18.魔価と強度
作業の都合上、2話アップです。
話が飛んだと思われる方は一つ前からどうぞ。
よろしくお願いします。
18.
貸出屋の前に出て、三人の男と対峙した。
三人は一様にびくびくとしている。先ほど返却したプレートはEとなっていた。
年齢的には20代そこそこのチンピラに見える。
のっぽと小太りが二人だ。恰好は軽装備で、鉄の胸当てや皮籠手がせいぜいだった。
「腕に覚えがないのに、よくもギルドにたてつこうと思ったな」
「うるせぇ。俺たちは、ちょっといい剣を持ちたかっただけだろ。大体、そんないい剣をほいほい貸出すほうが悪いっ」
のっぽが吠えれば、小太り二人が追従する。
「そうだ、そうだ。出来心くらいわくだろう。それに返したんだからもういいはずだ」
「用がないなら、帰らせろ」
「大体、てめえのほうがよっぽど悪人ヅラしてるくせにイイコトするなよ! 紛らわしいだろうが」
「そうだ、そうだ。ちょっと助けてくれるかと期待しただろうが!」
彼らの言い分に素直にはいそうですね、とは言いづらい。
本気でそんな理屈が通ると思っているのだろうか。
貸出屋の前の道路には幾人かの人がまたかという顔で通り過ぎていく。
市民にとってはおなじみの光景になっているのだろう。
「俺が人相悪いのは認めるが、それとこれは話が別だ。ギルドのルールに従えない者には罰則がある。そうでないと、秩序なんてないようなもんだ」
俺は男たちが持ち込んだ銀メッキの剣を構えた。
剣は素材によっては魔価が高くなる。魔法剣士は比較的魔価が高い剣を持っていることが多い。
魔価は魔力伝達率や魔力伝導率など魔道具にした際にどれくらいの魔力が入り、どれくらい効率よく使えるのかを示した値だ。
魔価が高いものほど高額で取引される。
魔価は魔力1を使って発動する魔法を1と基準する。
職業によって魔力1で使える魔法は異なるが、生活魔法なら誰でも使える。
素材に魔力1を通して、ライト1回発動すると魔価1となる。
魔価が1を下回る素材は効率が悪く、魔価が1を上回れば効率がいい。
ただし、魔価が高い素材の強度が高いとは限らない。
強い魔力をかければ、負荷がかかり壊れてしまうこともある。
それを計るのが強度だ。
ちなみに強度の基準はどっかの親父が拳で潰したりんごにかかる圧力(握力?)を1とする。
もしくは魔力1の魔法を流して耐えられる強度が1だ。
前者はよくわからない基準だが、世界基準であるため文句はいえない。
そもそも握力と魔力は同じ圧力としていいのか?
誰だよ、一番最初に測定したやつ、とは思うが。
俺が今、手にした銀メッキの剣は鑑定の結果、魔価0.01、強度5だ。
強い魔法は流せないし、魔力は割を食う。
魔法剣士が使うには最悪の部類に入る。
「それは俺たちの剣だ、返せ泥棒!」
「返してやるよ、『ブリーズ』」
こんな剣、正直いらない。
俺が唱えた風魔法で、剣がごうごうと風をまとい、うなりを上げた。
下級魔法の微風で、暴風が現れたような威力になるのは相変わらずだ。
俺の魔法の威力は想像をはるかに凌駕するため、俺はできるだけ魔法剣士として戦うようにしている。
そうでないと被害の影響が計り知れないからだ。
消費魔力5の魔法しか使えず、俺自身の魔力は500は削られるのだからハンデとしては十分だろうとは思うが。
「な、今度は攻撃魔法?」
「つうか、こいつ魔法剣士か?!」
「もうやだ、帰りたい」
三者三様の悲鳴混じりの声がごうっと砂埃を巻き上げた砂塵とともに吹き飛ぶ。
「げやああああーーーー」
「うわあああ」
「すいませんしたーーーー」
俺が剣を横一線に薙ぎ払うと三人の体はあっさりと吹き飛んで、通りをまっすぐに転がっていく。
そのまま、はるか後方の石の壁に叩きつけられた。
「これは返しておくぞ、『リターン』」
返却魔法を唱えると、銀メッキの剣は空間を跳んで男たちの上にぽんと落ちた。
召喚士が使える魔法の一つになる。
「ギルド長、もう少し威力を抑えてくれるとありがたいです…」
少し離れたところで、庭作業をしていた男が巻き上げられた落ち葉をぼんやりと眺めてぼそりとつぶやいた。地面も少し抉れている。
これでもだいぶ威力を落としてささやかな魔法を選んだんだが。
ままならないものだ。
お読みいただきありがとうございました。




