37.一夜のあやまち
よろしくお願いします。
昨日はいい一日だった。
俺は目覚める前のまどろみの中で、ぼんやりと思い起こす。
寝る前にふわふわの毛皮に包まれてほかほかと温かった。
とくんとくんと規則正しく聞こえる心臓の音が心地よくて、自分以外の温かさが嬉しくて。
すっかり熟睡してしまった。
だが、今、顔に当たるこのふにふにとした柔らかい感触はなんだろう。
思わず手で確認する。
吸いつくようなしっとりとした、弾力のある感触だ。ほどよい暖かさを感じる。
こんなに気持ちのいい枕を使った覚えはないのだが?
「クロゥ、朝だぞ! 昨日の話の続きを―――お前っ?!」
ダグラスが部屋に入ってきたようだ。俺は寝ぼけ眼をこすりつつ、体を起こす。
「ダグ、朝からうるさい…」
「バカ、お前、やっちまったのか?! ちゃんと、合意だろうな…まったくお前が幼女趣味だとは知らなかったが、そんな趣味があったとは…俺はどこかで教育を間違えたのか?」
「なんの話、だよ?」
「何って、事後だろ。寝ちゃったんだろ。ちゃんと責任はとれよ」
事後? 責任?
なんで一緒に寝るだけで、そんな大げさな話になるんだ。
「ちゃんと本人の許可はとったぞ」
「合意の上ならいいだ、お前らもいい大人だしな」
ダグラスはマヤの年齢を知っているのだろう。
さすがコミュニケーション能力の高い男だ。俺は昨日知ったというのに。
「んんー、もう、朝?」
「うわ、ごめん。俺、ギルド長室にいるからな。せめてマヤちゃんに布団くらいかけてやれよ」
マヤがみじろぐと、ダグラスが慌てて外へ出る。
俺はようやく開いた目で、ばたんとしまった扉を眺めた。
狼の毛皮をまとったマヤに布団は必要だろうか?
「なあ、マヤ。布団って―――」
かけたほうがよかったか、と聞くはずだった言葉は別の単語にとって代わる。
「な、なんじゃああこりゃああっ?!!」
「クロ、どうしたの?」
マヤも身を起こして、俺の方に顔を向けた。
金色のぱっちりとした瞳と、長いまつげ。銀色の髪も昨日の夜と同じだ。
だが、大きさが全く違う。
心なしか声も艶っぽい。
濡れたような赤い唇から吐息のような声を出す。
身長は160センチはあるのだろう。座っていても、目線がやや下に向けるだけでほとんど変わらない。
そして昨日はほぼぺったんこだった胸は大きな曲線を描いて揺れる。
ほとんどは銀色の髪に隠れているが、大きさはしっかりと確認できる。
俺が起きる前に包まれていたのは、もしかしてこれか?
「な、なんで大きく…?」
「クロが、大きいモフモフがいいってマヤ大きくした」
大きい枕で寝たかったからだ。
片腕に満たない大きさしかないマヤに抱き着いて寝ると押しつぶしそうで怖かったというのもある。
だから、確かに寝る前に成長の魔法をかけた。
三メートル近い大きさになった狼にくっついて寝た。
確かにやったのは俺だ。
「なんで、人型?」
「マヤ、人の姿のほうが長い。無意識だと、なる。人狼はだいたい、そうだよ」
「じゃあなんで、裸なんだ?」
「狼になると服は脱げる」
「そうだよなあああ…」
人型より狼のほうが、一回り以上小さくなるからだ。
つまり、悪いのは全部、俺だ。
お読みいただきありがとうございました。




