるよ」


なら、いいか。

俺は妙に納得して、そのまま部屋を見回す。


「サジェストは?」

「サジならカーバンクルと交渉中だ。後で魔力を回復させておかないと、魔力切れで倒れるかもな」


召喚獣三体とカーバンクルまで呼び出しているとなると確かにサジェストの許容範囲を超えている。

なぜ、そんな状況になっているのかは謎だが。


わかったと告げようとして、俺はばりんと激しくガラスが割れるような硬質な音が頭の中で弾けとんだのを聞いた。

思わず、ガタンと立ち上がった俺に、ダグラスが慌てた視線を寄越す。


「今度はどうした?」

「結界が壊れた、ちょっと行ってくる」

「え、おい、クロゥイン?!」


ダグラスを残して、俺はもう一度転移した。



・・・・・☆・・・・・☆・・・・・☆・・・・・☆・・・・・☆・・・・・



結界が壊された地点に転移すると、そこにはデミトリアスとうちの館で働くメイド、意識を失った冒険者と、それ以外の冒険者たちの軍団がいた。


やや離れたところには、デスマウスの群れがいるが、俺がここにいる間は近づいて来ないだろう。


「ええと、これは一体どういう状況なんだよ?」


誰に聞けばいいのか分からず、デミトリアスに目を向ければ彼は恐縮したように一礼する。


「申しわけございません、マイ・ロード。私の監督不行き届きでございます。我が主の力の象徴である結界を壊す手伝いを、まさか私の手の内の者が行うとは!」


いつも以上に感情が昂っているデミトリアスに、ひとまず落ち着けと言いたい。


「ええと、結界を壊した理由は何だ?」


メイドに目を向けると、彼女は困惑げに柳眉を寄せる。


「冒険者を傷つけるな、との命令を受けましたので」


つまり、冒険者を傷つけないために結界を壊した?

どういう意味だ?


気を失った冒険者はどうやら魔力切れを起こしているようだ。彼の近くには木札が落ちており、俺の魔力の波動を僅かに感じることができる。結界を壊すための魔道具だろう。魔力切れを起こしたのは、その魔道具を使ったからだと推測できる。

メイドが守るために動いたということは、彼はフェーレン市の冒険者ギルドの者だが、彼は結界を壊すためのスパイということになる。


繋がった線が描き出した図に、俺の怒りが沸点に達する。


「まったく、舐められたものだ」

「配下の不始末は私につけさせてください、マイ・ロード」

「いや、これは俺への挑戦状だ。売られたケンカは買う主義なんだよ、お前はそこで見ていろ」

「かしこまりました」


恭しく一礼したデミトリアスを視界の隅に捉えながら、居並ぶ冒険者を睥睨する。


「要件を聞く前に、お前たちはここにあったモノが結界と呼ばれていたことを知っていただろうか」


落ちている魔道具はどうやら俺がガイドに渡している通行許可証を元にされているようだ。許可を拡大解釈して、消失まで書き換えた魔力量は誉めるに値する。


ほとんどメイドの魔力だろうが。

魔力を構築するための魔法陣の組み方が秀逸だ。魔道具師でここまでキレイな魔法陣を組み込むことはなかなかできないだろう。俺に匹敵する魔道具師の仕業だと思われる。


結界は侵入や攻撃を防ぐための壁だ。聖者の職業があれば作ることができる。だが、結界は中から外へ出るのは実は自由にできる。許可も要らないので、結界の中から外に向かっての攻撃が可能だ。


一方で、深淵の大森林を覆う結界は外からも中からも往き来が出来ない。中から結界に向けて攻撃しても、跳ね返されるか爆発するだけだ。


「つまり、何が言いたいかってことなんだが、これは分かりやすく結界って呼んでるのであって、実は全く別のものってことだーーー『バウンダァライズ』」


俺が両腕を広げて叫んだ瞬間、瞬く間に構築された魔方陣が浮かび上がり空へと線を描く。螺旋状に折り重なった魔方陣は縦に伸びるのを止めると真っ白な閃光となって左右へ広がる。


わずか一瞬の瞬き。


瞬きした後には、いつもの結界と呼ばれるガラスのような透明な障壁が出来上がっていた。


時空魔法の上級魔法ーーー『境界』を造り上げた俺は、ポカンと結界を見つめる冒険者たちに目を向ける。


「計画立てて壊してくれたようだが、いつでも簡単に再現可能だ。さてと、茶番はこれくらいにして本題に入ろうか。ここはまだフェーレン市の管轄だが、何用だろうか?」


ニヤリと笑いかける。

ダグラスがいれば、また脅してる顔だからと突っ込まれそうだと思いながら。


お読みいただきありがとうございました。

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